熱狂の本番。音楽がそこに生きていることを証明 北九州労音主催 神田 将 エレクトーン・リサイタル

師走の北九州に心温まる拍手が鳴り響いた「神田将エレクトーンリサイタル」。主催の北九州労音は、生のコンサートを聴くことを目的とした会員制鑑賞団体であり、会員の自主運営により北九州市内で数々のコンサートを主催している。コロナ禍で大きな影響を受けながらも、音楽の火を絶やさないために万全の対策を講じて開催されたこの公演に、ステージマネージャーの役を与えていただき、胸躍らせながら会場へ向かった。

朝一番の凛とした空気から本番の熱狂までの変化は、いつでも刺激的だ。主催者チームや会場スタッフも同じ気持ちを共有して準備が進む。仕上がった舞台に演者が進み、リハーサル最初の一音が場内に響く瞬間が好きだ。それを聴きながら用意されたパンフレットを開くと、事務局が執筆した曲目解説や、過去の感想文などが丁寧にまとめられており、会員にとって音楽がなくてはならないものであることが伝わってきた。

やがて始まった本番。映画音楽からクラシック名曲まで、絶妙なバランスで織り込まれたプログラムに、心を解き放ち酔いしれる客席。曲ごとに聞こえてくる拍手や感嘆、そしてそれをフィードバックする演奏は、まさに音楽がそこに生きていることを証明している。「ニュー・シネマ・パラダイス」の優しいギターが心に染み、「フィンランディア」の高密度なオーケストラの重音に真の強さを感じた。長い時間をかけて受け継がれてきた名曲と今ここにいる一人の演奏家、それと多くの聴衆による対話が作り出す一つの流れこそが、音楽を愉しむ時間である。

私もその時間を愉しんだ一人だ。たった一人で舞台に立つ姿を見て、ふと思い出した。かつての私が今と同じように音楽を愉しみ、あちら側に立ちたいと思ったことを。全神経を研ぎ澄ませ、空間のすべてを一人でコントロールするこの姿に憧れ、音楽の道を選び、目指してきた。もっと聴いていたい。そして私もそんな演奏がしたい。

著・エレクトーン演奏家/菊池玲那

エレクトーン演奏/神田 将

2020年12月8日 戸畑市市民会館