Part 2 サウンド面での進化

Part 2 サウンド面での進化

そのマルチエンジンの1つとして搭載されたAN-X音源は、MONTAGE Mの新機能の中でも大きなトピックです。なぜ今回バーチャルアナログ音源が選ばれたのでしょうか?

大田 実はMONTAGEでもアナログを入れたいという思いはありました。ただ、ヤマハのシンセとしてのオリジナリティをより強力にアピールするためにあえて外したんです。結果、MONTAGEはそれで良かったと思っているんですけれど、柔らかくファットで浮遊感があってずっと聴いてられるようなアナログサウンドの世界を作るのはすごく難しいんです。それで次こそはバーチャルアナログを入れたいというのはあったんですが、そこは一旦伏せて市場調査をかけたんですね。そうしたら、やっぱりアナログへの要求度がダントツに高かった。アナログシンセは一過性のトレンドではなく、例えばピアノ等と同じような1つの楽器としてのカテゴリーになっているのだと思いました。そこで多くの方の意見を集約して、今回搭載することとなったんです。

大野 FM-Xですごくきちんとプログラミングすると、いわゆるアナログシンセっぽい音は出せるんですよ。でも、そのプログラミングには高度な知識とテクニックが必要なのと、アナログシンセって直感的に素速く音が作れるじゃないですか。音そのものだけでなくそういった操作性も含めて、アナログの面白さだと思うんです。やっぱり3本目の柱っていうのはアナログなんだろうなと。ただ、私たちが長年やれてこなかったバーチャルアナログをMONTAGEクラスのシンセに入れるには、相当腹をくくってやらなきゃいけないという認識がありましたし、多くの時間をかけて新しく作り直したような形ですね。

大田 AN-X は、reface CSなどに搭載されているAN 音源の進化形なのですが、アナログ音源は市場から期待されていたので、現在トレンドのバーチャルアナログで要求されることを調査しました。それらを実現するために、試作、ワールドワイドでの評価を何度も繰り返し、開発関係者一丸となってオシレーター部の基本構造から抜本的に作り変えた新しい音源となっています。アナログシンセの振る舞いを忠実に再現しつつ、オシレーター部を中心に自由度の高い複数の変調機能を持たせることで、リアルなアナログサウンドからドラスティックな変化まで出せるようになりました。“伝統”と“革新”の要素を併せ持つ新世代バーチャルアナログ音源になったと思います。

では、AN-X音源を使ったオススメのプリセットを教えてください。

大野 楽器屋さんに行ってぜひ試していただきたいのが、まずLive Setというボタンを押すこと。Live Setには、MONTAGE Mのベストな音色を1ページに16個ずつ並べてあるんです。その1ページ目の“Best of MONTAGE”に、“PolyDreams”といういわゆるノコギリ波系の音色があって、Super Knobをひねるだけでいろいろな変化をします。それから“AN-X”というアナログサウンドばかり並べてあるページがあって、ここの16個もどれも面白いです。鍵盤はどこかを適当に押さえていればいいので、Super Knobいじったり、新しくなったSceneボタンを切り替えたりしてもらうだけですごく楽しいと思います。

大田 いかにもアナログっぽい音を体感できるのは、“Warming Pads”、“OBPower Syn Brass”あたりですね。こういうテイストのサウンドは今まで出せなかったんです。

大野 アナログシンセに詳しい人は元の波形からいじりたくなると思うんですよ。そういう場合はAN-Xのイニシャライズの音を選んで、フィルターを発振させたりといったこともできます。そういう音って、デジタルシンセで出すものではなかったんです。あと、フィルターなどをいじる時に鍵盤を弾いてると片手しか使えないので、KEYBOARD HOLDのボタンも作りました。

大田 KEYBOARD HOLDと一緒にアルペジエーター(ARP)もオンにすると、フレーズを演奏させながらサウンドコントロールに集中できるのでこれもまた楽しいです。MONTAGEのアルペジエーターのパターンはものすごい数があって、アップダウンを繰り返すとか、いわゆるアナログで使いたいシンプルなものを選びにくかったんですね。今回はそういうシンプルなパターンしか出てこないクラシックというモードを用意しています。

