【最終章】 楽器として完成した「MOTIFシリーズ」

2001年に発売された「MOTIF」は、2003年「MOTIF ES」、2007年「MOTIF XS」、2010年「MOTIF XF」と、フラッグシップモデルとして歩みを重ねてきた。1号機「SY-1」発売から時代を代表する数々の名曲を支えてきたヤマハのシンセサイザーは、2014年に40周年を迎え、その記念モデルとして「MOTIF XF」を純白に染め上げたシンセサイザーがリリースされた。この白はヤマハシンセサイザーの原点に還る白である。

【最終章】 楽器として完成した「MOTIFシリーズ」

ナンバーワンワークステーション

 マーケットの意見をより多く採り入れる戦略は、ある一定の成果を出し、「S80」などはステージキーボードとして高い評価を受けましたが、「SYシリーズ」、「EXシリーズ」と続いたワークステーション分野においては、多くの人に受け入れられるシンセサイザーを開発するに至っていませんでした。
 90年代にパーソナルコンピューターが著しく進化して低価格になっていくと、音楽制作のトレンドは次第にコンピューターを中心としたシステムに移り変わっていきます。しかし、当時のコンピューターを自由に使いこなすには、ある程度技術的なことを理解している必要があったため、純粋な音楽家にとっては若干敷居が高いのも事実でした。そのため、コンピューターの知識に長けていない音楽家たちにとっては、シンセサイザー1台ですべての音楽制作が完結するワークステーションが便利なものだったのです。しかし、90年代後半からコンピューターのOS(WindowsやMac OS)が著しく進化し、あまりコンピューターに詳しくない人でも使いこなせるようになっていくと、多くの音楽家たち(プロアマ問わず)がコンピューターを中心とした音楽制作を採り入れるようになっていきます。このように時代が変化していくと、単純に一台完結で音楽制作ができるワークステーションシンセサイザーがニーズに合わなくなり始めます。
 そこでヤマハでは、こういった市場の動向も採り入れ、新しいワークステーションシンセサイザーの方向性を次の3つのポイントに注力して開発することにしました。

 まず一つ目に「音が良いこと」。
 これは、レコーディング、ライブ、ともに実用的で表現力豊かな音が出せるという意味で、単体の楽器音はもちろんのこと、曲作りにおいて創造性をかき立てるようなサウンドを目指すという意味です。シンセサイザーとして多彩な音が出せることも重要ですが、楽器である以上、一つひとつの音の良さが何よりも重要です。

 次に「簡単に音楽制作ができること」。
 使い方の難しさに翻弄されて、本来の音楽制作に集中できない、などということがないように、ユーザーインターフェースを向上させることや、短時間で素晴らしい音楽制作を可能にするなど、ハードウェアの良さを利用して使いやすさを追求するといった部分です。

 最後に「コンピューターインテグレーション」。
 これがまさに新しいワークステーションシンセサイザーの方向性とも言うべき部分で、コンピューターとの親和性を意味しています。すなわちシンセサイザー単体だけで音楽制作を行うことを最終目的とするのではなく、コンピューターを中心としたシステムに組み合わせても活用できるワークステーションを目指したのです。

「MOTIF」誕生

 当時 KANGAROOという開発コードネームで進めていた新型ワークステーションは、「S80」開発当時から推し進めてきたPCM波形(サンプリングされた音の元波形)の向上や、インテリジェントなアルペジエイター機能、DAW(Digital Audio Workstation)ソフトウェアのリモートコントロール機能の搭載などを中心に、前述の3つのポイントを網羅したナンバーワンワークステーションへと進化していきます。
 この KANGAROOが元となって商品化されたワークステーションシンセサイザーが、2001年に発売されて世界中にインパクトをもたらした「MOTIF」というシンセサイザーです。
 ワークステーションとして「MOTIF」の前の機種にあたる「EXシリーズ」では、「VL」や「AN」などのそれまでに開発してきたさまざまな音源システムを搭載していましたが、「MOTIF」では基本的な音源システムをAWM2とし、それ以外の音源システムはプラグインボードで対応することでシンプルな使い勝手と拡張性を両立させました。またシーケンサー部分には、この当時に浸透し始めていたオーディオループ(数小節程度のドラムループなど)を使用した音楽制作に対応するため、「Integrated Sampling Sequencer(ISS)」を搭載しています。このISSはオーディオループのビートを自動的に検出して波形を分割し、それぞれに自然なリリースを付加することでテンポを変更してもサウンドに違和感を出さないインテリジェントなタイムストレッチを可能にしているほか、分割した波形の順序を入れ替えて新しいグルーブを作成したりすることが可能です。もちろんテンポを変えずにピッチ変更を行うこともできますので、ドラムループだけでなく音階のあるフレーズに対しても非常に有効です。このISSを活用することで、現在のDAWソフトウェアでは当たり前となっているオーディオフレーズとMIDIフレーズを融合させたインテリジェントな音楽制作を実現したのです。

