緻密で絶妙な会話が成立するオーケストラサウンド 波多江史朗サクソフォーン リサイタル 2023

サクソフォーンの波多江史朗です。2023年3月9日、東京文化会館では自身4度目となるリサイタルを開催させていただきました。

今回のテーマは対話する音。共演者3人と会話を楽しむように演奏したいという思いをプログラムと演奏に込めました。ピアニストの島田彩乃さんとはフランクの「ヴァイオリンソナタ」をサクソフォーンとピアノで。この曲はイザイ(Vl.)の結婚を祝って作曲されただけに、作品全体が音楽の会話そのもの。島田さんは私が突如として本番で閃いたアイデアにも笑顔で返してくれる心強いパートナー。本番の瞬間を大いに楽しむことができました。

バリトンサクソフォーンの本堂誠さんを迎えてのダマーズ作曲の「トリオ」。本堂さんの柔らかくも力強い低音に支えられながら、室内楽としての楽しい時間が流れました。

メインに持ってきたのはサクソフォーンの重要なレパートリーであるリュエフ作曲の「コンチェルティーノ」。このいかにもフランス的な作品の色やスケールを表現するにはピアノ版よりオーケストラでしょう。そこで我らが神田将さんの登場です。神田さんには前回2021年のリサイタルでも協奏曲をお願いしたほか、全国各地での演奏会でも長年共演してきた仲。エレクトーンにとっては難しいような音色や演奏に対する私の注文にも、今まで通りかそれ以上に真摯に向き合っていただきました。神田さんにかかればオーケストラのサウンドでありながら、何十人もで演奏するオーケストラとでは不可能であろう、緻密で絶妙な会話が成立します。

聴きにいらしたお客様の感想で「神田さんはまるで魔法使いのようだった」という表現が印象的でした。そう言えば神田さんがサインに“音楽は魔法"という言葉を添えていたのを思い出し、この人はやはり音楽の魔法使いなのだと妙に納得したのでした。

サクソフォーンは管楽器としては現存する最新の楽器。さまざまなスタイルの音楽で活躍できるという点でもエレクトーンとの相性が良く、今後も末長く共演していきたいと願っております。

著・サクソフォーン奏者/波多江史朗

エレクトーン演奏/神田 将

2023年3月9日 東京文化会館小ホール