エレクトーンと尺八が創造する新しい音楽 1×1=∞ 神田将×辻󠄀本好美

尺八とエレクトーンの組み合わせは、一瞬「えっ?」と思わせるが、実はとても相性がよく、過去にはジョン・海山・ネプチューンさんと松田昌さんの共演が全国で大きな話題となっている。さらに言えば和楽器とエレクトーンはとても馴染みがよく、互いの個性を引き立て合いながら面白い音楽を生み出せることが、増えつつある共演でわかってきた。一方が古来の伝統に根差し、一方は現代的な表現に長け、ともに国産とくれば、聴き手も興味津々。その期待に応えるべしと、自然と腕も鳴る。

辻󠄀本好美さんは伝統的な古典本曲からモダンなオリジナル作品まで、時代もジャンルも超越した演奏をするが、その音色も尺八らしい激した音からフルートを思わせる澄んだ音まで実に幅広い。圧倒的な表現力で空気を巧みに制御し、厳しい戒律の世界から、ごく身近な安らぎまで、色彩や温度感の変化に富んだ描写をする。特に自作曲は、今の時代を生きる人々にとって理解しやすい等身大の感覚で書かれており、ふだん器楽演奏をあまり聴かないという層からも大きな共感を得られたことが興味深かった。

また、辻󠄀本さんが描きたい世界観が明確である分、エレクトーンに求められる役割もはっきりしており、ほとんど迷うことなく寄り添うことができた。そして、エレクトーンから何かを仕掛けても、非常に敏感な反応を返してくれるので、その場ごとの即興的なやり取りを存分に楽しめた。

では辻󠄀本さんにとって、エレクトーンはどうだったのか。ヤマハのサイトにもインタビュー動画が公開されているが、音楽をアップスケールするのにまたとない相手と思ってくれた様子。こちらが共演していて強く感じたのは、他楽器と共演するときとはひと味違う音楽を引き出すことができたという醍醐味と、不可侵のように思っていた古典本曲の世界にも招き入れられた喜びだ。新しい芽吹きを生み出すことと、根の深いところに手を伸ばしていくこと。その両立を目指していきたい。

著・エレクトーン奏者/神田 将

エレクトーン演奏/神田 将

2022年11月5日 豊洲シビックセンターホール