 さらに、ライブ演奏やアレンジなどで効果的に使用できるインテリジェントなアルペジエイターも装備しています。アルペジエイターというと和音を押さえた時に押さえた鍵盤の音を上下に順番に演奏する動作をするものをイメージしますが、「MOTIF」はそれだけにとどまりません。例えば「ソ」の鍵盤を弾くと「ソ、ラ、ソ」というフレーズを奏でるアルペジエイターがあったとして、これを特定のベロシティー(鍵盤を弾く強さ)以上のときに動作するように設定しておくと、フルートやギターなどの音色で演奏中に強く弾くとトリル演奏を実現するということが可能になります。このように単純な上行、下行フレーズだけでなく、さまざまな演奏表現に使用することが可能となり、それまでキーボード演奏だけでは表現が難しかった演奏表現が簡単に実現できるというのも「MOTIF」の大きな特長と言えるでしょう。

画像:「MOTIF6/7/8」カタログ英語版

「MOTIF6/7/8」カタログ英語版

ハードウェア面の革新

photo:An explanation of the Integrated Sampling Sequencer(ISS), from the MOTIF 6/7/8 Japanese catalog

「Integrated Sampling Sequencer(ISS)」の解説、「MOTIF6/7/8」カタログより

 ソフトウェア面だけでなく、シンセサイザー本体の仕様もそれまでのヤマハシンセサイザーと大きく変わっています。まず、同じ音源仕様を持ったシンセサイザーを鍵盤数違いでラインナップするという点です。それまでプロ向け、エントリー向け、ステージ向けといった具合に用途を分け、それぞれに適した鍵盤数と、筐体の大きさ、搭載する機能で分類するのが一般的でしたが、「MOTIF」シリーズでは全く同じ音源仕様で61鍵、76鍵、88鍵という鍵盤数違いのモデルをラインナップしています。88鍵モデルだけ鍵盤の種類は異なりますが、つまみの数や搭載されている音色も全く同じであるため、どのモデルでも同じように使用できるというのが非常に大きなポイントです。これはリハーサルスタジオやレコーディングスタジオに常設されている楽器を使用するときや、ツアーなどで楽器をレンタルする際に非常に有効で、自宅では61鍵モデルしか持っていなくても、移動先の76鍵や88鍵の「MOTIF」で違和感なく演奏や制作が行えるという画期的な発想です。さらに音色やシーケンスデータを保存できるスマートメディアスロットも搭載しており、カード1枚にすべてのデータを書き込んでおけば、世界中のどの「MOTIF」でも自分の環境を実現できます。
 また、本体左側にフェーダーやツマミを効率的に配置し、音色やアルペジエイターのコントロールを瞬時に行えるほか、これらの操作子を駆使してコンピューターで動作しているDAWソフトウェアをリアルタイムにコントロールすることが可能になっています。これがまさにコンピューターインテグレーションと呼ばれる部分で、USBケーブルまたはMIDIケーブルで接続することにより、コンピューターを中心としたシステムの中核に「MOTIF」を組み込むことが可能です。
 この他にも「MOTIF」には当時プロミュージシャンの間でスタンダードとなっていたサンプルライブラリを読み込むことができる機能や、スタジオ機器と直接デジタル接続ができるデジタルアウトプットの装備、さらにはステージ映えする斬新なデザインとカラーなど、プロフェッショナルワークステーションシンセサイザーとして必要な機能をすべて盛り込んでおり、コンセプトとして掲げていた3つのポイント以外にも市場の意見を採り入れたさまざまな要素が注ぎ込まれています。
 こうして完成した「MOTIF」は発売後に非常に高い評価を受けます。まずは音質面ですが、アンサンブルの基本となるベーシックな楽器を中心にWAVE ROM(波形を保存するメモリ)をふんだんに使ってブラッシュアップを行った結果、エレクトリックピアノ、ベース、エレクトリックギターなどのサウンドが特に評価されました。さらに内蔵エフェクトのクオリティも高い評価を受け、プロフェッショナルなレコーディング現場などに急速に浸透していきます。また、ISSを搭載していることで、ドラムサンプリングを主体とした音楽制作が簡単にできるようになり、それまで一部のダンス系ミュージシャンのみが活用していた音楽制作の手法が、ポピュラーミュージックのアーティストにも広がっていきます。全米チャートにヒップホップ系のサウンドがチャートインするようになったのも「MOTIF」発売以降のことで、「MOTIF」という楽器が少なからず音楽シーンに影響を与えたと言っても過言ではないでしょう。

