大竹くみ(おおたけ・くみ)

作・編曲家で、エレクトーン、ピアノ、パイプオルガン奏者でもある大竹くみさん。多彩な活動の源となる、あくなき探究心と絶妙なバランス感覚をお持ちです。

—フォーレの「レクイエム」の演奏について、詳しくお話を聞かせてください。

合唱の伴奏では、これまでに最も回数を多く弾いています。だからといって同じではなく、本番前の練習で毎回アップデートしています。音色もその都度作り直します。最終的には指揮者との話し合いもありますが、本番ギリギリまでずっと弾いて、指づかいも含め直しています。最初に弾いたのは2000年で、新宿にあった朝日生命ホールでした。どんな曲にも弾きたいという部分があるもので、この曲は弾きたくなる好きな部分が多い曲です。オーケストラにハープやオルガンも加えた音色を作っています。最初は本番もスコアで弾いていましたが、今は、オルガンリダクション版を使って、それをベースに音を足して弾いています。私はそのリダクションに共感できて弾きやすいんです。長いトリルを足鍵盤で弾くメロディーもあって、手鍵盤も片手で2段同時に弾くことが多く、フルスケール鍵盤のXでないと弾けません。楽器の手配が悩みの種です。

—エレクトーン以外にもピアノ、パイプオルガンの奏者として活動されています。鍵盤楽器に触れるきっかけは、エレクトーンですね。

個人の先生についていて、道志郎さん編曲のラテン曲集など多く弾いていました。学校から帰ると友達と遊んでいたこともたくさんありましたが、小学生の頃には、エレクトーンの周りに人形を置いて、「この子だったら人魚姫の曲を弾くだろうな」「この子だったらこういう感じの曲を書くだろうな」と想像して、発表会みたいな感じで、即興を一人で弾いていました。それが楽しくて。いくらでも時間が経ちました。その頃のエレクトーンはアナログでしたから、自分で音色を作って自分で弾かなければいけなかった。その楽しみと、試行錯誤のうえに基礎的なことも身についたんだと思います。現在のエレクトーンはデータのお膳立てができすぎていて。それもいいけれど、自立して演奏する基礎を学ばないのはもったいないと思いますね。

—ピアノやパイプオルガンがそこに加わったのですね。

鍵盤楽器自体が私にとって魅力的なんですね。

ピアノはいろいろな音色を自分でコントロールできる面白さ、ペダリングのちょっとしたことで音色が変わるとか、限られたなかでなんとかしなきゃいけない。その楽しみがあります。

パイプオルガンは、20代の頃、秋田のアトリオンホールで、N響の金管五重奏と打楽器のコンサートがあって、「ホールにパイプオルガンがあるけど、一緒に弾かない?」って誘われて、オルガンのレッスンを受けてみようということに。そこが始まりですね。テレビ放映していたJOCオリジナルコンサートの番組で、収録する会場の宮崎県立芸術劇場にパイプオルガンがあったので新曲の制作と演奏を依頼されたり、オルガン付き合唱曲の委嘱があって演奏した後には、合唱曲で共演する機会が増えてオルガンの世界が広がりました。ところが、練習するのが大変な楽器なんです。オルガンは楽器(ホール)によって、ペダルの幅とか角度とか、黒鍵の位置まで違うわけです。ストップの位置や音色のコンビネーションのボタンの位置も鍵盤の段差も1台ずつ違うんですね。ですから、自分で体を合わせるしかない。2オクターブ半の足鍵盤と5オクターブの2段鍵盤が自宅にあるので、運動的なことはそれで身につけて、本番の前、事前に3時間くらいホールのオルガンでレジストレーションという形で貸していただいて、そこで、短時間で楽器に体を合わせて本番に臨みます。

—そんなご苦労がありながらもパイプオルガンを続けるのはなぜですか?

オルガン弾きで作曲家だったモーリス・デュリュフレの「レクイエム」という曲との出会いも大きかったです。何回練習しても練習したいし、何回本番を経験しても新たな課題が出てくる曲なのです。音楽を作ること自体難しく、2つの鍵盤を片手で同時に弾かなければいけないところもたくさんあって。とにかく練習しがいがあるので、やめられない。作曲や編曲をする場合、演奏者の気持ちも考えます。演奏する側が弾きたくなるような、練習したくなるような曲を書くこと、それは使命だと思うんです。長年曲を書いてきた結論は、演奏者が練習したくなる曲を作ることですね。作る人と弾く人、両方の気持ちを知っていてよかったな、と思っています。

—演奏の話をされるとき、とても楽しそうで、お好きなのがわかります。

演奏することって発信する、発散する、表現ですから。演奏もものづくりと一緒。たぶん私はものをつくることが好きなんです。

とはいえ、作曲や編曲は仕上がるまでにかかる時間の予想がつかないんですね。曲は、1日かけたからといってできるかどうかわからないけど、締め切りは絶対来る。そういった作業とのバランスをとるためには、私には料理と車の運転が必要なんです。10分経ったら煮込みはできているとか、40分経ったらケーキは焼けているとか、料理は絶対私を裏切らない。車は、ハンドルを右に切ったら切った分だけ右に行くし、ブレーキを踏めば止まる。そういうのは車以外ない。ピアノで思いどおりの音を出したくても、簡単にはいきませんからね。

—先日、作曲・編曲・演奏家としての「個展Ⅱ」を開催されました。

2025年8月29日に府中の森芸術劇場ウィーンホールで行いました。合唱だけで110人くらい共演していただいたので大掛かりでしたが、NHK東京児童合唱団やコール・クライネスのスケジュール、ホールの空き、指揮者といった調整が奇跡的にうまくいき、実行委員会と称して周りで手伝ってくださる方々も含め、前回(2017年)とすべて同じメンバーでできたので恵まれた環境でした。作品は女声合唱、混声合唱、マリンバ独奏曲で、ピアノ、パイプオルガン、打楽器も使いました。録音してくださったオクタヴィアレコードの方が「残すべき内容!」とおっしゃってくださり、ご来場できなかった方々にも聴いていただきたいので、2025年内に、ライブCD『ないしょのうた 』(OVCL-00906)をリリースする予定です。

【2025年9月インタビュー】