菊地友夏(きくち・ゆか)
コツコツと積み重ねていく構築力とその場で生まれる表現力。人とともに作品をつくり、音楽で物語を届け続けています。
—ミュージカル劇団「アラムニー」の音楽に関わり15作を超えるとうかがいました。
アラムニーは群馬県に住んでいる大学生の女性によるアマチュアミュージカルの劇団です。友人に紹介されて観劇したとき、アマチュアならではの「好きの強さ」があって、その熱量に、本当に魅了されました。ただ、音楽は録音音源で上演していて、「私に生演奏で音楽をやらせてください!」と自分から営業したんです。もともと舞台の演奏をやりたくて。その根底に、現実世界から少しでも離れた時間を作る側に行きたい、という気持ちがあったから。劇団は今年(2026年)で創立27年目。年に1作品を群馬県内の3会場で上演しています。地元企業やコミュニティの協賛を得て運営し、地元に密着した活動を続けています。私が魅了されたのと同じく、観客の皆さんも心を動かす何かを感じ取ってくださっているのでしょう。毎年、毎年、本当に楽しみにしてくださっていて、たくさんご来場いただいています。
—アラムニーから派生した動きもあるそうですね。
アラムニーを卒業したあとも、ミュージカルへの情熱を持ち続けている人はたくさんいます。プロの道に進む人もいれば、趣味として劇団に参加したり、自分たちで団体を立ち上げて公演を続けたりと、それぞれの形で舞台に関わり続けています。そうした団体の多くは、脚本や演出、出演だけでなく、制作や運営までメンバー自身で手がけています。アラムニーで培った「みんなで舞台をつくる楽しさ」が、そのまま人生の楽しみになっている人が多いんです。
私もそうした公演で演奏をご一緒する機会がありますが、生演奏の価値を大切に考えて「ぜひエレクトーンで」と声をかけてもらえるのは、本当にうれしいですね。エレクトーンならではの表現や、その場で生まれる一体感を感じてもらえているのかなと思います。
—菊地さん自身が立ち上げたユニット“きくちいまい”の活動についても教えてください。
2018年にエレクトーンとサックス、そしてミュージカル俳優の方々とともにライブを企画したことがきっかけでした。そのとき出演してくださっていたのが今井学さんです。初めて歌を聴いたとき、「この人ともっと音楽をつくってみたい」と強く感じました。ライブ後に「いつかふたりで演奏する機会をつくりたい」とお話ししたことからご縁がつながり、翌2019年に「きくちいまい」として初めてのライブを開催しました。
—菊地さんならではの突破力のなせる技ですね。今井さんの歌声に惚れ込んでということでしょうか。
もちろん歌声の魅力も大きかったのですが、それ以上に、音楽に向き合う感覚や言葉が自然と共有できることに惹かれました。なんとなく同じ方向を向いているのではないかと思ったのも大きかったです。今井さんはミュージカル俳優であると同時に、クラシックを学び、合唱や編曲にも携わっています。私自身も編曲をしますので、「この音楽をどう表現したいか」という部分まで共有しながら、一緒に作品をつくっていける関係なんです。初めてふたりで演奏したかった曲は、武満徹の「小さな空」でした。幼い頃から両親の影響で親しんできた大切な曲で、この曲を今井さんと一緒に届けたいという思いが、ユニットの始まりになりました。今では私にとって、大切な活動の軸になっています。
—その後、きくちいまいはライブを定期的に開催し、2026年は「絵本と音楽の世界」というお子さん向けの企画を立ち上げました。
きくちいまいのふだんの活動は、大人の方にも楽しんでいただけるライブが中心です。でも、2025年にヤマハミュージック 名古屋店から『動物の謝肉祭』の絵本朗読とエレクトーンの生演奏をご依頼いただいたことが、大きな転機になりました。朗読と生演奏、そしてミュージカルで培ってきた「物語を届ける力」を組み合わせることで、新しい表現の可能性を強く感じたんです。
その後、子どもゆめ基金の助成を受けて、宇都宮・東京・前橋でファミリー向けの公演を開催しました。初めてのことも多く、反省点もありましたが、それ以上に大きな手応えがありました。これからも、きくちいまいならではの「絵本と音楽」の世界は、自主公演も含めて大切に育てていきたいと思っています。
—きくちいまいの初めてのCDも制作中です。
2024年10月に、結成5周年を記念して門天ホールで「武満徹 ソングス」のライブを開催しました。私たちが長い時間をかけて向き合ってきたレパートリーを一つの形として残したいという思いが強くなり、公演後に「CDを作ろう」という話になったんです。私はずっと生演奏にこだわって活動してきたので、録音作品を作ることには少し迷いもありました。でも、ふたりで積み重ねてきた武満徹作品への思いを形に残したいという気持ちが勝りました。サウンドプロデュースとアレンジは、信頼している妹の晴夏にお願いし、現在はレコーディングを終えて、ミックスなどの仕上げを進めています。完成したら、その作品を携えて記念ライブも開催したいですね。
きくちいまいは、結成当初はここまで長く続くとは思っていませんでした。でも今では、お互いがそれぞれの活動を持ちながらも、一番純粋に「やりたい音楽」を追求できる場所になっています。これからもライフワークとして、自分たちらしい音楽を届け続けていきたいと思っています。
—これから、新たに挑戦したいことはありますか?
私は昔から、ソロで完結するよりも、誰かと一緒に一つの作品を作り上げることに魅力を感じてきました。いま、興味があるのは、ピアノとエレクトーンのコラボです。まだまだ可能性があると思っています。音響面も含めて、もっと突き詰めていけば、いいものができるんじゃないかなと。
そして、新機種のELS-03Xを自宅用と演奏(搬送)用に2台購入したばかりなので、とても楽しみにしているところです。
【2026年7月インタビュー】