Part 4 新たな可能性と開発エピソード
Part 4 新たな可能性と開発エピソード
以前からDAWとの共存は重視されてきましたが、MONTAGE Mでは完全互換のソフトシンセ“Expanded Softsynth Plugin(ESP)がリリースされます(クイックエディット版は2024年1月、フルエディット版は2024年初夏頃リリースを予定)。ソフトシンセ版を出すという発想に至った理由を教えてください。
大田 MOTIFの頃からDAWと連携するためにいろいろやってきましたが、制作上で重要なトータルリコール、バウンス、オートメーションといったことを考えると、ソフトシンセと同様の操作感は仕組み上難しいと関係者とよく話していたんです。MONTAGEでは、MONTAGE Connectというコンピューターとシンセの間で演奏や音色データの送受信をするためのソフトウェアでDAW との間をブリッジする機能を提供してきました。便利に使っていただいているという声を聞く一方で、DAW中心の音楽制作環境の中では不便な点もありました。今回は、ライブパフォーマンスだけでなく、音楽制作においても最適な環境を提供するため、DAWとの連携でより満足感の高いものにしたいと考えていました。DAWの中にハードの分身が入り込み、DAW中心の現代の音楽制作環境で使いやすいものにする。そして、ライブパフォーマンスと音楽制作のシームレス環境実現ということで開発着手に至りました。
大野 DAWを使っていて1番楽なのは、ミックスダウンのボタンを押せば数秒でファイルが出来上がることだと思うんです。ただ、ハードシンセをそこに繋いでいると、実際の時間をかけてその音を録音するところから始めなきゃいけないわけですよね。それで録音しても、“しまった!リバーブをかけたまま録っちゃった!”みたいにやり直しも当然出てくる。そういったことを回避するには、もう同じ次元でDAWと一緒に存在するしかないんですが、完全互換のソフトシンセの開発にはすごいパワーが必要です。私は、大変だなぁと思いながら側で見ているだけなんですけど(笑)。でも、思い切って舵を切ってやるとなれば、とても大きな価値のあるものになる。これだけのハードシンセをそのままプラグインにしたというケースはまだないと思うので。
DAW側で作った音も、ハードのMONTAGE Mに戻せるということですよね。
大野 そうです。音楽制作上で作った面白い音があって、それをそのままライブで生で弾くということも当然できます。
大田 作った曲をライブ演奏する際に同じサウンドを出そうとしたら、基本PCを持って行かざるを得ないですよね。もしくは、似た音を代わりに使うか。でも、ESPを使えば データを同期させるだけでそのまま持っていけるんです。もちろんその逆もあって、通常ライブで弾いているピアノを制作で使いたい場合、鍵盤演奏のスキルのある人だったらオーディオで録っていたと思うんです。ただ、ちょっとしたミスをした時とか、微妙にタイミングずらしたい時にもう1回弾くのは手間だったりします。そこでプラグインとして入れられると、すごく柔軟性がありますから作業もスムーズですよね。もちろんDAWに組み込んだ場合は、ハード本体は必要ないです。ドングルも要りません。なので、移動の途中でミニ鍵盤で仕込みをするといったこともできるんです。
開発にあたって多くの苦労があったことが想像されますが、印象に残っているエピソードはありますか?
大田 MONTAGE と外観が似ているのでマイナーチェンジのように見えるのですが、上下パネルの金型が共通なだけで、内部基板などは全部新規ですし、開発規模的にはもうフルモデルチェンジです。ピーク時は毎日お祭り状態でした(笑)。特にESPや AN-X 関連対応のもろもろのソフト開発は新規要素が多く、開発関係者は皆、非常に苦戦した印象です。“ちょっと相談したいことがあるんですが”と声をかけられるたびにドキドキしていました。
どんな人にMONTAGE Mを使ってみてほしいですか? 使い方の提案などもお願いします。
大田 シンセを好きな人みんなに使ってほしいなと思うんですけれど、個人的には、先代のMONTAGEを触って“これ違うな”って思った人にこそぜひ触ってほしいというのがあります。その人の好きなように使ってもらえればいいのですが、あえて言うなら、先ほどから話が出ているQUICK EDITを触ってみていただきたいです。それでもし詳細なエディットをやりたくなったらPAGE JUMPで跳んで、そこで迷ったらNAVIGATIONで目的の場所に行ってください。あとは、やはりESPですよね。DAWに入ったMONTAGE Mをぜひ体感していただきたいです。そうすることで、制作とライブの両方でMONTAGE Mを使っていただけることになるので、より音楽生活が充実するかな、そうなると嬉しいなと思います。
大野 私も同じ思いです。ヤマハの作るものだから、MONTAGEも結局はピアノ寄りなんでしょ!っていう人たちは結構いらっしゃるんだろうなと。そういう方々にはぜひ触っていただきたいです。あと、ずっとアナログをやっていなかったヤマハのアナログってどうなの?って言われた時に、ここが1つの答えだと思ってます。そして、操作具合がすごくよく出来上がってるので、プラグインとして使うよりも実機を触ってる方が圧倒的に楽しいし速いです。それだからこそ、実機+プラグインという発想に至ったことが使ってみるとわかってもらえるのではと思っています。
取材・記事制作 協力 FILTER編集部