各界のセレブが集った夢の催事でエレクトーンが貢献 コシノジュンコさんレジオン・ドヌール勲章シュバリエ受章記念催事

世界的デザイナーのコシノジュンコさんがフランスよりレジオン・ドヌール勲章シュバリエを受章したことを記念するイベントが開かれた。コシノさんの文化芸術への多大な貢献を見れば、受章は至極自然なことに思えたが、記念イベントにエレクトーン演奏を起用すると聞かされた時には腰を抜かすほど驚いた。これは昨年10月のリサイタル(東京文化会館)をお聴きいただいたことから繋がったのだが、永年にわたり世界のデザインを牽引してきた賢者がエレクトーンに何を見出し期待しているのか、最初は見当もつかず、喜びと戸惑いが入り混じった複雑な心境になった。

「誰も聴いたことのない音で、あっと驚かせたいの」

コシノさんの言葉は、常に刺激に満ちている。会話のたびにインスピレーションが与えられ、言葉の断片が見事に接合し、コシノさんの世界観が浮かび上がる。彼らの現場はとにかくスピード感がすさまじい。アイデアが出れば、たちまち形になっていく。ついていくには常に冴えていなければならないが、ぼんやりする暇などあるはずもなかった。

共演はダンサーの西島数博さんとパフォーマー3名、そして能楽師の観世三郎太さん。この顔ぶれでイベントのフィナーレを創造するというもの。ほかにオープニングとして前東京芸大学長の澤和樹さんと、大光嘉理人さん、月嶹アミさんなど気鋭の弦楽奏者10名によるアンサンブル演奏があったが、フィナーレの音楽はすべてエレクトーンで演奏した。

ダンスパフォーマンスでは、コシノさんのシグネチャーとも言える斬新なコスチュームが、まるで別の星に降り立つ未来人のように見えたことから、過去から未来へと続く生命の連鎖をイメージした宇宙的な音楽を創作しつつ、フランス音楽である「月の光」(ドビュッシー)と「ボレロ」(ラヴェル)を加えて構成。西島さんがダンスシーケンスを考案し、緩急に富み視覚効果の高いプログラムが完成した。

一方、能に関してはまったく新しい経験になった。観世さんは青年らしい初々しさを湛えると同時に、観阿弥世阿弥から続く700年の伝統をいずれ世襲する構えに風格が漂う。対してエレクトーンの歴史は未だ草創期。すでに確立している能にエレクトーンで音楽をあてるには、途方もない勇気が要った。

コシノさんからのリクエストは伝統の枠にとらわれない新しいもの。そのヒントとして「対極の美」という概念の提案があった。にわかに能を真似ても滑稽にしかならないので、能の品格をおとしめず(すなわち能の流儀にそむかず)、それでいて新しいものをとさんざん考えた末、能のリズム体系とノリをできる限り研究した上で、管弦楽風の響きと合わせることにした。特に低音域の拡充やアグレッシブな高揚感により舞の厳かさが際立ち、「対極の美」の表現に至ったものと自負している。

会場には各界からセレブリティが集い、その装いと振る舞いが醸す洗練と、コシノさんの隅々まで行き届いた美意識が調和し、夢のような世界が広がった。そこにあるエレクトーンが何ら違和感を与えず、この大イベントに貢献していたことが誇らしい。

著・エレクトーン奏者/神田 将

エレクトーン演奏/神田 将

2022年6月24日 グランドハイアット東京