清水のりこ(しみず・のりこ)
2012年5月6日、ゴールデンウィーク最終日に清水のりこさんの演奏により銀座ヤマハホールで行われた『トスカ』ハイライト。トップオペラ歌手と清水さんとが立ち上げた“自主公演”が、大反響を巻き起こした。
—清水さんは九州・福岡の出身で、結婚されて東京にいらしたのは何年ですか?
2005年です。人が多いところでは慣れなくて、まだおどおどしてしまうのですけれど…。森下絹代先生に紹介していただきエレクトーンシティ渋谷を訪れたのが結婚1年目。最初にいただいたお仕事は、2006年10月の團伊玖磨作曲のオペラ『ちゃんちき』でした。4歳から音楽を学んで、高校・大学のころには、いつも演奏のことを考えたり、悩んだりする毎日を過ごせる人生にできたらいいなと思っていました。福岡ではオペラへの憧れを持ちつつ、現代音楽や合唱など、あれもこれも楽しいと思ってさまざまな演奏活動をしていましたが、東京で気持ちも新たにキャリアをスタートさせ、今ある仕事も縁が縁を呼んで、広がってきました。
—2012年のヤマハホールでの『トスカ』ハイライトは自主企画による公演だったそうですが?
そうです。2010年12月に自主企画コンサートをエレクトーンシティで行ったのですが、そのときに、オペラ歌手の小川里美さん、与那城敬さんに出ていただいたんです。その後、与那城さんともっとクリエイティブなことをやりたいね、と話が盛り上がり、こけら落とし公演を聴きに行ってヤマハホールに音の良さに感激して、ここでオペラを!と小川さん、高田正人さんと、4人で『トスカ』ハイライト公演を行うことになりました。演出とナビゲーターには彌勒(みろく)忠史さんが参加してくださいました。彌勒さんは、カウンターテナー歌手であり、昨年度の芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞され、多方面で活躍している方です。
—『トスカ』ハイライト公演は大成功! ご苦労もあったのでは?
指揮者もいない公演ですから、歌い手も私も内容をよく把握していないとできなかったですね。歌い手さんは大変だったと思います。彌勒さんはシンプルを徹底しつつ、妥協を許さない演出で引っ張ってくださり、ナビゲーターとしても素晴らしかったです。大きな達成感を得ることができました。公演の2日後にはヤマハ主催の再演が早々に決まり、3ヵ月後には実現できました。並行して、彌勒さんの提案で“エレクトーンによる独自のオペラ公演”を継続していこう!と。二期会デジタリリカのオペラ公演に発展しました。「デジタリリカ」とは、Digitalデジタル=エレクトーンによる演奏とlyricaオペラを組み合わせた造語です。
—そのデジタリリカ公演も、2013年に入り、六本木の東京ミッドタウンでの野外オペラガラコンサート(4月27日)、長野県上田市の信州国際音楽村の野外星空オペラ『トスカ』ハイライト(6月1日)など順調な滑り出しです。
東京ミッドタウンの公演は、ヴェルディの『椿姫』と『リゴレット』からでしたが、ヴェルディの勉強をさせてもらいました。きれいな音で演奏するのは当たり前で、ヴェルディらしさとは何か? それを考えさせられました。歌い手さんはその勉強をずっとしてきているわけですから、弾き手がわかっていないとなじみません。いつもそうなのですが、歌い手さんと合わせる前に、ピアノで譜読みをして表現できてからエレクトーンに向かうこともありますし、指揮者にもご指導を仰ぎ準備します。歌い手さんには事前に「なんでも言ってください。妥協しないでくださいね」とお伝えしています。
—歌い手さんからの要望も積極的に聞かれるのですね。
勉強不足のところを教えてもらいます。いわゆるオペラの世界の慣習、楽曲の決まりなど知識は全く及びません。歌い手の皆さんの中にいると、発声の話一つでも勉強になります。エレクトーン奏者はどうしても音のきれいさだけを追求してしまい、音を完成させた時点で終わりにしてしまいがちですが、音のきれいさだけではクラシックの世界では受け入れられなかったりします。逆にきれいだと思った音がけばけばしく感じられたり…。最終的には、歌い手がより引き立つようにと考えています。勉強不足に落ち込んでは這い上がり、また落ち込んで這い上がり、音楽のためならば苦しみが楽しみになるという、音楽的ドMなんです。
—ジムにも熱心に通って、身体を鍛えているとか。
有酸素運動30分、筋トレ1時間、そのあと有酸素運動30分を週2回から4回、パーソナルトレーニングで、エレクトーンを弾くための身体作りのプログラムをトレーナーに組んでもらっています。楽しいです。歌い手の皆さんもジムに通ったりランニングしたりヨガをされたりと、それぞれしっかり鍛えていらっしゃるんですよ。
—最後になりますが、清水さんにとってエレクトーンとは?
相棒でしょうか? 普通にいてくれる、大事な相棒です。だから練習のあともしっかり磨いています。