メガボイスへのさらなる進化

画像:図1 ピアノ音のサンプリングの例

図1 ピアノ音のサンプリングの例

 「MOTIF」で手応えをつかんだ開発陣は、すぐさま2代目の「MOTIF ES」の企画に取りかかります。2代目「MOTIF ES」の最大の進化はWAVE ROMの倍増です。それまで85MBだった波形用のメモリー容量を175MBにし、より多くの波形を内蔵するという試みです。波形が増えるというと、単に音色数が増えるだけというふうに感じる方が多いかもしれませんが、実は音色の向上において波形の容量は非常に重要なポイントなのです。例えばピアノ音色のサンプリングを考えてみましょう。ピアノの波形とは図のようにだんだん減衰していく波形なのですが、グランドピアノを弾いてサンプリングを行うと音が消えるまでに数十秒の時間が経過します。これをすべてメモリーに納めようとすると、あっという間にメモリーがいっぱいになってしまうため通常はループという手法を用います。

 ピアノの場合、アタック部分では非常に複雑な倍音構成で時間的な変化も激しいのですが、音が伸びている部分は同じ波形の繰り返しになっており、そのまま減衰していきます。そこで、音が伸びている部分を適当な長さでループして、その繰り返しに音量変化をつけることで実際のピアノの音と同じような音の切れ方を再現することができます。こうするとループの後ろ側にある波形は必要なくなるので、その部分をカットしてしまえばメモリーの容量を削減した状態で音を記録することが可能になります。(図1参照)
 しかし、あまり前の部分でループをしてしまうと本来の微妙なニュアンスを再現することができず、平坦で機械的な音になってしまいます。すなわち贅沢にメモリー容量を使うことで、よりリアルで高音質なサンプリングを実現できるというわけです。さらに本物の楽器を演奏したときに生じる微妙なノイズ(ピアノを例に取るとハンマーアクションの音やダンパーペダルの操作音など)もサンプリングし、それらを効果的に混ぜることでより本物らしい音を実現できます。「MOTIF ES」では、初代「MOTIF」ではメモリー容量の問題で実現できなかった演奏表現を追求し、さらなる高音質化を計っています。「キーボードメガボイス」と呼ばれる音色では、ギターのミュート奏法やハーモニクス奏法のように、本来別々の音色プログラムを呼び出して使用するような音色もベロシティーなどの演奏情報で切り替えられるようになっており、シンセサイザーに楽器としての表現力を持たせる重要なポイントになっています。

