さいとうりょう

D-DECK®とスピーカーを持参し、寄席、銭湯、酒蔵……さまざまな場所で演奏を行う、さいとうりょうさん。持ち前の行動力と歌い手の息を感じとって奏でられる繊細な演奏が持ち味だ。

—いつ頃から、演奏家になりたいと思ったのですか?

父がミュージシャンで、ドラマーだったんです。父は自分が鍵盤楽器を弾けないのが悔しくて、私にはまずは鍵盤を、ということで、4歳でヤマハ音楽教室に入り、気づいたらエレクトーンでコンサートに出ていました。東京コンセルヴァトアール尚美(現・尚美ミュージックカレッジ専門学校)には、講師になりたくて入学したのですが、2年の時に、演奏が楽しくなってしまい、進路を変更しました。

—演奏家を目指すことになったきっかけは?

SEQ(尚美アンサンブルカルテット)の選抜メンバーになって、スコアを見ながらアンサンブル演奏するのが楽しくて仕方がなくって。子どもの頃、父にいろいろなジャンルの音楽を聴かされたり、銀座のヤマハの楽譜コーナーに連れて行ってもらいクラシックのスコアを買ってもらったりしていました。スコアを見ながら弾く楽しさは、父が教えてくれたのです。アンサンブル感が楽しくてもっと演奏を続けたくて専攻科に進学しました。卒業して10年くらいは、オペラの伴奏を中心に演奏活動を行いました。最近は、一人でソリストの伴奏をすることが多くなりました。

—さいとうさんはD-DECK®を持参して演奏されるのですね。

あるとき、オペラのつながりで、ソリストにお仕事の話をいただいたときに、エレクトーンはいいのだけれど、楽器の搬送費がかかって現実的でないという残念なことがあって。「じゃあ、買っちゃえばいいんじゃない?」と家族と相談してD-DECK®を購入しました。D-DECK®と小学校の体育館に対応できるスピーカーをセットして、車で運ぶために免許も取りました。現在は、D-DECK®を主に使っていますが、「楽器持っているなら、ここでできない?」という話をいただくことも増え、浅草寄席、銭湯、このあいだは、酒造の蔵の中で演奏しました。楽しいですよ。寄席では、亡くなった牧伸二さんの後ろでオーケストラサウンドを演奏したり、指揮者のモノマネをする芸人さんとも共演しましたが、ベートーヴェンの交響曲第5番をいろいろな指揮者バージョンでモノマネするんです。大ウケでした。新しいエレクトーンの使い方ですね。楽しいのが大好きですし、格調高いものいいですし、なんでもやりたいなと思っています。

—いろいろな音場のところで演奏するのは、大変ではないですか?

経験を重ね、音の鳴る環境に合わせた調整を心がけ、臨機応変にできるようになったかなと思います。私はエレクトーンが大好きなので、いじり始めると遊びが楽しくなります。ソロ演奏ではレジストを作り込みますが、伴奏の仕事でレジストを組む時には、できるだけシンプルにしています。器楽とのアンサンブルでは感じなかったのですが、歌の方は生身の体なので、コンディションによって違う出方をされる。その変化に合わせるには、機能には頼れないんです。大切なのは演奏力です。エレクトーンはアレンジや音の仕込みに時間かかる楽器で、以前は作るのが8割、練習が2割くらいの比率だったこともありますが、今は練習に比重を置くようにしています。

—最近、お子さんを出産されて、ご家族も増えましたが、仕事もさっそく再開されました。

産後も仕事をすると決めていて、3ヵ月後のコンサートを入れていたのですが、練習時間を取るのが大変で、私と夫の母親に頼んでなんとか乗り切りました。家族が支えになっています。夫もチューバを趣味で続けていて、町内会の夏祭りには二人で弾いたり、音楽活動には協力的で、理解もあると思います。今後もD-DECK®とともにあちこちで演奏していきたいです。特に、ちょっと変わったところでやってみたいですね。酒蔵での演奏も心が躍ったので。

—最後に、さいとうさんにとって、エレクトーンとは?

『情熱大陸』みたい(な質問)ですね。エレクトーンは指揮者である私のオーケストラ。やりたい音楽が表現できて、自分が従えるオーケストラです。とても自分は「マエストロ」なんて言えませんけれど。