赤塚博美(あかつか・ひろみ)

エレクトーン演奏家インタビューで、第1回目にご登場いただいた赤塚博美さん。10年余りの歳月が流れ、音楽活動はバージョンアップしつづけていますが、その根っこは同じ。エレクトーンが大好き、大好きな曲にとことん惚れ込む、そして、人と人とのつながり。これからを担う若い世代には、「もっともっと曲を好きになって」と語ります。

—前回のインタビューでもオペラと出会ったことが、赤塚さんの音楽人生を変えたとおっしゃっていました。

オペラをやるようになってから、ただ演奏する、アレンジするだけではなく、音楽家としての自覚が芽生えたかな。恩師のピサーニ先生に「楽譜に全部書いてある。ちゃんと読んでいればいい音楽ができる」と言われ続けていましたが、そのことが、だんだんわかってくると、楽しくて仕方がないんです。指揮者がアナリーゼするようにスコアを読み込んでいって、実際に弾いてみて判断しながら音楽を作っていける。エレクトーンはそこがとても魅力なのです。オペラを始めてちょっとした頃、オーケストラの演奏をDVDでよく観ました。客席からは観られない指揮者の動きが映っていて、まるでキャンバスに絵を描いているような指揮をしている。その頃は何も知らなかったので、一つひとつのフレーズの意味が「こういうことか」と、とても勉強になりました。また、EL型の頃は指揮者から「もっといい音を」と要求されましたが、音楽的なところで応えるしかない、表現で頑張るしかありませんでした。極端なことを言えば、ひとつの音色で弾き通しても、音楽を伝えられなければいけないんですよね。そんな経験が役にたち、毎回、毎回、公演のたびに発見があって幸せです。最近では、ベースの可能性も広がってきていますから、どうやったら足で表現できるか、パイプオルガンと同じようなアーティキュレーションの表現力が必要になっている。もっともっと、と思いますね。私は、自分の音楽を一番表現しやすい楽器として、エレクトーンを選んでいるのです。だから、自分の責任において音を出していくべきで、エレクトーンの責任にしてはいけないというのはあります。

—音色作りで心掛けていることはなんですか?

音色作りというと、皆さん作業になってしまいがちですよね。私はあまり作業とは思っていません。スコアを読んで、「ここではメロディーだけじゃ感動は生まれない。この音を聴かせなきゃ」という“素敵”なところを見つけることがすごく大切。そうやって、「ここ! この音!」みたいな感じで音色を作っていくのがうれしいんですよ。気に入っちゃうと何回も弾くから、音色を作り上げる頃には、弾けているみたいな。でも、そこからが本当の演奏家としての練習です。本番のギリギリまで、アレンジを直したり、音色をいじったりするのがいいことみたいなのは違うと思います。EL-90が出てタッチコントロールがついてから、音色の作り方だけではなく、音に対するこだわり、アフタータッチと長く培ってきたエクスプレッションペダルによって音楽の呼吸すべてを表現できる楽器になりました。開発してくださった方に感謝しています。STAGEAは、音色やタッチコントロールも格段によくなって、弾きやすくなり、立体的に音楽を作れるようになったと思います。よく、「こんなピアニシモが出るんですね」って言われたりするのですが、当然ですっていう感じです。

—赤塚さんの演奏は、とても躍動的です。

音楽と動きは付随するものです。目で見ても伝わるんです。近年、学生たちに「エレクトーンの魅力は?」と聞くと、「本物のような音」という答えが返ってきますが、私たちは、エレクトーンを弾いているプレイヤーの姿がかっこいい! ああいうふうに弾きたいと思って弾いてきました。エレクトーンはかっこよくないとダメだと思います。先日、山形でソロコンサートを行ったのですが、最後にセキトウシゲオ先生の「キャッチ・イン・アリス」を弾いたんです。エレクトーンのかっこよさが見てわかる曲で、先駆者のそういった名曲を私たちが伝えていかなければいけない、と思うようにもなってきました。

—バイオリンの水野佐知香さん、マリンバの神谷百子さんと3人のユニット“メッセージ・フォー・ユー”の活動についても教えてください。

2018年にCDデビューした、イメージをはっきり伝え、意識をはっきりさせることで、細かい打ち合わせをしなくても音楽を作り上げていける幸せなユニットです。作曲家の渡辺俊幸先生に「あなたたちは卓越したプレイヤーですから」と言われちゃったものですから、もっと表現しなきゃと。バイオリンとマリンバ、すばらしい奏者二人に混じって、単なる伴奏ではない、いろいろなコンセプトでアレンジしています。コロナ禍も落ち着いて、新曲を含めたコンサートを(2024年)6月に洗足学園音楽大学のビッグマウスで開催しました。うれしかったですねー。ほとんどのアレンジを私が担当していますが、小さい頃からやってきたことを全部詰め込んで、集大成になったかなと感じています。今回は4曲の新曲を入れたんですね。コンサートの後半ではパッションあふれる曲を集め、速弾きで会話するアンサンブルという感じ。3つの楽器で一つの音楽をまとめ上げ、オーケストラでもないし、バンドでもない、新しいサウンドを表現していて面白くできた、と思っています。最近では、エレクトーンの世界より、むしろクラシックの世界のほうが身近になってきています。水野さん、神谷さん、お二人のファンもたくさんいらっしゃいますが、このユニットがエレクトーンなしでは成り立たないということを認めてくださっているのもうれしいです。

—最後に、これからエレクトーンに期待することは?

ステージで、ピアノのような大きな楽器とのアンサンブルでも映える、堂々とした、かっこいいコンサートモデルが欲しいですね。マリンバは、凝ったデザインのカスタムモデルがあって、エレクトーンもカスタムできればいいのにと言われます。そうしたら、みんなもっと憧れますよね。音はかっこいいのですから。

【2024年6月インタビュー】