小林由佳(こばやし・ゆか)
6月に行われる横浜開港祭の1000人コーラスの演奏は15年、水戸芸術館広場で行われる12月の水戸の街に響け!300人の《第九》は13年……、エレクトーンでなくては成り立たない公演で毎年演奏を担当する小林由佳さん。幼いころからピアノとエレクトーンを両立してきた音楽歴にその演奏の秘密がある。
—エレクトーンを始めたきっかけは?
小学校1年生からピアノを、1年遅れてエレクトーンを始めました。たまたま家族で食事にでかけたところでエレクトーンを弾いていて、父が「これからはエレクトーンの時代じゃないか」と言い出して。小さいころは、父が会社の人を家に連れてきて、メロディーとコードだけ書いてあるいわゆる「赤本」でカラオケ替わりに弾いてました。「イントロがなけりゃ歌えない」といわれて、わからないなりにイントロをつけるようになったり。それで初見と即興を覚えたようなところがあります。グレード受験にも役立ちました。
—ピアノとエレクトーンを両立されてきた理由は?
ピアノはクラシックをすごくスパルタで厳しい先生に鍛えられ、エレクトーンではポピュラー曲を好きに弾けるのが楽しかったですね。JOCなどにも参加させていただいて、それがきっかけでさらにのめり込み、ピアノもエレクトーンも両方続けて今に至る、という感じです。
—1993年7月に水戸芸術館で行われたオペラ『魔笛』公演でエレクトーン伴奏をされ、朝日新聞紙上で音楽評論家の故・吉田秀和さんに高く評価されました。
大学を卒業してエレクトーンシティの仕事でオペラの伴奏を始めて少しした頃だったと思います。当時は、まだエレクトーンは結婚式場の楽器という認識で、クラシックにはどうなのかという反対意見もあったようですが、公演の練習ピアノをずっとお付き合いさせていただいていたので、歌っている側からすると、いつも伴奏ピアノで演奏してくれている人がそのままエレクトーンで演奏するということで安心感があったのではないでしょうか。エレクトーンでクラシックを演奏したのはHX型の頃からですが、EL型になって、レジストレーションの先送りができるようになり、長時間のオペラ公演でも対応できるようになったんです。この公演以降オペラの仕事も増え、それをきっかけに、合唱でも使ってみようかというふうにどんどん膨れ上がってきました。最近は、合唱の伴奏が多いです。
—合唱では、横浜開港祭の1000人コーラスの伴奏にも長く携わっていらっしゃいます。
開港祭の場合、全員一緒にはできないので、午前と午後に分かれて練習を7回ほど行いますが、全回練習ピアノでおつき合いします。前年末に曲が決まり、2012年からはコーラスアレンジも依頼されているので、3月にはピアノとコーラスアレンジを終え、そのあと練習に入って、本番のエレクトーンのアレンジを並行して進め、準備は半年がかりになります。今ではエレクトーンでなくてはできない催しとして定着しました。茨城では、大きな合唱団のほとんどで定期演奏会などにエレクトーンを使っていますね。最近の合唱団の演奏会はプログラムも多岐にわたっていますが、アレンジができるので「譜面がないけれど、この曲を演奏したい」という要望もいただいたりします。エレクトーン奏者はエレクトーンが弾けるだけではだめ。アレンジを身につけて楽しさを感じていないと行き詰まります。また、いろいろなジャンルを把握していることも大切ですね。
—アレンジの方法は?
以前はスコアを見ながら演奏していましたが、譜めくりのタイミングや神経を使うことが重なり、自分で納得できなくなった時期があって、自分でエレクトーン譜を起こして残しています。2台バージョンで作って、セカンドの方が替わっても大丈夫なようにアレンジしています。エレクトーンで良かったと思っていただけるよう、次のコンサートに向けた準備は納得するまでしますが、準備時間の7割はアレンジに費やします。やり始めちゃうと20時間寝ないで続けたり、4小節に何時間もかかったりするんです。アレンジしてある曲でも毎回、発見や思いつきが出てきたりするので、書き直したり…。私はエレクトーンの機能を前面に使うタイプではないけれど、自分の知っている範囲で自分の音楽を表現できるように使うタイプ。STEGEAはエディット機能など、演奏をしやすくする機能や音色を増やせる機能もあり、使えば使うほど発見があります。大変ですが、考えてみると仕事と思ってやったことはないですね。エレクトーンが好きでやっているんでしょうね。
—最後に、小林さんにとってエレクトーンとは?
ピアノとエレクトーンは、自分のなかではひとつの楽器なんです。どちらもなくてはならない楽器です。エレクトーンはアレンジもできるし、指揮者の立場にもなれるし、ソロの演奏もできる。音楽に関わるすべてのことができる楽器なので、身体の続く限りは弾き続けたいと思います。