演奏のしやすさ、音の馴染みやすさも圧勝 大ホールでのエレクトーン独奏は大成功 神田 将リサイタル〜2021 Odyssey〜

2006年のカザルスホール以来、中規模音楽ホール(客席450~650程度)でのリサイタルを継続してきましたが、このたび、初の大規模ホールでのリサイタルを東京文化会館大ホール(客席2303)にて開催。パンデミックの影響で2度の延期となったものの、よいタイミングで実施でき、関係者各位に心より感謝しています。

ふだんアンサンブルや企画担当が多い中、リサイタルだけは、エレクトーン独奏を主軸に好きなことにチャレンジできる貴重な機会。一般公演では試しにくいことをやってみる贅沢な実験室としての側面もあり、エレクトーンの未来を見据えた新しい経験のために、毎回試行錯誤を重ねてきました。

エレクトーンが持つさまざまな可能性は、多くの優れた奏者によって徐々に知れわたるようになった一方、クラシック音楽の独奏楽器として、高度な鑑賞にじゅうぶん耐えうる力があることは、まだほとんど知られていません。それを証明するには、奇策を打つのではなく、まっとうな提案をコツコツと続けていく必要があると考えています。

まずは、音楽としてきちんとしていること。斬新な編曲やエレクトーンらしさの主張もいいのですが、それ以前に、クラシック音楽の系譜にちゃんと属し、ごく普通のクラシック音楽会ができることを示すために、リサイタルは体裁も内容もそのようなものにしました。

さらに、エレクトーン演奏を一層引き立ててくれる2人のゲストを起用。第1部では「シェヘラザード」に欠かせない独奏ヴァイオリニストとして松田理奈さんが、第2部では長年ステージを共にしてきたソプラノのサイ・イエングアンさんが加わり、華と気品を添えてくれました。

来場者のうち、約半数はエレクトーン公演に初参加のお客様。それが演目にある時は必ず出向くという熱烈な「シェヘラザード」マニアもお越しになり、「まぎれもなく本物のシェヘラザードだったので腰を抜かした」と言ってくださった意味を、深く噛みしめています。

また、中規模ホールから大ホールに移るにあたり、エレクトーン独奏に大ホールは、空間的に有り余るのではと心配していましたが、演奏のしやすさ、音の馴染みやすさ、いずれも大ホールの圧勝。トゥッティが無理なく鳴らせるだけでなく、ピアニッシモの浸透が何とも心地よく感じられたので、今後も積極的に使っていきたいものです。

管弦楽団の演奏やオペラ上演に使われる広い舞台に、エレクトーンがポツンと1台だけ置かれている光景は、現時点ではとても珍しく、またいささか寂しくて奇妙でもあります。このリサイタルを支えてくれた担当者は、クラシックコンサートにエレクトーンがあることを当たり前にしたいと言っていました。

管弦楽団やピアノ独奏の演奏会に出かけるのと同じように、音楽を愛する人々の心に、エレクトーンが選択肢としてごく当たり前に思い浮かぶ時代が来ることを願って、これからもごく普通の演奏会を継続していきます。

著・エレクトーン奏者/神田 将

エレクトーン演奏/神田 将

ゲスト出演/サイ・イエングアン(ソプラノ)、松田理奈(ヴァイオリン)

2021年10月31日 東京文化会館大ホール