CX Series

Yamaha Product Design Laboratory Kazuhito Nakajima

CFXではグランドピアノの固定観念や様式を打ち破りたかった。

ヤマハピアノの新たなフラッグシップモデルである「CFX」のデザインでは2つのことを目指しました。1つは機能を研ぎ澄ませることで「グランドピアノ本来が持つ魅力を際立たせる」こと。そしてもう1つは現代のピアノらしい「革新性」を示すこと。これらによって伝統的なグランドピアノデザインの固定観念や様式をなんとか打ち破りたいと考えました。

CFシリーズのコンセプトは「美が響く力」です。ピアニッシモの繊細な音色からフォルテッシモの力強い音の鳴りまで、表現力豊かな美しい音をコンサートホールの隅々まで響かせるということ。その「音の遠達性」は「デザインの遠達性」と一体であるべきと考え、観客に音色を美しく印象づける、力強く明快な側板形状を作り上げました。それによってホールのすべての観客がCFXの外観を認識できるデザインを実現しています。特徴的な腕木の形状は観客にCFXの斬新さを強くアピールしますが、その一方で演奏者の視点からは造形要素が減ったことにより鍵盤まわりに自由な広がりを感じさせ、ピアニストの意識を開放することで、表現者としての感性を駆り立てます。この2つの視点が融合することで、観客に対してピアニストの姿と指先を美しく際立たせるデザインが生まれました。

ペダルボックスは2本の脚でボックスを挟み込むという新規構造を採用しました。この構造はピアニストが全力でペダルを踏み込んでも揺るがない高い剛性を与えながら、同時に今までにない造形でCFXの斬新さを示します。また全体の形状も「研ぎ澄まされた音」を体現するために不必要な造形を省き、各部のつながりやバランスを洗練された形で再構成しました。フルコンサートグランドピアノにふさわしい華やかさと威厳、そしてホールの隅々にまでCFXらしさを伝達できる独創的なシルエットによって、ヤマハが目指す「現代的なグランドピアノデザイン」を示すことができたと思っています。同時に「常に新しい時代を切り拓いていく」というヤマハの強い意志もデザインに込めることができました。

ピアニストの視点を優先して現代のピアノとしての革新性を実現したCXシリーズ。

コンサートグランドピアノのCFXとグランドピアノの中核モデルであるCXシリーズでは想定しているピアニストや使用シーンは全く違いますが、すべてのピアノでヤマハが目指している「現代的なピアノのデザイン」という本質的な部分では共通しています。それは「不必要な造形要素を除くこと」、あるいは「側板の形状、足桁と脚柱、脚柱とペダルボックスなど各部つながりやバランスを洗練させて再構成する」といった部分です。CXシリーズは腕木の装飾的な要素を省いたところが大きな特徴ですが、他にも脚柱の先やペダルボックスなど同じデザイン手法を使っている部分が随所にあります。従来のピアノの装飾手法は実は古い建築様式に由来するものですが、CXシリーズではそれらの要素を一切省き、現代的に再構築しています。これはCFXの流れを汲んだ新しいヤマハピアノのデザインと同じアプローチです。

その一方、コンサートで使われるCFXとは異なってCXシリーズはご家庭や、音楽大学での練習用、あるいは学校の講堂での小規模なコンサートといった使用シーンを想定しているため、外観のデザインは観客側からの視点よりピアニスト側からの視点を圧倒的に優先しています。CXシリーズにはCFXのような遠達性を備えた側板形状は必要ありませんので、従来のグランドピアノの造形の特徴を直線と曲線を組み合わせることでシンプルに表現しました。そのアプローチによって腕木まわりの黒鏡面の平滑面を強調することができ、掛川製ピアノの品質の高さを効果的にアピールできたと思っています。またフレームには新しい音叉マークエンブレムや高い品質感を感じさせる品番ロゴなどが盛り込まれています。そうしたディテールを含め、ピアノ全体から洗練された印象を感じ取っていただけると思います。

CXシリーズのデザインを行うにあたって大きかったのは、やはりフラッグシップモデルであるCFXで高い評価を得ることができたことでした。そのおかげで私たちが考える「現代的なピアノのデザイン」が受け入れられた、という自信が持てました。今までは「あまりイメージを変えすぎるとお客さまに受け入れていただけないのでは」という部分がありましたが、そこから「思い切って変えてもいいんだ」と意識を切り替えることができました。CXシリーズにおいても、今まで以上に「自分たちがどういうデザインを目指したいのか」という視点でデザインできたと思っています。

新しい音叉マークエンブレムと品番ロゴ

中嶋一仁

ヤマハデザイン研究所

1990年入社。スポーツ用品の商品デザイン担当に配属。翌年より楽器領域担当としてしアコースティックからデジタルまで様々な楽器の商品デザインを数多く手懸ける。
その他アコースティック楽器の加飾における工芸的価値表現の追求、ロゴやパッケージ等の商品周辺のプロダクトグラフィックの担当多数。
現在は楽器全般に加え、ゴルフ用品からPAやAVなどの音響機器まで横断的に商品デザインを担当するプロダクトデザイングループマネージャー。