小林由佳(こばやし・ゆか)
ピアノとエレクトーン、小学生の頃から並行して続けてきた小林由佳さん。初めてのソロアルバムを来春にはリリース予定!請われた仕事で多忙を極めますが、その合間を縫って鋭意制作中です。そのアレンジと演奏に期待が高まります。
—CDの制作を進めていらっしゃいますが、意外にも初録音なのですね。
はい。一度も作っていなくて。コンサートなどでコラボした著名な音楽家の方たちに必ず「CDをください」と言われるので、早く作るべきだったのですが。大学でピアノとエレクトーンを教えていますし、ありがたいことなのですが本番に追われてしまって、なかなか録音する時間が取れなかったのです。
—「横浜開港祭ドリーム・オブ・ハーモニー」、水戸芸術館の「水戸の街に響け!300人の《第九》」など、毎年恒例の大きなイベントもお持ちです。
たまたま1997年が横浜開港祭と水戸芸術館の野外での第九を初めて演奏した年でした。一度使っていただくと長く続くお仕事が多いですね。現在は音楽監督を務めていますが、開港祭は初回が財津和夫さんとのコラボで、例年J-ポップのドラムが入った編成です。エレクトーンで楽曲のコピーや編曲、アドリブを鍛えられたのが役立っています。小学校高学年からエレクトーン演奏研究会で川村江一先生に指導していただいたのですが、ボブ・ジェームスとかフュージョンとかタンゴなど、いろいろなジャンルのレコードを与えられて、「耳コピで来週までに楽譜を作ってきなさい」と。ゼロからだんだん耳コピも身につき、最初は真似から入ったアドリブの力もついていきました。私は合唱やオペラ公演では、練習ピアニストとしても参加するようにしています。練習を見ていると歌いやすいアレンジがわかりますから、公演ごとにアレンジし、同じ曲や演目でも前に作ったアレンジは使いません。
—ソロ奏者として、活動されたいお気持ちはありましたか?
ソロもやりたかったです。中学の頃にママさんコーラスの伴奏をお手伝いしたのがきっかけで伴奏の楽しさを知ったのですが、エレクトーンで初見力を培ったおかげで、伴奏を頼まれることが多くなってしまった。大学で指揮科のピアニストをしてみないかと声をかけられ、指揮科の助手として週2回、ベートーヴェンのシンフォニーなどのフルスコアを読んでピアノで表現するということをしていました。それと同じ時期に、オペラ伴奏をエレクトーン(当時はHX-1)でやらないかというお話があって、スコアリーディングからアレンジする勉強も始めていました。偶然ですが、本当によい機会でした。それからは、ピアノもエレクトーンも頼まれたコンサートを一生懸命にやってきた、という感じです。なかでも1993年の『魔笛』から、水戸芸術館とのつながりができました。その演奏と編曲を吉田秀和氏が朝日新聞で紹介してくださり、いろいろなオペラ団体からエレクトーン伴奏でのオペラ上演のお仕事をいただくようになりました。コロナ禍で「第九」開催が難しかった2021年に、水戸芸術館で「300人の《第九》の出演者によるミニ・コンサート」が開催され、20年以上「第九」やオペラ伴奏をさせていただいていながら、初めてエレクトーンソロを演奏する機会を得ました。それまでエレクトーンはこういうことができる楽器ですよ、というアピールを一度もしたことがなかったのです。せっかくの機会だったので「アディオス・ノニーノ」をいろいろな楽器の音色を使った編成だけれど自然に聴いていただけるアレンジで演奏しました。みなさん、「なぜ、あんなことができるのですか?」と興味が湧いたようで、好評をいただきました。
—「アディオス・ノニーノ」を聴かせていただきましたが、オルガンで敬虔に始まって、バンドネオンのメロディーが始まるとその後ろにマリンバが軽快にリズムを刻み、ピアノのソロパートでは、パンチのある低音が効いています。ストリングスも入ってピークを迎え、最後はまた静謐なオルガンで閉じる…。エレクトーンだからできる、斬新かつナチュラルでフックが効いた演奏でした。その「アディオス・ノニーノ」が、CDにも録音されるのですね。
そうです。初のソロアルバムなので、いろいろ収録したい曲はあるけれど、タンゴとラテン系でまとめたいと思いました。小さい頃、エレクトーンといえばタンゴでした。今のSTAGEAにもタンゴでアピールしたい音がいろいろありますし。なかでも、ピアソラはタンゴとクラシックの両方のテイストがありアレンジのしがいがあります。「アディオス・ノニーノ」のほか、「リベルタンゴ」「オブリビオン」を入れます。ロマンティックなリシャール・ガリアーノの「クロードのタンゴ」も。「ラ・クンパルシータ」、「ポル・ウナ・カベサ」、「マシュケナダ」、cobaさんの「eye」はフルートとのコラボのコンサートの際にアレンジした曲です。「情熱大陸」はご存知のように盛り上がる曲で、私のコンサートで取り上げることが多い曲。オペラ歌手の方もスキャットで歌いたいとおっしゃるんです。ベースとなるアレンジはでき上がっているので、来春には仕上げたいと考えています。
—これからのエレクトーンへ、要望はございますか?
今のSTAGEAは、可能性が無限大な楽器になりましたから、それはありません。毎年演奏している水戸芸術館の「第九」も毎回自分の中で解釈が変わり、いろいろな新たな発見があって、20回やれば20回、毎回生き物のように変わっていきます。楽しくてやめられません。私にとってピアノとエレクトーンの経験は必要不可欠。ピアノを演奏する際も、ピアノの譜面からオーケストレーションを想起することは必要で、ピアニストにとってスコアリーディングは大切ですし、エレクトーンもぜひやっていただきたいと思いますね。
【2024年10月インタビュー】