第4回 カデンツとコード進行の基礎

コードについて学ぶ

第4回 カデンツとコード進行の基礎

I. コード進行のルール

コード進行には基本的なルールがあります。それはずい分昔、バロック時代の後半にはほぼ確立しました。 今回は、その基本的な進行についてまずお話ししましょう。

I-1. 音楽の文章の基本ルール

音楽は、第1回目にお話しした、S(サウンド)H(ハーモニー)M(メロディー)R(リズム)でできています。それらが、お互い同時に、また時間がずれて起きている現象が音楽という訳です。
今、コード進行に目を向けてみましょう。そこには小さな始まりと終りが幾つも繰り返されて全体の音楽を形作っています。

I-2. 音楽の基本ルールとなる文章の型

一般に、音楽の文章の型のことを、カデンツ(ケーデンス)といいます。
  • 1. カデンツ第1型(K1) T-D-T
  • 2. カデンツ第2型(K2) T-S-D-T
  • 3. カデンツ第3型(K3) T-S-T
Tはトニック: 始まりや終止の和音となります。言葉に置き変えると、主語のようなものです。
Dはドミナント: 最も緊張状態にある和音です。言葉に置き変えると、述語のようなものです。
Sはサブドミナント: D(ドミナント)を飾る和音です。言葉に置き変えると補語のようなものです。

I-3. T、D、Sにおける具体的な和音

それでは、TやDやSというのは具体的にどんな和音のことを言うのでしょうか。
これはまた、Cmajorの音階と和音でお話ししましょう。



(1)Tの和音: I(C)、III(Em)、VI(Am)
(2)Dの和音: V(G) ※[VII(Bm-5)]
(3)Sの和音: II(Dm)、IV(F)

※注 VII(Bm-5)は、一般にV7の根音省略でV(D)と考えます。

セブンスコードでも同じです。


また、短調(minor)も考え方は同じです。
ここではカデンツの型を和音で表わした例を挙げてみましょう。

I-4. 借用和音

借用和音とは、他の調からちょっとだけ借りた和音のことをいいます。 借用和音のおかげで、音楽全体が豊かになってきます。ここでは副Vの和音についてお話ししましょう。


※注 VII/V7はVIIの和音が減三和音なのでありません。


少し複雑になってきました。しかしよく見てみると、Cmajorの各和音にV7の和音がくっついて、調を一時変化させてしまっていますね。もちろん、これも転調と考えて差し支えないのですが、もとの調にすぐに戻ってしまうとき、それを借用和音と見なします。
ですからCmajorの借用和音は、A7、B7、C7、D7、F7です。
注意すべきことはカデンツの関係です。これらの借用和音は、転調と見なしたときにはD-Tとなります。借用和音と見なしたときには、♯、♭の臨時記号を取ったときの機能(T、D、S)となります。

II. 「エンターティナー」の借用和音とカデンツ

ここでは前回"実践してみよう"で取り上げたスコット・ジョプリンの「エンターティナー」を再び例に取りお話ししましょう。


※注 原譜を見るとわかるように、コードがCのときベースがG音になっています(I2)。このI2はV(7)と結びついてD(ドミナント)となります。

  • 1. まず始めに、今回説明した借用和音についてです。そうです。CDが副Vの借用和音に当りますね。機能で表わすとCT(トニック)DS(サブドミナント)となります。
    残った2つの和音、Am-5Fm次回借用和音IIでお話ししましょう。

  • 2. 次に、この曲全体の音楽の文章、そうカデンツですね。今回はAm7-5とFmの2つの和音を抜いて、カデンツのアナリーゼ(分析)をして見ましょう。
    譜例を見てわかりますね?K1、K2、K3の三種類の型の中に入っていますね。この小さな文章が集まって曲ができていることがわかりましたか?


III. 実践してみよう

今回は「エンターティナー」のベースラインに注目してみましょう。


これがスコット・ジョプリン本人の作った曲です。Bの譜例と較べて弾いてみて下さい。ハーモニーは全て同じですね。違いは…?そうです。ベースです。
始めの譜例では、根音(ルート)がいつも最低音になっていましたね。しかし作曲家本人の楽譜では、ルートだけではありませんね。メロディーを引立たせています。そして、ベースも、裏方の仕事ではありませんよ、と言うがごとく、しっかり主張するように作られています。これで音楽も引き締まってきますね。このベース選びも、実は音楽の大切な要素になってきます。楽しんで音を出して見て下さいね。

第4回目いかがでしたか。今回はコード進行の基本ルールと借用和音についてお話ししましたが、これは、クラシック、ポピュラーともに基本を成しているルールです。いろいろな曲に挑戦しながら、カデンツについて、借用和音について、美しいベースライン等を探してみて下さい。
次回は最後の5回目です。ポピュラー音楽で最も多いコード進行や、少し複雑なコードネームについてお話ししましょう。