エンジニアから音楽プロデューサーへ

 
音楽との出会いのひとつはエレクトーンだった。

ヤマハの研究所でシンセサイザーのベータテスター・システム開発のバイトをした高校時代。

—高校時代には、もうすでにプロとしての仕事を?
浜松にあるヤマハの研究所に行ってシンセサイザーの開発に携わっていました。高校に入ってからは、エレクトーンからシンセサイザーに夢中になって、その魅力にどんどんのめり込んでいきました。ヤマハの楽器店でバイトをはじめたのも、最新機種がすぐ触れるのが目的でしたね。(笑) ただ展示された最新機種が、複雑な操作で弾こうとするとエラーが出るんですね。それをヤマハの営業所の方が「とんでもないことをしでかす人がいるぞ!」と話題にしてくれて、当時の東京支店から浜松にまで知られるようになって。(笑) それで浜松に、どんなことをしたらエラーがでるのかというデバック検査で呼ばれるようになった。それからは、ベータテスターやプログラムの開発などの仕事をしていました。。
—音楽のプロとしてのスタートラインはシステム開発だったんですね。
システム開発からですね。そこにたどり着くまでには、エレクトーンの最新技術に魅了されて、音楽をやりたい・作りたいという探求心が生まれて、次に、シンセサイザーで音を創ることの魅力を知って、パソコンとシンセサイザーによってさらに広がる可能性を知って、最後はパソコンのプログラムまで勉強するようになって。どんどん技術に没頭していくと、そのうちにヤマハのエンジニアさんに知られることになった。そして、デバックとかシステム開発で実際にヤマハに行ってお手伝いをするようになった。当時は、このままヤマハの研究所でエンジニアになることに自分のベクトルが向いていましたね。

エンジニアからマニピュレーターへ。マニピュレーターから音楽プロデューサーへ。

——ミュージシャンとしてデビューした経緯を教えてください。
ヤマハで技術的な仕事をしていてしばらく経ってからですね、TMネットワークの小室哲哉さんから打ち込みの音を生で演奏したいという相談がありました。そこで「この人なら」と推薦されたのが僕で。(笑)
そこからマニピュレーター(※)という仕事をするようになりました。その後、小室さんのお仕事をするようになってサポートでツアーに同行していました。
(※マニピュレーター:シンセサイザーやシーケンサーをプログラムする専門家。)
そのうち小室さんが、自分の音楽できちんと世界を表現できるんだからソロデビューした方がいいよ、と言ってくれたんです。それでTMネットワークのカバーアルバムを作ったのが、自分のソロデビュー作になった。それからは表現者として、accessやIcemanのユニット活動、TMレボリューションなど、さまざまなアーティストのプロデュース活動をしながら、自分のソロ活動で、実験的なサウンド作りをしています。
—アーティストとして、最近のエレクトーンについてどう思いますか。
最近、ペダルでアフタータッチとかティンパニのロールができたりとか、エレクトーンの表現力がどんどん進化していますよね。その時代の最新技術がエレクトーンには導入されていて、毎回驚いています。僕の子どもの頃にこんな機能があったらなぁ、なんて思いながら。(笑)
—そういう時代の最新技術をエレクトーンが持っているように、浅倉さんも、その時代の先端を求めている、
もしくは表現しているような気がするのですが。
最新テクロノジーが誰にでもわかるものって案外少ない。その中で、音楽であったり映画であったり、エンターテイメントはその進化がとてもわかりやすい。みんなに進化という体験が最速で届けられる。だからこそ、音楽の表現者として生きる自分は、今までになかった音を常に追い求めているのかもしれません。それを新しい音、刺激的な音として、皆さんに聞いてもらえる。それはとても幸せなことだと感じています。
—今、浅倉さんが大切にしていることはどんなことですか。
案外、打ち込み系の音楽作りは孤独だと思われがちですが、実は人と人のコミュニケーションがとても大切です。そのコミュニケーションはいろいろとあって、例えばミュージシャンとしては、僕が思っているメッセージを音に変換して、それを聞いた人が自由に想像して自分のイマジネーションを楽しんでもらう、そんなファンの皆さんとのコミュニケーション。そして、ユニットとしての活動では、お互いに刺激しあって、自分自身が持っていない引き出しを出し合って分け合えるコミュニケーション。プロデューサーとしては、音楽を通して、今までにない魅力をどう引き出して、世の中に出すかというアーティストとのコミュニケーション。そういういろいろな人たちとのコミュニケーションを大切にしていきたい。これは、子どもの頃、学校の音楽室やエレクトーン教室でみんなに聞いてもらった時の、エレクトーンを通じたお互いの共有感があるからこそだと思います。
—これから浅倉さんはどんな方向に向かわれるのですか?
今はインターネットという存在が大きいですね。人々の価値観も大きく変わっている。僕は自分の脳内空間にある音を、時代の最新のテクノロジーを駆使しながら科学実験でもやるように探求していく。それを、さまざまな人とコミュニケーションをしながら、さまざまな音楽シーンに落としていく。 永遠に答えがないのだけれど、完成がないからこそ、音の進化をずっと求めていきたいですね。

浅倉 大介さんから皆さまへメッセージ

音楽を自由に楽しむ楽器。(1/2ページ)