市川侑乃(いちかわ・ゆきの)
2009年ヤマハエレクトーンコンクールで第1位となった実力の持ち主が、いま、アートの世界の扉を開き、エレクトーンの可能性を広げようという活動に打ち込んでいます。思い立ったらすぐに行動!というアグレッシブな市川侑乃さんが見つけた“ワクワクする楽しいもの”とは?
—エレクトーンとの出合いは?
4歳からヤマハ音楽教室の幼児科に通いはじめました。NHKの「お母さんといっしょ」の最後のみんなで歌うコーナーでテンションが上がっていたのを母が見て、音楽をやらせてみようと思ったそうです。八戸は楽器店の方たちが熱心で、とても恵まれた環境のなかでのびのびとレッスンに通っていました。
—クラシックや現代音楽を始めたのはいつくらいからですか?
小学校1年生から楽器店の演奏研究会で内海源太先生に、4年生からは仙台の演奏研究会で森下絹代先生に就きました。森下先生の第1回目のレッスンで“音楽”を学ぶ厳しさを教えていただきました。それから目が覚めたように、音楽に真剣に取り組むようになりました。中学か高校のときに、森下先生から、池辺晋一郎先生の作品を弾いてみたらと言われ、そのとき初めて現代音楽に触れました。その後、音大の作曲科の道に進むと決めたときに、作曲家の荻久保和明先生に出会い、先生のいる東邦音楽大学に入学して現代音楽を学びました。本格的に現代音楽の演奏を始めたのは、昨年(2014年)からです。
—なぜ、いま、現代音楽だったのですか?
子どもの頃からクラシックを弾いてきましたし、バンドも経験しました。オペラやミュージカル、合唱の伴奏など、あらゆる形態で演奏を経験してきて、自分の中で、エレクトーンの新たな可能性を見出し、表現したい、というもやもやしたものがくすぶっていたんです。いまある主流の流れも素晴らしく、電子オルガンの発展や歴史を培ってきていますが、そこからさらに一歩飛び出し、アートの世界に踏み出そうと。“現代美術におけるインスタレーション”を音楽で表現したい。大好きなこの楽器の新しい可能性を切り開きたいのです。現代音楽とジャンル分けされていますが、私はそうは思っていなくて、ベートーヴェンの時代には、ベートーヴェンが現代音楽だったわけで、たまたま自分が表現しているのがそういう音楽だと認識しています。
—2014年7月から始めたリサイタルシリーズについて教えてください。
全日本電子楽器教育研究会が、私が生まれる前から、一流の作曲家の方々にエレクトーンのための新曲を委嘱して、2000年を越えた頃までに60曲ほどになっていました。リアルタイムでは聴いていないのですが、「宝物を見つけた!」と。こんな財産があったと知り、これは広めたいと思って。そういった作品を掘り起こし演奏するとともに、私が作曲家の方に委嘱した新曲を初演する。そうしたプログラムを、継続させないと意味がないので1年に2回行うと決めてから、リサイタルをスタートさせました。
—ご苦労も多いのでは?
資料集めから苦労しています。それでも、無名のエレクトーン演奏家の私が、勇気を出して手を震わせながら、松下功先生や新実徳英先生といったそうそうたる作曲家の皆さんに連絡をとっているのですが、皆さん温かく応対していただき、「取り上げてくれてありがとう!」と言ってくださる。当時のお話をうかがうだけで感銘を受けます。作曲されたときの機種もいろいろで、STAGEA 02でどう再現するか、好き勝手やったら意味がなく、闇雲に再演するのではいけないと思っていますし、楽譜に書かれたとおりではない、実験的な作品も多いので、その都度打ち合わせをしています。リハーサルにも付き合ってくださって、新たな魅力を感じることばかりです。皆さんに助けられて成長させられています。
—委嘱作品の初演の手応えは?
まず、エレクトーンがどういう楽器かご存じない方には、説明から始まるのですが、シンセサイザーに精通されている作曲家からは、シンセときょうだいのように思っていたら、エレクトーンならではの個性的なスタンスが確立している。そうおっしゃっていたのは、私にとっても発見でした。エレクトーンはオルガンの古い伝統のスタイルを踏襲しながら、ハイブリッドな要素も混在している。こんな楽器は見たことがない、と。演奏を終えると作曲家の皆さんは、「まだまだこの楽器は可能性があるから、また書かせてください」と言われます。「次回はこういう方向で」というようにおっしゃってくださるので、それがうれしいです。この活動を行うことで自分が一番楽しんでいるのかな。いま、とても充実しています。
—最後に、市川さんにとってエレクトーンとは?
いろいろな鍵盤楽器やチェロなども弾いてきましたが、エレクトーンは一番しっくりする楽器です。私は、いまは現代音楽という道で発信していますが、いろいろなスタイルを演奏でき、人によって七変化をする魅力のある楽器です。タッチも独特のものがあって、弾いた後に命が吹きこまれて、お客様に伝わっていく。体で表現したいもの、心で表現したいものを発信できる、人生のパートナーだと思っています。