山木亜美(やまき・あみ)
オペラに魅せられ、数々の全幕公演でエレクトーンによるオーケストラパートを務める山木亜美さん。とりわけ、プッチーニの『ラ・ボエーム』は特別、と語ります。
—エレクトーンとの出会いは?
4歳でヤマハ音楽教室の幼児科に通いはじめて長く通っていました。大学受験当時は大学で電子オルガンが学べるようになったばかりの頃で、私は首都圏で最初にできた洗足学園短期大学音楽科電子オルガンコース(当時)の3期生です。それまではポピュラーしか弾いていなかったので、クラシックは大学で初めて森下絹代先生に就いて学びました。入学前の講習会で1小節弾いたら「はい、いいです」と止められたくらいでしたからレッスンは厳しかったですね。大学在学中には寺島尚彦先生(故人)が学内外で演奏をする機会をたくさん作ってくださって、富岡ヤスヤさんのようなデモンストレーターになりたいと思うようになり、大学卒業後、ポピュラーを学ぶためにヤマハ音楽院に通いました。
—最終的にクラシック、オペラの仕事を選ばれたのは?
洗足時代の同期とクラシックの自主公演をエレクトーンシティでしたり、クラシックを弾く機会は途切れず、森下先生のレッスンやコンクールでも弾いていたんです。ヤマハ音楽院卒業後、シティのスタッフからクラシックの仕事を声かけていただいて、やっているうちに楽しくなって…。
—オペラを手がけるようになったきっかけは?
初めてのオペラは、舞台初演の『智恵子抄』でした。オペラのことを何も知らない私には大変な試練でした。弾けなくて、家でもリハでも泣いていました。できないとは言いたくないという気持ちだけでなんとかやり遂げました。もうオペラは無理と思いましたが、そのすぐあとにいただいたお仕事でオペラ『ラ・ボエーム』と出会い、好きになりました。同じ指揮者と3年連続でご一緒することができて、どんどん曲のことや指揮のこともわかってきて、オペラをやっていきたいと思うようになりました。いろいろなオペラの全幕公演をやってきましたが、『ラ・ボエーム』は特別で、これまでに十何回も演奏しています。今年2月にも最初にお世話になって、私の成長も楽器の変遷も知っている指揮者の方と『ラ・ボエーム』をやりましたが、打ち上げの際に、「エレクトーンすごくよかったよ、エレクトーン2台でできる、と今回確信した。次も絶対エレクトーンでやりたいね」とおっしゃってくださった。今までやってきたかいがあります。音楽を通じて合うもの、音楽観が一緒でつながっていくのだなあとますますこのオペラが好きになりました。
—音作りから本番時のバランス調整など、工夫されていることは?
奏者はそれぞれ誰かに教わることはなく、実践でノウハウを身につけていきます。演奏はエレクトーンが2台の編成が多く、生の管や弦も加わることもありますが、基本的にアンサンブルで、指揮者が付きます。指揮者が音色やバランスの指示をし要求をくださるので、それに応え、本番の積み重ねで引き出しを増やしてきました。機種が変わっても大変だとはあまり思わないですね。最初の『ラ・ボエーム』はEL-90で、どうしてもスコアから取れなくて省いた音色が、STAGEAだと、例えば各音色でキーが変えられるトランスポーズの機能を使ったりすると、今はできる、取れるぞ、弾けるぞ、できちゃうぞ、とうれしくなります。また、自宅での練習時とリハーサル時、本番とでは聞こえ方が違うので、リハーサル時に客席で録音して確認するようにしています。
—オペラを観にも行かれるのですか?
観に行くのも好きです。新国立劇場ができたばかりの1998年1月のフランコ・ゼッフィレッリ演出・美術・衣裳による『アイーダ』のチケットが取れず、悔しい思いをしていたら、助演(エキストラ)を募集していたので応募したら通ってしまい、出演しました。奴隷の役と民衆の役とお付きの役で。普段、オケピットで弾いていると舞台の様子を見られないんですよ。それを全部裏から見られたので、うれしかった。舞台の上からオケピットも見られて、ギャラも出ましたし、お仕事として楽しみながら、オペラがますます好きになりました。
—ご家庭を持ってからも精力的です。
ありがたいことに実家が近く協力してくれますし、仕事を通じて知り合ったので、主人も仕事に対して理解をしてくれています。妊娠8カ月までオペラやって、産後2カ月で本番があって…。そういう状況でもサポートしてくれます。小学生の娘も機嫌よく送り出してくれます。夜6時にはご飯にして娘を早く寝かせ、朝は6時には起きてご飯を作る生活ですから、平日普通の時間帯は練習できません。みんなが寝てから朝まで練習、みたいな。弾くこと好きなんでしょうね。体力もありますし、寝てなくても苦労だとか嫌だとか思ったこともない。練習はしっかりやりたいですし、本番が終わると次も頑張るぞ!という達成感があります。
—これから、やってみたいオペラは?
弾いたことのない演目をやりたいですね。オペラならばどんなものでも。
—最後に、山木さんにとってエレクトーンは?
エレクトーンがなかったら今の私はいない、あって当たり前のもの。エレクトーン取られちゃったら困っちゃいますね。そんな自分は、考えられないです。どんな時でも自分とまっすぐ向き合ってくれ、受け止めてくれる親友・仲間・家族みたいな存在です。