大竹くみ(おおたけ・くみ)

エレクトーンだけでなく、ピアノ、パイプオルガン奏者として、また、作・編曲家、指導者としても活躍する大竹くみさん。全国の多くの合唱団で歌われているフォーレの「レクイエム」など、エレクトーン伴奏ならではの魅力を伝える手腕は見事です。

—音楽との出会いは?

4歳10ヵ月でエレクトーンを習いはじめたのが出会いです。父が結婚式場でエレクトーンを聴いてきて、エレクトーンという面白いものがあるよと話していたので、面白いことならやる!と始めました。歩いていけるところにあったホーム教室でしたが、初めて行ったときのことはハッキリ覚えています。鍵盤を押すと音が出るのがとにかく楽しかった。家にはおもちゃのピアノしかなかったので、エレクトーンC-1Bを買ってもらい、楽器のそばを離れたくなくておやつも楽器の前で食べるほど、大好きでした。

—JOCでは海外に行かれるなど、活躍されていました。

小学校入学前に初めて作った曲は「コーヒーカップ」という曲でした。最初の先生がご結婚されて遠くに行かれたので、小学1年生からはヤマハ音楽教室のグループレッスンに通うようになりました。JOCで初めて合歓の郷に行ったのは小学4年生。5年生から中学2年生の間にオーストラリア、アメリカ、チェコスロバキア、ベルギーに行きました。JOCの仲間とは不思議な繋がりの強さがあり、今でも連絡を取り合って遊びに来たり行ったりする友人もいるし、一つ上には加曽利康之さんもいます。いろいろな方(大人も子どもも)と出会えて、貴重な経験でした。

—作曲に本格的に取り組みはじめたのは、いつ頃からですか?

中学校1年か2年の頃、はいむるぶし(沖縄小浜島のリゾート)の竣工前に故川上源一さんに連れられてでかけたときに、大島ミチルさんもいらして、これから大学で作曲を学ぶと聞き、『作曲の勉強』があるのなら私もやってみたいと思ったのです。國越健司先生に中学2年の秋から大学受験まで見ていただきました。獣医とか脳外科医や料理研究家と、いろいろなりたいものはあったのですが、音楽家になろうと決めたのは高校の頃です。大学では三善晃先生に就き、研究科も含め6年間お世話になりました。

—合唱の伴奏を始められたきっかけは?

ずっと忘れていましたが、エレクトーンによる合唱伴奏の最初は、三善晃の作った「トルスⅡ」(1961年)という合唱とエレクトーン、ピアノ、打楽器のための曲を東京混声合唱団や藤沢の湘南市民コールで演奏したことでした。それがきっかけです。三善晃はエレクトーンの曲も作っていたんです。1990年の秋には青山劇場で、バレエ、歌舞伎、児童バレエ、モダンバレエなど舞踊の要素を集め『竹取物語』(音楽:三善晃)を上演しました。その際、連弾ピアノとエレクトーンで録音した稽古用音楽の評判が良くて、当初はオーケストレーションする予定だったのが、稽古用にアコースティックの打楽器と新たなエレクトーンパートを被せる形で上演されました。

—合唱の伴奏では、大竹さんの編曲、演奏によるフォーレの「レクイエム」が話題となり、多くの合唱団が演じています。オルガンとオーケストラサウンドのバランスが絶妙で、エレクトーンならではの作品です。

「レクイエム」はかなりの回数を演奏していますね。エレクトーンの機種も何台かにわたっているはずです。曲についてよく勉強しておくことはもちろんですが、なぜその楽器を使いたいのか、ものすごく考えます。私が表現したいものは固まっていて、表現する楽器がたまたまエレクトーンなら、そこで最大限いい音で演奏するということです。エレクトーンはバランスが命。短時間でそのホールの音に作るのが私の使命だと思っています。楽器に使われてはいけない、楽器を扱える人になって扱おうと思っています。

—コンクールの審査もされていますが、コンテスタントへのアドバイスは?

音色に頼らず、たとえばピアノ1音色しかないところでどれだけ多彩な表現ができるか。そこを一生懸命学んでほしいですね。いろいろな楽器を知っていてほしいなと思います。エレクトーンは生の楽器と違い、あり得ない音域の音を出すこともでき、それが長所でもあるけれど、知っていてやるのと知らないでやるのでは全く意味合いが違います。その上で演奏のスキルを磨いてほしいですね。

—ピアノやパイプオルガンも演奏される大竹さんにとって、エレクトーンとは?

幼少の頃の出会いとしては、エレクトーンは今の仕事のきっかけとなった楽器であり、なくてはならないものの一つではあるのですが、表現の手段の一つかな。特別ではないんです。ピアノ、パイプオルガン、エレクトーンとの距離は同じです。それは、書く仕事、弾く仕事、教える仕事との距離感もそうなんです。どれも専門で、すべて私にとって同じ距離にあります。といっても、演奏している最中は、もちろんあなた(その楽器)が一番と思っています。