小倉里恵(おぐら・りえ)

変幻自在、さまざまなシーンで演奏家として、時にはオブジェ(?)として舞台に上がるなど、幅広く活動している小倉里恵さん。クラシックとポップス両方で、彼女がどんなパフォーマンスを見せていくのか、その今後は見逃せません!

—エレクトーンとの出会いは?

私の実家は宮崎市内から車で2時間ほどの田舎で、母は自宅でピアノと電子オルガンを教えていました。5歳から家で母に教えてもらい、7歳からは市内のヤマハのジュニア科専門コースに通い始めてエレクトーンに出会いました。それまで一緒にコンクールに出るような友達がいなかったので、グループレッスンの友達と会うのが本当にうれしくて、週2回のドライブとレッスンは楽しかったですね。宮崎ではプレイヤーさんたちの演奏を直接聴く機会が少なくて、中学生の頃、楽器店に小林陽一さんと長野洋二さんのコンサートを聴きに行ったら「僕たちFUNKY FOXでーす」っておっしゃっていて、ギャグとは知らず大学生になって初めて東京でFUNKY FOXのコンサートを見るまで、おふたりがFUNKY FOXだとずっと信じ込んでいたんです。

—国立音楽大学ご出身ですが、受験のきっかけは?

普通高校に通っていて、コンクールもたくさん出たし、高校卒業後はエレクトーンを趣味にして東京の大学の心理学科に進学して、学者か精神科医になりたいと考えていました。高3の12月、志望大学の下見がてら、東京に行くのだから、有名なプレイヤーさんの指導も受けたら楽しいかな、という軽い気持ちで国立音楽大学の冬期講習会を受講しました。何の準備もしていないので当たり前ですが、和声とか全くわからなくて、あまりのできなさに、一緒に受講していた、のちに同級生になる仲間が心配してくれて、お金を出し合ってテキストを買ってくれて、「受験まであと2ヵ月だよ、頑張って!」って励ましてくれたんです。それで、受けてみようと進路変更を。親にも学校にも大反対され、むきになってしまって、2ヵ月間頑張りました。

—それから、エレクトーンは趣味でなくなったのですね。

受験と前後して、福岡で松本淳一さんの演奏を聴いたんです。「アイアの祈り」という曲が衝撃的で、涙が出てきました。“エレクトーンの電子音でできることには限界がある”と思ってやめようとしていた自分が恥ずかしくて、何もできていないのにやめちゃいけない、そう思って進学したのです。ところが、東京が楽しすぎて、人とのコミュニケーションを高めるだけに4年間を使ってしまい、気づけば卒業も危ぶまれ、卒業試験前に必死で練習して、新人演奏会に出させていただきました。その猛練習をしていて演奏の楽しさを改めて感じ、バイトをしながらでも演奏をしていきたいと思いました。大学の先生方にエレクトーンシティやヤマハ所沢店、曲集の制作などを紹介していただき、そのつながりで今に至ります。

—さまざまなシーンで活動の幅を広げている印象ですが…。

アーツ・カンパニーの『カルメン』では、高木文世さんとペアでオペラ公演に参加しています。毎日変わるコンディションによって音楽の呼吸感も変わり、いろいろな音が混じり合って一つの作品が作られるという経験ができたのは大きかったです。ヤマハ所沢店の店頭デモ演では即興演奏を鍛えられました。D-DECKが発売されてからは、セブンブリッジオーケストラという弦楽器中心の小編成のオケで、管楽器のセカンド以降のセクションを任されて、1年間都庁前やオペラシティの吹き抜けなどでD-DECKを演奏しました。こちらのコンサートマスターが電子音反対派で、電子音が入った印象にしたくない一心で、指揮者と3人で徹底的に音色を検証しました。例えばホルンの“ボーー”という音はクラリネットの音色にしてみたり、粘り強く音を探し、それは勉強になりました。1年間いろいろな演目を演り、そのおかげで、オペラの音を作る場面でも指揮者の要望に対して「できません」を言わなくなりました。

—最近では、ポップスシーンでも活動を始めています。

はい。ポップス歴はここ5年ほどです。コードも全くわからずから始まり、自分でファンクバンドを組んでオリジナルを演奏しています。ポップスを始めた頃はクラシックとポップスの切り替えがうまくいかず、どちらにも迷惑をかけましたが、ここ最近、バンドでセッションしていてカッティングのアンサンブル感がわかってきてからは、クラシックにも余裕ができて、音楽のジャンルは違ってもつながっているんだと感じます。“楽しそう、やってみたい”と思うと後先考えず突き進んで、とにかくけちょんけちょんに怒られて、それでもあきらめずに根気強く支えてくれる方たちがいるから、やってこられていると思います。今後は、クラシックでは作・編曲家の小林樹さん、高木文世さんと3人でトリロジーを組んで活動を始めます。最終目標は、2020年の東京オリンピックの開会式のショーで、宙吊りになって演奏することです。アテネオリンピックのビョークのようなパフォーマーになりたいんです!

—最後に、小倉さんにとって、エレクトーンとは?

空気かな。小さい時からあって当たり前のものだから。鍵盤がなければ死んじゃうと思うし。新機種も出て、いろいろとこだわってやりたいこともありますし、勉強しなくてはいけないけれど、それが苦ではなくいられるんです。やっぱり、空気ですね。