わずか9名による圧巻の「レクイエム」 (株)メイ・コーポレーション主催 第三回 哀しみのモーツァルト

(株)メイ・コーポレーションは私の個人事務所で、独自企画の公演を主催しています。

毎年12月初旬に行うのは『哀しみのモーツァルト』です。彼の命日にちなみ、短調の曲のみを集めた公演です。

昨年は、ピアニストの横山幸雄さん、ソプラノの小林沙羅さん、エレクトーン奏者の清水のりこさん、新日本フィルのソロ・コンサートマスター崔文洙さん率いる弦楽四重奏団ほかの皆さんのご出演で行いました。

モーツァルトの全作品に於ける短調の割合を調べると、わずか4.8%でした。実はそこに名曲が集中しているのです。この4.8%は、すべて名曲です。

短調の響きは、キリスト教の教えにおいては禁忌でした。神のもたらす調和を表す長調に対して、短調は人の心を惑わせ、悪魔がつけ入る隙ができるというのです。西洋社会では長い間、音楽に感動することは罪でした。酒に恋、花や音楽に酔うことはすべてタブー。“酔う”ことは快楽であり、人間を堕落させるからです。また、夜の闇への恐怖もありました。電気がなかった時代、夜は盗賊や悪魔の跋扈する世界。町を囲む城壁も得体の知れぬ悪への備えでした。闇が消え光が満ち溢れる昼間こそ、神の時間だったのです。

近代に向かう“疾風怒濤”の時代、革命や内乱、産業の大規模化、外国との軋轢などが相次ぐなか、人々の不安が闇に変わる恐れとして音楽にも表れていったのか、音楽作品における短調の割合が、徐々に長調と逆転していくのです。

昨年の清水さんの「レクイエム」は圧巻で、「ぜひまた聴きたい」という声を多くいただきました。合唱4名、弦楽四重奏団、そして金管・木管・打楽器を受け持つエレクトーン。わずか9名での演奏は、フルオケと遜色ない響きで大きな感動を与えてくれました。

今年の『哀しみのモーツァルト』は12月2日(木)です。内容はまだ決まっていませんが、またエレクトーンを使わせていただく機会になればと考えています。

著・作曲家/三枝成彰

エレクトーン演奏/清水のりこ

2020年12月3日 サントリーホール