画像:MOTIF ES7

「MOTIF ES7」

画像:MOTIF ES7 幻となったプロトタイプ「フェラーリレッド」

「MOTIF ES7」
幻となったプロトタイプ「フェラーリレッド」

革新的な進化を遂げた「MOTIF XS」

画像:MOTIF XS8

「MOTIF XS8」

 2代目の「MOTIF ES」も堅調に浸透し、「MOTIF」シリーズというシンセサイザーがプロアマ問わずに幅広く活用されるようになると、次のモデルに対する期待感もどんどん膨らんでいきます。そんな中、3世代目の「MOTIF」として発売された「MOTIF XS」は、WAVE ROMを「MOTIF ES」の倍にしただけにとどまらず、機能面でも大幅な進化を遂げています。
 まず、シンセサイザー本体のソフトウェアを駆動するオペレーティングシステムを変更しました。それまでのOSはシンセサイザー開発専用に開発されたものだったため、コンピューターと接続してさまざまな機能を実現するためには、独自のドライバーソフトウェアなどを開発する必要があり、コンピューター側のOSが変更されるとこれらを作り直す必要があるなど、非常に手間が掛かっていました。しかし、もともとコンピューター用に作られているLinuxなどのOSを導入すれば、こういった問題もスムーズに解決でき、開発スピードも加速させることができます。さらに、後から機能を追加するためのアップデートも容易にできるようになりました。「MOTIF XS」は鍵盤の付いたコンピューターといっても過言ではないかもしれません。
 さらに、「MOTIF」シリーズの大きな特長といえるアルペジエイター機能を大幅に改善しました。それまで一つの音色につき一種類のアルペジエイターを駆使してフレーズを組み上げるスタイルだったものを、4つのアルペジエイターを併走させてより複雑なフレージングを可能にしました。初代「MOTIF」のところで解説したトリルや上行下行フレーズを単に4つ組み合わせてもあまり効果的ではないように感じますが、アルペジオのノートデータをドラムフレーズに応用すると、全く違った世界観が見えてきます。「MOTIF」シリーズで演奏する場合には、ピアノやギターといった単体の音色を奏でることを目的としたVoiceモードと、Voiceモードの音色をレイヤーして異なる楽器の音を同時に奏でることができるPerformanceモードという2つのモードがあるのですが、このPerformanceモード時に4つのアルペジエイターを駆動させると、最大4音色のシーケンスフレーズを同時に演奏することができます。例えば1ボイス目をドラムに設定して、アルペジエイターを使用してドラムループを奏でたとします。2ボイス目をベース音色にしてベースフレーズを、3ボイス目をピアノ音色にしてピアノのバッキングフレーズを、さらに4ボイス目をギターの音色にしてストロークのフレーズを奏でさせると、これだけでバッキングパターンを構築することができます。これだけだとシーケンサーに打ち込んだパターンシーケンスと何ら変わらない気もするのですが、基本的にはアルペジエイターですので、押さえている鍵盤に応じてフレーズが変わります。ドラムフレーズはキーの変更を行わないようにしたとして、その他の3つのボイスについては鍵盤を弾く位置でキーが変われば、リアルタイムにキーを変更させることが可能になります。さらに「MOTIF XS」では鍵盤の押さえ方からコードを認識する機能を搭載しているため、リアルタイムにコードチェンジをさせながらバッキングフレーズを奏でることができるという画期的な機能を実現しています。もちろんコードチェンジ機能を持ったパターンシーケンサーを搭載したシンセサイザーもあるのですが、「MOTIF XS」の場合には鍵盤を押さえたときのベロシティーに対応してフレーズを変化させる機能も装備しているため、より有機的なアプローチを行うことができます。例えばある一定のベロシティー以上で弾くとドラムパートのアルペジエイターにクラッシュシンバルとバスドラムを出現させるように設定しておけば、演奏中にアクセントシンバルを演奏させたり、“8分音符や16分音符で食う”といった演奏も実現できます。このように演奏者の感性で自由にフレーズをコントロールすることができるという点が、パターンではなくアルペジエイターという名称をかたくなに守り続けている「MOTIF」シリーズのこだわりとも言えるでしょう。

基本機能の向上に注力した「MOTIF XF」

画像:MOTIF XF7

「MOTIF XF7」

 「MOTIF XS」の発売から3年後の2010年、「MOTIF XS」の基本機能をさらに向上させた「MOTIF XF」を発売します。355Mバイトだった「MOTIF XS」のWAVE ROMを741Mバイトに倍増し、さらに強力な音色を搭載したほか、「フラッシュメモリーエクスパンションモジュール」を使用することで、最大2Gバイトまでのサンプリングおよび波形データを記憶できるなど、拡張性にも配慮しました。前モデルの「MOTIF XS」でも音色拡張を行うことはできましたが、フラッシュメモリではないため、電源を投入するたびに波形データをロードする必要がありました。しかし、フラッシュメモリの採用でプリセットと同じ感覚で拡張音色の使用が可能となりました。さらにバージョンアップで、エフェクトをはじめとするさまざまな機能をアップデートすることも可能で、本体を買い換えなくても常に進化し続けることができるシンセサイザーへと変わっていったのです。

