奥野由希子(おくの・ゆきこ)

歌、オーケストラ、鍵盤トリオ、詩吟などさまざまなコラボレーションを自然体で成功させている奥野由希子さん。「エレクトーンと合わない音楽はないのでは?」とさらなる可能性に心を躍らせています。

—毎年夏に仙台で開催されている「こどもの夢ひろば“ボレロ”」のコンサートに2021年から参加されています。ご出演のきっかけは?

これは、仙台出身のピアニスト・小山実稚恵さんが企画立案・ゼネラルプロデューサーの東日本大震災を機に始まった親子参加の体験型イベントです。広上淳一さんの指揮で“こどもの夢ひろばスペシャルオーケストラ”が出演し、毎回、最後にラヴェルの「ボレロ」を演奏します。コロナ禍で2020年は中止になったのですが、21年はどうしても開催したいと小山さんが考えられて、ご自身がネットで調べていたらエレクトーンの伴奏という方法があるのだと知ることになり、たまたまピティナのピアノステップの動画でコンチェルトを2台のエレクトーンでオーケストラパートを演奏しているのを見つけてくださったのがきっかけでお話をいただきました。小山さんも広上さんもエレクトーンとそれまで共演はなかったのです。2021年は60名ほどの弦・管楽器が集まったので2台のエレクトーンが各パートを補完する形で参加しました。その後は、人数は元に戻ったのですが、小学生から高校生のオーディションを通過して参加している人も多いとのことで毎年参加させていただいています。

—どんなイベントなのですか?

夢を持っている子どもたちを育てたい、という小山さんの願いがこもったイベントです。日立システムズホール仙台を全館使って、コンサートだけではなくさまざまなコーナーを設けています。コンサートは宮城教育大学と東京音楽大学の学生、そしてオーディションで選ばれた人が集まったオーケストラで、毎年NHK交響楽団のソリストの方が2名入って、コンチェルト仕立てで展開しているんです。2日間4公演を行います。リハは2日前から始まります。初日は自信なさげに小さな音だった小学生も2日目から音色が変わって、3日目、4日目の本番には大きな音で堂々と演奏し、客席も大感動。広上さんの力は偉大です。本番では広上さんの指揮は踊っているようにしか見えないのですが、リハーサルでしっかり体で表現して見せているから、本番は全員が力を出し切る。そんな現場を体験できてほんとうにラッキーです。

初年度は「エレクトーンはどんな音色もすぐ弾けるんでしょ?」という感じで、本番では来るけどリハは欠席で急遽代わって弾いたり、担当以外にレスキュー的なサポートもありました。最初はみなさん「エレクトーン?」という感じでしたが、いまではいつもの人がいつもの場所に、ありがたいことにオケの中央に座らせていただいています。楽器紹介にも参加させていただいて、エレクトーンを知っていただける大切なイベントになっています。

—2024年からは、聴こえる絵本ファミリーコンサートのプロジェクト「RY music project」を結成されました。

コロナ禍以降、教える仕事も始めてjetの会員になりました。最寄りの川崎市にある京浜楽器支部で活動しているのですが、その支部仲間4人で「RY music project」を立ち上げ、これまでに3作、すべてオリジナルの聴こえる絵本ファミリーコンサートを開催しています。1部はオリジナルの聴こえる絵本シリーズを、2部はファミリー向けミニコンサートというプログラムです。親しみのあるお話を選び、台本は朗読のこみゆうこ。さんを中心に今の子どもたち向けに作り直しています。その台本を読んで、国立音大作曲専攻卒業の石田亮太さんが作曲、オーケストラ譜を書き上げます。それをピアノ・亮太さん、鍵盤ハーモニカ・Repicaさん、私のエレクトーンによる鍵盤トリオで分担して演奏します。絵は藝大や美術専攻の学生さんの描き下ろしです。

—すべてオリジナルで作り上げていくプロジェクトなのですね。

はい。1作目の『ヘンゼルとグレーテル』、3作目の『ピノッキオのぼうけん』が約35分、2作目『おむすびコロリン』は約15分の小品。あえて曲をオーケストラ譜で書いているのは、鍵盤ハーモニカ3台でもゲストプレイヤーが参加しても、どのような編成もフレキシブルに対応するためです。方向性が違う4人が集まってお互いの意見を取り入れ、演奏については私の意見も反映してくれるのでエレクトーンもよく鳴っていますし、音楽が朗読や絵を支えるバランスをとても大切にしています。現在、4作目を鋭意制作中。ホール公演のほか、いろいろな場所で展開したいと思います。昨年は小学校でも開催させていただきました。チラシやチケットの制作など事務方もすべて4人で行うので大変ですが、生演奏をみなさんが楽しんでいただけるのがほんとうにうれしいですね。知り合いの英語教室の方が、私たちの台本を自主的に翻訳した英語版を作ってくれて、英語版公演も決まりました。

—詩吟やモダンジャズ、気功など、さまざまなコラボレーションにも積極的に取り組んでいます。

詩吟の世界で先陣を切って新しいことに取り組んでいる恵聖さんとは、新しい作品を一緒にできないかと相談をしているところです。私は、エレクトーンは「和物」、日本の伝統音楽とも相性がいいと思っているんです。以前ご一緒したときは詩吟との空気感がよく馴染んで、面白いと思いました。エレクトーンの可能性はまだまだ広がると感じています。

そして、やはりエレクトーンは生で弾くのが一番。演奏者の個性が出やすい楽器なので、生で聴いていただきたいですね。地域イベントは皆さんが話しかけてくれる機会にもなりますし、生の演奏だからこそ伝わるものがあります。「RY music project」ではその価値を改めて実感しています。

【2026年1月インタビュー】