第5回 楽譜を作る

作曲入門講座

第5回 楽譜を作る

リコどん、ツアーコンサートから帰ったりこっちのもとを訪れます。もちろんりこっちのアドバイスによってハーモニーを付けた「悲しみ」を携えています。

りこっち
りこっち
「リコどん~。久しぶり~。旅をしながらリコどんが元気にしてるか、そして私の手紙を読んで作曲を楽しんでくれているかと、いろいろ心配してたのよ。」
リコどん
リコどん
「うん、ぼくは元気だったよ。りこっちこそ大丈夫?お疲れではないのかい?」
りこっち
「いいえ、コンサートがとても楽しくて、元気になったよ。さてと。作曲のほうは進んだ?」
リコどん
「うん、りこっち、ありがとう。手紙のお陰で『悲しみ』のハーモニーを何とか付けてみたよ。」
りこっち
「見せて見せて~!」

りこっちはの「悲しみ」の楽譜をさっと見てから、ピアノの前に行くと、なにやらごそごそ。
すると、ピアノが楽譜通りに「悲しみ」を弾き始めました。リコどんはりこっちが何をしたのか少しだけ気になりましたが、それよりも聞こえてきた「悲しみ」の方が気になってしまいました。
それはリコどんの想う「悲しみ」とは全く異なり、何か無味乾燥な感じがしました。


りこっち
「どうだった?」
リコどん
「うーん、おかしいな~。正直いってぼくが想う『悲しみ』じゃないよ。何というか、その……。音の変化や音楽の表情がないのかな。それに速さもぼくが想っていたのと違うんだ。」
りこっち
「そうでしょ。今のはこの『悲しみ』の音符をただ弾いただけ。今日はいまリコどんが感じたことを楽譜に書きとめることについてレッスンをしようと思うの。言ってみれば、楽譜の整備。これがある程度はっきりしてないと楽譜とは言いがたいの。」
リコどん
「そういえば楽譜には音符以外にいろいろと書き込んであるよね。」

リコどんが楽譜によくあるいろんなものを思い出している間に、りこっちは一枚の用紙を取り出し、また何やらごそごそと。どうやらまたなにか書いてくれているようです。


りこっち
「さて、リコどん、この『楽曲の速さの表示』を見て。これが一般に音楽の速さを表示するときのイタリア語。もっと色々あるけれど、始めはこれくらいで充分ね。」
リコどん
「これは楽曲の始めに書いてある言葉だね。見たことがあるよ。りこっち、速さを具体的に表すのはメトロノームがあるよね。」
りこっち
「そうね、リコどんも音楽の授業で見たことがあるかしら。メトロノームの速さとこのイタリア語が一致するようになると良いけど、あまり数字にこだわらない方が良いの。さて、『悲しみ』の速さをここから選んでみて。」
リコどん
「うーん……速い曲ではないし、かといって遅くもないし……。」
りこっち
「『Andante』か『Moderato』になるということね。Andanteはゆっくりと歩く速さ、Moderatoは中ぐらいだとすると……。」
リコどん
「ゆったりした感じは欲しい。Andanteはどうかなぁ。」
りこっち
「いいね。私もこの曲からくるイメージはAndanteだった。ちなみにメトロノームでいうとM.M.(メトロノーム)=60~70位ってところね。これで楽曲の速さは決まったね。じゃあ、次はこれ。」

りこっちはまた用紙に向かい、何やら書き始めた様子。

りこっち
「これはとても大事な表示なの。『奏法』に関すること。特に『スラー』は滑らかに演奏するということと、小さなまとまり(フレーズ)を示すことにもなるの。それはメロディーの呼吸感も表すことになるので、何度も歌ってみて決定しなければいけないよね。」

リコどんには見たことのあるものと無いものがあり、記号と意味を考えていた。するとりこっちがピアノの譜面台から「悲しみ」の楽譜をリコどんの前に示し、

りこっち
「さあ、これに速さ、そうそう、速さのことをテンポというのは知ってるよね。そのテンポの表示Andanteを書き込み、スラーやスタッカートの奏法の記号を書き入れてみよう。」

リコどんは早速ペンを取り出し、ピアノの前に座り、音を出したり、声で歌ったりしながら楽譜に書き込んでいきました。もちろんりこっちが隣で様々なアドバイスをしてくれたことで出来たことは言うまでもありません。



りこっち
「これで随分本物の楽譜に近づいてきたね。でもまだもうひとつ残っているの。リコどん、ちょっと疲れた?」
リコどん
「と~んでもな~い。まだまだ大丈夫だよ。」

リコどんは確かに少し疲れてはいましたが、楽譜の整備が少しずつ出来上がることの喜びの方が大きかったのです。


りこっち
「さて、あと何が足りないか、必ず楽譜に書いてあるものは何かリコどんには分かるかしら。」
リコどん
「もう分かったぞ。音には強い音や弱い音がある。強弱だね、りこっち。」
りこっち
「まさにその通り。この『悲しみ』にはまだフォルテやピアノが書き込まれていない。」

りこっちはまた用紙を取り出しすばやく何やら書き始めました。
リコどんはもはやりこっちがあの丸い姿でどうやって文字を書いているのかはもうどうでもよくなりました。次にりこっちが何を教えてくれるのか、楽しみで仕方がないのです。



りこっち
「これが強さの基本的な記号だよ。聞いたことあるよね。」
リコどん
「そうだね。大体は知ってる。」
りこっち
「強さというのも、イメージで大分変わるの。嵐のffと悲しみのffでは、同じffでも全く違う音楽の表現にならなければおかしい。」
リコどん
「本当にそうだね。同じppでも不安を感じと、喜びのppでは音の出し方が当然変わらなければ音楽にはならない。」
りこっち
「リコどん!なんて素敵な事をいうのかしら。じゃあ、その強弱を『悲しみ』に書き込むときが来たね。」

リコどんは少しの間静寂を保ち、強さによる表現を楽譜に書き込み始めました。そしてとうとう「悲しみ」の楽譜を完成させたのでした。



りこっちはまたそれをピアノで音にします。静かに目をつぶって聞いていたりこっちは、曲が終わると目を輝かせていました。

りこっち
「すごい!『悲しみ』がタイトル通り悲しいだけではなくて、ひとつの物語になったみたい。」

リコどんは家に戻り、りこっちの書いてくれた「速さの表示」、「奏法の表示」、「強さの表示」、「強さを次第に変化させる表示」を『音楽ノート』に書き写し、最終的に作品を完成させることの大切さを感じました。
それから数日後、『音楽ノート』を参考にして「雲のすべりだい」を完成させました。


それ以後、リコどんは声の作品やアンサンブルを書いてみたいという夢が膨らみ始めていました。