エレクトーンだからこそ紡げる音楽観を提示 神田将エレクトーンリサイタル 響像2023

今年も東京労音にチャンスをいただき、5月12日に東京文化会館で6回目となるリサイタルを開催しました。近年はゲストを迎えてのアンサンブルが続きましたが、今回は5年ぶりに全曲エレクトーンソロで開催すると決め、改めてエレクトーンで何をやりたいのかを自問しながら構成したリサイタルです。

第1部は、映画音楽から「タイタニック」と「オペラ座の怪人」、ホルスト作曲の組曲『惑星』より「火星」「金星」「木星」を抜粋で演奏しました。これまでクラシック音楽に特化して活動してきましたので、原曲のニュアンスを損なう編曲はしたくないのですが、何かエレクトーンらしさを盛り込みたいと常々考えています。そこで、オーケストラの響きはそのままに、随所に電子音を散りばめる工夫をしたところ、個性的な演奏にすることができました。

もうひとつ、面白いことをやってみたいと思い、昨年、能を経験したことを取り入れ、能が始まるときに奏でられる「お調べ」をエレクトーンで弾いてみました。能管の特徴的な調子を鍵盤で表現するのに、あれこれと試行錯誤する時間が楽しかったものの、どう受け止められるか自信のないまま披露しましたが、「お調べ」からそのまま「火星」に突入するという流れも自然だったとご好評いただきほっとしています。

第2部はムソルグスキー作曲の組曲『展覧会の絵』をメインに据え、その管弦楽編曲の偉業を讃えて、ラヴェル作曲の「亡き王女のためのパヴァーヌ」を前奏曲代わりに配置するという趣向に。ラヴェル編曲の管弦楽版をベースに、パイプオルガンを加えた音作りを施し、響きとしてはオーケストラを聴いているような雰囲気でありながらも、音楽としてはピアノ独奏版の無骨で粗野なニュアンスが感じられるという、エレクトーンならではの『展覧会の絵』を意識しました。

決してオーケストラの再現ではなく、かといって単音色楽器の独奏でもない、エレクトーンだからこそ紡げる音楽観を提示したいというのがひとつの狙いでしたが、それを言葉で示すまでもなく、お客様が自ずとそう受け止めてくれたことに、喜びと驚きを感じています。

また、久しぶりのオールソロを通じ、エレクトーンという楽器への理解を深めるという点では、やはりソロに勝るものはないと確信しました。伴奏やアンサンブルにもすばらしい価値と醍醐味があることは、無数の経験でじゅうぶん承知していますが、この「聴覚からの情報と視覚からの情報がまったく一致しない楽器」を違和感なく鑑賞できるようになるには、アンサンブルを聴く前にソロをじっくりと聴いていただきたいと思うのです。

2024年はエレクトーン演奏活動を始めて30年となることを踏まえ、5月3日に記念のリサイタルを同じく東京文化会館小ホールにて開催することが決まりました。ピアノやヴァイオリンを聴くように、エレクトーンが音楽鑑賞の選択肢として当たり前になることを目指して、歩みを進めてまいります。

著・エレクトーン奏者/神田 将

エレクトーン演奏/神田 将

2023年5月12日 東京文化会館小ホール