赤塚博美(あかつか・ひろみ)

小柄な身体が大きく躍動する熱い演奏。オペラの世界観を音楽で表現すべく心血を注ぐエレクトーン奏者の赤塚博美さん。年間、250曲から300曲近いオペラや歌曲、クラシック曲などをコンサートで演奏する。2012年夏、本場イタリアでのオペラ上演にも参加。

—赤塚さんとエレクトーンの出会いを教えてください。

小学3年のころお友達の影響でピアノを近くの個人の先生に習い始め、そこにエレクトーンもあり、友達がかっこよく弾くのがうらやましくて、両親に習いたいと頼みました。そのころ、10歳で「私はエレクトーンを弾く人になる!」って決めていました。エレクトーンが大好きで、両親が合唱をしていたので家にはいろいろな譜面があり、それを片っ端から即興で弾き尽くしていました。高校時代にはいわゆるプロへの登竜門だったコンクールに挑戦しました。プレイヤーになってから作曲のレッスンも始め、大作曲家の曲が参考になると聞けば、レッスンの帰りにスコアとCDを買って帰り何度も読んでは聴いていました。今でも、人から「もういいよ」と言われるくらい、暇さえあれば譜面を見てCDを聴いています。

—オペラと出会われたのは?

初めてのオペラの伴奏は、ヴェルディフェスティバルという催しで、ベルリンでも活躍されたオペラ歌手ウィリアム・ウーさんとご一緒しました。音楽の深さ、本格的な指揮者とできる喜び、なんで私はこんなに何も知らないんだろうというショック、もっと知りたいという気持ちといろんな思いがあふれました。その後、1988年にミラノ・スカラ座の一行がエレクトーンシティ渋谷の前身の電子楽器東京分室に視察とトライアルレコーディングで訪れ、名ピアノ伴奏者であるG.ピサーニさんと出会いました。ピサーニ先生の伴奏を聴いたときの衝撃は大きかったです。あの感激がなければこんなに長くオペラをやっていたかわからない。直接教えてほしいとお願いして、以来、毎年のようにイタリアまでレッスンにうかがっています。

—オペラ伴奏の醍醐味とは?

オペラでは、いろいろな場面やキャラクターを舞台が見えるかのように音楽で表現していきます。物語があるのでそれがわかりやすいのがいいですね。内面的な気持ちも読んで、独り言を言って歌っている場合と相手が相対して語っている場面の違い、距離感や舞台の中での位置関係もいろいろあって、フレーズが持つ意味合い、どこに行きたい音なのかを立体的にとらえられます。

—ソロ演奏とオペラの伴奏の違いはなんでしょうか?

音楽を自分が掌握しているというところは、一緒だと思います。全体を見て音色を作ったり、演奏したりしていくのに、エレクトーン奏者は指揮者的な感覚が必要です。メロディーと伴奏を弾く場面でも、メロディーだけ頑張っていればいい音楽になるわけじゃなくて、伴奏がメロディーを盛り立て、歌いやすいように演奏します。オペラでは奏者同士の駆け引きもあり、それがたまらなく面白いんです。みんなでひとつのものを作っていくという感じがあります。

—エレクトーンを演奏していて悩まれることは?

どうやって音楽を表現するかですね。それはどんな楽器でも同じでしょう。エレクトーンも同じように悩むべき。声楽家も指揮者も、すごい努力をして、思った音楽を表現することを目指してやっています。私も一緒に参加して、多くの人から教わったと思います。機能が先じゃなく、音楽を表現するところが第一だというところでやっていれば、とくにクラシックの方たちには受け入れてもらえると思うんです。

—エレクトーンの良さとはなんでしょうか?

フレキシブルなところ。いろんな面で自由ですよね。音色はもちろん、音楽のジャンルも自由。歌曲の伴奏で1対1のコンサートの場合など、会場の響きとかそのときの調子もあり、歌手は歌い方を変えてきたりします。リハーサルはサラッと終わって、本番は本気で歌っちゃったりするから、そう来るんだったらと臨機応変に。「これはエレクトーンじゃなけりゃできないよね」って言ってくださる。タッチによる表現力のおかげです。テノール、バリトン、ソプラノと音域全体の兼ね合いで、高い人には下の音域を充実させて演奏してバランスを考え、即興演奏が身に付いているので、ピアノ譜を見ながらオーケストラ・アレンジで弾いていくこともできます。オペラのアリアなどはトラディショナルなテンポがあるので、それが把握できていればどんな人ともやっていけると言われています。

—最後に、赤塚さんにとってエレクトーンとはなんでしょう?

難しい質問ですね。人生そのものですかね。なかったらどうなっていたでしょう。オペラを始めてエレクトーンの良さがわかりました。エレクトーンが好きだったけど、好きさがもっと上がった感じですよね。ここが素敵なところですと言えるようになった。幼いころのシャイなところは自分にまだ残っていますが、エレクトーンで音楽に携わっていることによって、積極的に変わって行けたと思います。