柿﨑俊也(かきざき・としや)

寡黙で穏やかな風貌、近年めきめきと活躍の場を広げる中堅男性プレイヤー、柿﨑俊也さん。主にオペラの伴奏を手がけている。小学生の頃にHS(エレクトーン機種)が登場したという世代、そのこだわりの音作りに定評がある。

—エレクトーンはいつから始めたのですか?

7歳の小学2年生からです。6歳離れた姉が弾いていたエレクトーンがとても大人っぽくてかっこよかったんです。姉からは「触ってはダメ!」と言われて、「習うしかない!」と自分から言って始めました。

—始めてみていかがでしたか?

それが、すぐ飽きる性格で、1年くらいでいやになってしまって。そんな僕に先生がゲーム音楽を勧めてくれました。ゲーム機がない家だったので、音楽から「ドラゴンクエスト」を知りました。エレクトーンのCDやオーケストラ盤を聴いたら楽しくなってやる気が出て、自分からどんどん練習もしはじめました。HS(※エレクトーン機種)が家に来てからは、それはもう、エレクトーンに夢中でした。宝箱のような感覚で触っていました。

—中学・高校時代は?

小学生の気持ちのまま、中学でもエレクトーンを続けるのですが、部活は陸上部で短距離をやっていました。厳しい練習を終え、勉強もあってへとへとでもエレクトーンは弾いていました。高校では吹奏楽部に入りサックスを担当しました。それまでエレクトーンではすべてひとりでやってきたものを、単音しか出ない楽器が何十人も集まって演奏し、自分がハーモニーの一部になるのが楽しくてしかたがなかったですね。高1の時に卒業後は音大を目指すことを決めました。

—洗足学園音楽大学電子オルガン科に進学されました。

その頃、洗足ではアンサンブルの授業や演奏の機会が多かったと思います。最初に印象的だったのは、チャイコフスキーのバイオリンコンチェルトの授業で、初めて聴いた生のバイオリンの音。大きくてゴツゴツしていて、生々しかった。1台で多彩な音色を奏でられることに感動しました。学生時代は、EL-900で搭載されたXG音源を使って、サポート演奏の打ち込みをコンピューターの知識がない状態から手探りで始めたり、好きなことを思い切りやりました。橘光一先生、上原直先生のご指導で、音作りに対する姿勢を養えたように思います。

—卒業後、演奏の仕事はどのように始められたのですか?

卒業してすぐ、橘先生からの紹介で野口剛夫氏指揮のジャパン・エレクトロニック・オーケストラで、ホルストの「惑星」を演奏したのが初めての仕事でした。4人によるアンサンブルで、橘先生、内海源太さん、梅沢由香さんというそうそうたるメンバーに入れていただきました。それから、ありがたいことに途切れず仕事をいただき、今に至ります。文化庁「本物の舞台芸術体験事業」のオペラ公演を藤原歌劇団と共に全国各地で行うなど、オペラの伴奏が多いですね。

—印象に残る演奏は?

帝国ホテルの「ジ・インペリアルオペラ公演」は、帝国ホテルの宴会場でディナーとオペラを楽しむ公演で、東京フィルハーモニー交響楽団のセレクトメンバー、弦楽器が2本ずつ、コントラバス一人とエレクトーン2台、そして電子パーカッションという新しい形のオーケストラによる人気のシリーズとなっています。臨場感があるとご好評いただいて、毎年行っています。最近では、(2014年)8月31日に東京文化会館主催で、オペラ『ヘンゼルとグレーテル』を“たましんRISURUホール(立川市市民会館)”で行いました。東京文化会館の改修工事に伴い各地を巡回する公演のひとつで、エレクトーンが初めて起用されました。塚瀬万起子さんとエレクトーン2台にパーカッションという編成で、歌手は東京音楽コンクールの入賞者の方たち。お子さんがたくさん来てくださって、喜んでいただけたと思います。

—エレクトーンの演奏で、大切にしていることは?

音に対するこだわりは強く持っています。夢物語のような音になってしまわないよう、臨場感のある音、芯のある音を心がけています。学生の頃最初に聴いたバイオリンもそうでしたが、生の楽器の音は、実際は無骨でゴツゴツとした印象です。生の音を聴き、実際の楽器をイメージして音を作っています。

—音作りのポイントはなんでしょうか?

STAGEAになって音作りも奏者に開放された部分が多くなり、いろいろなことが自由にできるようになりました。ひとつひとつの音がよくなりました。ただ、バランスによって聞こえ方が全然違ってくるので、バランスよく作ることが難しいところです。演奏面では、エレクトーンはとかく特殊な楽器と思われがちですが、ピアノなどの楽器と同じで、奏者によって演奏が違ってきます。本番を重ねながら勉強させていただいています。公演では、会館のスタッフも観客も初めてエレクトーンを聴くという方が多いのですが、きちんとした演奏ができていれば気に入っていただけるし、認めていただけると思っています。

—最後に、柿﨑さんにとってエレクトーンとは?

ほんとうに口べたなもので、楽器をとおして自分の気持ちを伝えている…自分にとっては、そのためのツールです。自分の奥にある“ゴツゴツ”したものを伝えていきたいと思っています。