黒澤有香(くろさわ・ゆか)

エレクトーンのアンサンブルの魅力に惹かれてオペラの世界に入った黒澤有香さん。オペラは、心を込めた一音でさまざまに変化する“生きもの”。その奥深さを語ってもらいました。

—エレクトーンとの最初の出会いは?

6歳の6月から、家の目の前にあった個人のエレクトーン教室で習いはじめました。本当はもっと早く始めたかったのですが、父が「6歳の6月から始めた習い事はものになる」というジンクスにこだわって。グレード6級を取ったあと小学校5年生の頃からは、ヤマハ音楽教室に通いはじめました。私は、6歳で始めたときから「エレクトーンの先生になる」と決めていて、小学校の卒業文集には「エレクトーン奏者になって全国を回ってその素晴らしさを伝えたい」と書いていました。その頃出場していたコンクールではゲスト演奏を楽しみにしていて、プレイヤーさんに憧れていたのですね。

—現在は、主にオペラの演奏をされていますが、きっかけは?

東京コンセルヴァトアール尚美(現・尚美ミュージックカレッジ専門学校)に入学して、アンサンブル指導を受け、尚美アンサンブルカルテット(SEQ)の活動でも西岡奈津子さんたちとガラコンサートで演奏するなど、オペラを演奏する機会を得て、それがきっかけですね。エレクトーンという楽器は元々ソロで弾きながらもいろいろな音を聴いて奏でる一人アンサンブルの楽器ですから、ソロであろうがアンサンブルや歌の方と一緒であろうが、聴く耳は同じなのかなと思うんですが、私は、ソロではなく、アンサンブルをやっていきたいと思いました。

—オペラの魅力は?

オペラは奥深いんです。例えば『カルメン』でも演じ手によって、指揮者によって、演出によっても全然違いますし、ひとつとして同じものはない。また、音楽によってドラマが変わります。歌い手さんの歌も私たちの演奏する一音でまったく変わってきてしまい、歌を生かすことも殺してしまうこともできる…。オペラは上演時間が長いですから、いかにモチベーションをコントロールしてクライマックスに持っていくか、大好きですけど、難しいし、恐ろしい。弾ききったあとにわかるんです。今日はどんな音楽だったか。音楽とドラマとうまく持っていって弾ききったときもあれば、うまくいかないときも。生きものですね。17年続けてきて、西岡さんとともにアーツ・カンパニーのオペラ『カルメン』公演では、日本全国を回りましたが、同じ弾き方をした公演はないと思います。

—エレクトーンの演奏で一番気をつかうのは?

よく、音色にこだわって作っているのですか、と聞かれますが、プリセットの音色がいい音になっているのでこだわりません。最終的には演奏です。プリセットの音色も弾き方ひとつでまったく聞こえ方が違ってくるんです。弾きはじめの一音を出すのに一番気をつかいますね。実は、私、尚美の恩師(古屋國忠氏)に、歌うことと一音を出すことだけのレッスンを2年間かけて学んだんです。それまでは楽譜どおりに音を鳴らすことはできても、表現がまるでできていなかった。今振り返ると、一番大事な、贅沢な時間を費やすことができたと思います。今、コントロールできるようになっているのもそのおかげです。

—オペラの演奏で苦労されたことは?

オペラでは、当初、指揮者の振る指揮棒がきちっと見られるまで、音の出に苦労しました。まだ早いまだ早い、もうちょっと遅くと言われても待てなくて…。歌う人によって、体調次第でもテンポなどがまったく変わってくるので、その辺は今でも気をつかいます。あとは、聴く耳ですね。自分たちの演奏がどんな響きをしているか、弾いていてわかる耳に鍛えるのが大変でした。

—最後に、黒澤さんにとってエレクトーンとは?

自分を一番正直に表現できるのがエレクトーンだと思っています。エレクトーンのシンプルな音でも、私自身が弾くことで思いがそのまま表現できる。だから、私を表現したいときは、エレクトーンを持っていきます! 好きな1音を選ぶとしたら、ストリングスですね。弦楽カルテットの4声で弾くのが私らしいかな。