 また、ハードウェアの基本性能も見直されています。音質に関わるパーツが再選定され、アナログ回路の駆動電圧を「MOTIF XS」からアップ。これにより音のハリや重厚感などが圧倒的に向上しています。
 このようにこれまでのノウハウを集約し、コンテンツ力と技術力をバランス良く注ぎ込んだ4世代目の「MOTIF XF」は、まさに「MOTIF」シリーズの集大成とも言うべきモデルで、発売以来現在でも多くのミュージシャンに高い支持を受けています。初代「MOTIF」から「MOTIF XF」まで、2000年代を駆け抜けた「MOTIF」シリーズは、その使いやすさと音の良さ、高いパフォーマンスで、実質的にナンバーワンワークステーションシンセサイザーの地位を獲得したと言えます。レコーディングスタジオをはじめ、ツアー用のレンタル機材など、一世を風靡した「DX7」に優るとも劣らない普及率で今もなお世界中のミュージシャンを支えています。

画像:「MOTIF XF」カタログ(英語版)より 初代MOTIF から10 年を数え、歴代モデルが紹介された

「MOTIF XF」カタログ(英語版)より
初代「MOTIF」 から10 年を数え、歴代モデルが紹介された

姉妹機種への継承と「CPシリーズ」

 2000年代は「MOTIF」シリーズしかリリースされていないかというとそういうわけではなく、2005年に発売された「MOシリーズ」や、画期的な軽量化を図った2007年リリースの「MMシリーズ」など、「MOTIF」の技術を継承したミドル、エントリー向けモデルも多数リリースされています。ここでも「MOTIF」シリーズと同様に全く同じ使い勝手で活用できる鍵盤数違い(または鍵盤種類違い)のモデルをラインナップしており、同じシリーズであれば瞬時に使いこなすことができるようになっているのも特長と言えるでしょう。

 「MOXシリーズ」および現行の「MOXFシリーズ」では、「MOTIF XS」で搭載された4パートアルペジエイターも搭載されており、インテリジェントなアルペジエイターパフォーマンスを楽しむことができるようになっています。また、ティーンエイジャーにも手の届く小型シンセサイザー「MXシリーズ」においても「MOTIF」直系のPCM波形が贅沢に使用されており、エントリーモデルにおいても高いパフォーマンスを実現しています。

 また、2000年代のもう一つトピックとして、ステージピアノ「CPシリーズ」のリリースも見逃せません。1976年に登場した「CP70」から1985年に「CP60M」を出して以来休眠していた「CPシリーズ」が、「MOTIF」で培った大容量WAVE ROMや高音質サンプリングコンテンツを活用して再び市場に登場したのです。コラムにも記載したとおり、「CPシリーズ」には実際に弦を張ったピアノの音をピックアップで拾うElectric Pianoタイプと電子的に音を作り出すElectronic Pianoタイプの2種類があるのですが、現代の「CPシリーズ」は40年近くの歳月を経て双方の良さを融合したといっても良いかもしれません。この新しい「CPシリーズ」も「CP1」を筆頭にさまざまなモデルが開発され、現在の「CP4 STAGE」に代表されるようにステージピアノとしての時代のニーズに沿った形で確実に進化しています。これもマーケットリサーチを製品にフィードバックするという2000年代のシンセサイザー開発がもたらした結果と言えるでしょう。

画像:左上下:CP4、右:CP1

左上下:「CP4 STAGE」、右:「CP1」

ヤマハシンセサイザー40年の歩み

 1974年の「SY-1」からスタートしたヤマハシンセサイザーの歴史は、音源システムの革新、ユーザーインターフェースの進化、コンテンツの充実など、さまざまな過程を経て2014年発売の「MOTIF XF WH」へと受け継がれています。技術革新を追求することで前に進んできた70年代~80年代には、鍵盤機構や音作りの原理といった基礎的な部分を構築し、苦悩の90年代には「楽器として本当に必要なシンセサイザーはなにか?」という大きなテーマに試行錯誤を繰り返し、核心に少しずつ近づいていきます。現在の「MOTIF」シリーズが世界中のミュージシャンに愛されている理由は、「SY-1」開発当時から掲げてきた「楽器らしい音を出す」というテーマをさまざまな技術力で追求したことと、時代の変化に対応して「使いやすいシンセサイザー」を目指した結果ではないでしょうか。この40年間で確立したさまざまな技術やコンテンツは、単にシンセサイザーという電子楽器を進化させただけではなく、多くのアーティストの創造性をかき立て、レコーディングやライブを通して音楽そのものにもさまざまな影響を与えています。今後も、アーティスト、ミュージシャンと共に新しい音楽シーンを作るために、ヤマハシンセサイザーは革新的な進化をし続けていくでしょう。