音源という点では、AWM2音源はウェーブROMが10GBに倍増されたことをはじめ性能が大きく向上して、FM-X、AN-Xも含めて全体の最大同時発音数が400音になりました。この辺りの進化についてはどういった意図があったのでしょうか。

大田 MONTAGEより品質や表現力を高め、サウンドバリエーションを広げようとすると、いわゆるPCM音源のAWM2サウンドの場合、波形サイズという要素だけではないものの、要求に見合う容量の波形メモリーが必要になってきます。そのための増強です。特にピアノ系では、細かなタッチに合わせたサウンド変化が重要で、それを実現するにはエレメント数を増やす必要があり、今回1パートで最大128エレメントになっています。またエレメントを増やすことで、AWM2の他のサウンドの表現力も向上しています。

大野 1パートにAWM2というシンセシスを使った時に、どれだけ波形を使えるかという話なんです。その音作りの最小単位をエレメントと言っていて、今回128エレメント化された。例えば、128で全部で違う波形が鳴るという組み方ももちろんできるし、1-127のベロシティで全部違う波形が出るといった組み方もできる。ようするに自在にできるんです。あと、PCMであるAWM2にとっては、やっぱり元ネタが命なんですよ。エンジンがどんどん良くなって音の出力も綺麗になっていく中で、そこに負けない艶のあるブラスやストリングスなどを出すにはサンプルを新しく強化する必要があるんです。それから、AWM2はとりあえずいろいろな楽器の代わりになってくれる1番便利な音源でもあります。そうすると、発音数はあればあったで困ることはないので、プリセットで128音、ユーザー波形を足すとさらに128音が追加ができて、合計で256音というところまできた感じです。

その他のサウンド面での進化についてお聞きしたいのですが、新搭載のVCM Rotary Speaker Effect は、バンドで演奏するキーボーディストにとっては注目ポイントかと思います。

大田 そうですね。ステージ・キーボードのYCなどに搭載されているVCM Rotary Speaker Effectを採用しています。また、エクスプレッションがかかる位置やカーブを最適化しているので、オルガンとしてのクオリティーが上がっていると思います。これまでだと歪み感が同じまま音量だけが変わってしまっていたんですが、実際のオルガンと同様に音量と一緒に歪み具合が変わるようになっていたり、エクスプレッションを絞ってもちょっと音が鳴っているっていう状態なども合わせ込んでいます。

大野 MONTAGEもオルガンらしい挙動はそこそこできていたんです。ただ、ロータリー・エフェクトが弱いということで、外付けのエフェクターを使ってる人たちが多かったんですね。例えば、ボリュームを下げるのと一緒にロータリーの回転ノイズも消えてしまうと、オルガンらしさはどこかにいってしまう。そういった挙動も含めてかなり再現はできるようになったと思っています。

大田 サウンドに関連することでいうと、AN-Xが加わってMotion Controlでコントロールできる対象が広がったんですね。テンポやアルペジエーター、モーションシーケンスといったノリを変えるグルーブ系のパラメーターもSuper Knobでコントロールできるようになりました。これまでSuper Knobで同時にコントロールできるパラメーターは128だったんですが、280まで増えています。あと、Motion Sequencerのループやフェードなどもより自由にプログラミングできるように機能を追加しています。

大野 それに加え、パラメーターの解像度が飛躍的に上がっています。これは今後登場するMIDI 2.0に対応するためでもあるんですけど、例えばフィルターのカットオフのレンジが1024になってるので、やっぱり動きが滑らかなんですよ。

大田 パラメーターの数字そのものは高解像度対応してないものも、コントローラー処理が高解像度になってるので、コントローラーを使った音の変化はよりスムーズになっています。

大野 ちなみに出音で言うと、初代のMONTAGEから“Pure Analog Circuit”と呼んで、最後のD/Aコンバーターの後の出口のところの回路にかなりハイエンドなオーディオパーツを使っていたんです。MONTAGE Mではさらにもう1段レベルを上げて、“Pure Analog Circuit 2”となっています。これによりノイズが低減できたり、高域の伸びやかさや中低域の艶っぽさをすごくきちんと出せるようになって、音質そのもの向上にも随分と寄与しています。