岩崎孝昭(いわさき・たかあき)
インターナショナルエレクトーンコンクール2003(B部門/クラシック系)で第1位に輝き、奏者として、また、曲集などの編曲、著作の執筆、後進の指導など多岐にわたり活躍するオーケストラ・マイスターの登場です。
—エレクトーンを始めたきっかけは?
幼稚園の頃、「ピアノを習いたい」と思ったことがあり、でも発表会に出るのは嫌だと考えて、その気持ちはいったん消えました。それが、小学校4年の頃、習いたい気持ちが再発して親に言ったら、母親はピアノよりエレクトーンがいいと思ったらしく、中古のエレクトーンを手に入れて、近所の知り合いの友人に出張レッスンをお願いして小学5年生の終わり頃から始めました。音色レバーも3つくらいの本当にシンプルな機種でしたけど、そりゃあもう楽しくて、ずーっと弾いていました。小学6年の終わりくらいにHSの展示品を買ってもらって、憧れの「TRUTH」を市販のレジストで弾くことができました。
—クラシック音楽に興味を持ったのは?
小学生の頃、『ドラゴンクエスト3』のオーケストラバージョンを聴いてからどっぷりハマって、テレビでオーケストラをやっていたら見るとか、山本直純先生の青少年オーケストラ公演に行ったり。「エリーゼのために」や「乙女の祈り」のようなピアノの王道の曲にも憧れて、初めて買ったCDは「エリーゼのために」が入っていた『珠玉のピアノ集』。CDマガジン『グレードコンポーザー』も熱心に聴いていました。最初の頃はクラシックをレッスンで弾くことはそれほどなかったのですが、中学3年で初めてエレクトーンフェスティバルに出場することになって、ドヴォルザークの「新世界より第4楽章」を弾きました。ポケットスコアを買ってきて自分でアレンジして演奏しました。
—大学は国立音楽大学に進学され、卒業後にインターナショナルエレクトーンコンクールのクラシック部門で第1位を受賞されました。
田舎で暮らしていた私にとって大学は刺激的でしたし楽しかったですね。コンクールは3年生で初めて挑み本選には進めず、クラシック部門が隔年開催になったため4年生では出場できず、何もしないまま卒業し、翌年のコンクールもダメで、辛いし次はもういいや、と思っていたのです。そうしたところ、大学1年の終わり頃から個人的にレッスンを受けていた松本淳一先生や地元の先生から電話があって「出なけりゃ岩崎くん、もう終わりだね」と叱咤激励され、「終わるのか、じゃあ出よう」と思って、今に至るという感じですね。そのコンクールでは本選に初めて進めたのが何よりうれしかったです。前日の予選の演奏が納得いかないものだったので、そうはしたくない、という気持ちで本選に臨みました。1位を取ろうとかいう気持ちはなく、自分の演奏に真摯に向き合った結果だったのかなと思います。
—エレクトーンの魅力はなんだと思いますか?
いろいろな楽器の合奏を一人で操れ、音楽を作れるというところが魅力でしょうか。アレンジして、レジストを作ってという一連の作業が楽しいですね。そのときどきに考える過程も楽しい。だからこそ、完成形を弾く最初の瞬間が一番楽しくて、自分で作り上げたものを自分で出せるのがなにものにもかえがたいものがあります。ただ、コロナ禍の少し前からピアノに本格的に取り組んでいて、感じることがあります。ピアノは単色で、そのなかで色彩を出すためには、曲や音楽を掘り下げて、根拠があってその音色を出すから説得力がある。ところがエレクトーンの場合は、最初から音色が多彩なので、演奏において深く追求しなくてもどうにかなる部分もあって、それでいいのかなと。STAGEAはユーザー音色も多く使えて、スコアそのまま全部鳴らそうと思えば鳴らせますが、詰め込むだけでは弾いている実感と離れていくように思います。音色を削ぎ落として、ここに必要なのはどんな音色でどう弾けばいいのか掘り下げ、しっかりした裏付けをもって自分がコントロールして表現する、そんな演奏を目指したいです。
—今後、どのような演奏活動をしていきたいですか?
子どもの頃からオーケストラ好きですから、基本はそこにあります。また、いろいろな楽器の方と共演したいです。プーランクのフルートソナタなど、管楽器系のソナタなどもやりたいですね。ベートーヴェンは個人的に好きなんです。ベートーヴェンの苦悩をエレクトーンで弾いて実感できるといいですね。また、先日、『ドラクエ11』のスコアを思わず買ってしまい、やはり原点なので演奏してみたいなと思います。もちろん、楽曲の追究や勉強の成果としてソロリサイタルもやりたいと思います。
—最後に、岩崎さんにとってエレクトーンとはなんでしょう?
自分の生活、人生の中心で、ともに生きてきましたから欠かせない存在ですね。始めたときから家族にうるさいと言われながら弾き続けてきて、なくなったら困ってしまいます。口で主張できるタイプではないので、演奏で表現したい。自分を表現し、伝えられるのはエレクトーンだと思っています。
【2021年12月インタビュー】