第6回 アンサンブルを作る

作曲入門講座

第6回 アンサンブルを作る

リコどん、今日はアンサンブルの作曲を教わるためにりこっちのもとを訪ねました。
以前メロディーだけ書いた「好い気分」の主題を、ピアノ伴奏付きの歌詞の無い歌にしたいと思ったのです。それにもうひとつ、なんと町の体育祭のときに、始まりを告げる「ファンファーレ」をトランペットで作曲する依頼を受けたのです。
りこっちの家に着くなり、そのことを伝えました。

りこっち
りこっち
「ええ~!!本当に!?すごいよ、リコどん!リコどんに作曲の依頼が来るなんて!私もうれしい!」
リコどん
リコどん
「そうなんだ。一応トランペットのことは自分で少し調べてみたよ。」
りこっち
「まあ、その前に『好い気分』の方を仕上げてみよう。歌詞の無い歌をヴォカリーズと言うの。」
リコどん
「うん、知ってるよ。有名な曲もいくつかあるしね。一応自分のできる範囲で作ってはみたんだ。でも何かもうひとつ足りないんだ。なんて言えばいいのか・・・活き活きしたリズム・・・? 全体にピアノが当たり前すぎて美しさに欠けているというか・・・。」
りこっち
「試しに音に出してみましょうよ。ピアノはこれくらいなら弾ける?」
リコどん
「うん、実はこの前書いた『悲しみ』が気に入って、何度も自分で弾いてみるうちに、だんだんピアノを弾けるようになってきたよ。ピアどん程じゃないけれどね。」
りこっち
「あら、じゃあリコどんの伴奏初体験ね。」

りこっちはリコどんの「ヴォカリーズ『好い気分』」を、リコどんのピアノに合わせて、歌いました。



りこっち
「ハーモニーの感じ方はとても自然ね。ヴォカリーズの場合、大体は『ア(Ah)』やハミングの『ン(M)』、またはこの曲のように『ラ(La)』で歌うのが一般的だけど、これはリコどんが考えた『ラ』がピッタリだね。」
リコどん
「ぼくも『ラ』で歌うのが一番良いかと思っていたよ。」
りこっち
「さて、問題はピアノの音形ね。シンプルで素敵なものを発見してみると良いと思う。この曲はA-B-Aの3部形式になっておるからAの音形とBの音形を決めれば、あとはフレーズの終わりと歌とピアノの魅力を引き出す工夫があれば最高なのだけど。」

リコどんはピアノの前に座りピアノの伴奏の形をいろいろ弾きながら考えました。りこっちが隣りでアドバイスをしてくれ、最終的にリコどんの感じていた音楽が出来上がりました。



そして、何度かヴォカリーズ「好い気分」をリコどんのピアノでりこっちは歌いました。2人ともに曲の題名のような『好い気分』になっていました。

そこへ近くで一緒に遊んでいたピアどんとぴあっちがやってきました。


ピアどん
ピアどん
「今の歌はなーに?」
ぴあっち
ぴあっち
「りこっちの新曲?」


りこっち
「あら、ぴあっちにピアどん、いいえ、違うの。これはリコどんの作品よ。」
ピアどん
「え!リコどんもうこんな曲書けるの?」
りこっち
「そうだよ~!今日これからレッスンするのはファンファーレ。町の体育祭で演奏されるんだって!」
ピアどんぴあっち
「ええ~!!本当に!?」

もう、ピアどんもぴあっちもリコどんの作品に興味津々。
りこっちのレッスンを一緒に見学するというので、リコどんのお家には久しぶりにお友達4人があつまりました。


りこっち
「さて、それではもうひとつの『ファンファーレ』に取り掛かろうね。」
リコどん
「うん、よろしく。実は何日か掛けてファーストトランペットのメロディーは作ってみたんだ。」
りこっち
「どれどれ?」

りこっちはリコどんの作曲したファンファーレのメロディーをみて眼を丸くして驚きました。



りこっち
「まあ、りこっち!本当にイメージが豊かなのね。金管楽器のトランペットをしっかり捉えている。これをそのままにしてあと2本のトランペットをつけ加えることにしましょう。その前にトランペットの特徴を整理しておこうね。」

りこっちは例により紙とペンを取り出しさらさらと何かを書き出しました。

トランペットの特徴
  • 1. 吹奏楽器であるから息で音を出す。
  • 2. 音域はそんなに狭くはないが、ファンファーレのように管がしっかり響く音はB♭からG(変ロ音から2点ト音)くらいまでが良い。
  • 3. 移調楽器なので楽譜に書かれた音と、実際に鳴る音は違う。現在一般に使用されるトランペットはB♭のトランペットで、楽譜に書かれた音高は実際の音高より長2度高く記譜されている。
  • 4. ひとつの音を発音するときにはタンギングといって、舌を両唇に当てて音を発する。楽譜にスラーが書かれてないときには全てこのタンギングで音を出す。
りこっち
「一番大切なのは呼吸によって音を出すということ。息は吸わなければ吐けないから、吹奏楽器を書くときには必ず自分で呼吸を感じながら書くことね。」
リコどん
「そうそう、リコーダーでも一緒だから気をつけて書いたんだ。」
りこっち
「リコどんは移調楽器をしっかり調べて作ったのね。このファンファーレはニ長調で書かれてあるから、実際の調はハ長調ということになる。」
リコどん
「そうだね。この移調楽器というのも、とても面倒だと思ったよ。リコーダーの時は運指を違うものととらえてオクターブの違い以外は全部実音で書くから。」
りこっち
「リコどんのファンファーレのもうひとつすばらしいことは構成がしっかりしていることね。始めの4小節は動きを抑えて、しかし付点のリズムを使うことによって締まりを感じさせ、次の4小節では3連符の動きで華やかさが表現され、最後に堂々とゆったりと締めくくる。じゃあ、これに2本のトランペットを付けてみよう。」

りこっちとリコどんの作業は長い時間を要しました。途中からはピアどんやぴあっちも一緒にメロディーを歌って手伝ってくれました。リコどんの、始まりはひとつの音から始まり、最後はⅠ度のハーモニーで終わるというイメージがこんな曲に出来上がりました。



リコどん
リコどん
「トランペットの響きが聴こえてくるみたいだ。中間部のエコーという考え方はすばらしい発見だったよ。音を突然弱くすることによって前に吹いたフレーズが遠くからこだまみたいに響いてくるということだったんだね。響きの演出までは思い浮かばなかった。これからの作曲に生かしてみるよ。」
りこっち
りこっち
「自分で作った曲が実際に音になって響く瞬間をリコどんも味わうのね!それはとても素晴らしい経験だよ!私もファンファーレを聴きに行っちゃおうかな~!」
ピアどん
「僕も聴きに行くよ!」
ぴあっち
「わたしも~!今から楽しみね!!」
リコどん
「みんなありがとう!ちょっと恥ずかしい気もするけど、ぼくも楽しみだよ!りこっち、本当に作曲を教えてくれてありがとう。」
りこっち
「どういたしまして。私もとても楽しかった。私もまだまだ勉強中なんだけど、リコどんに教えることでまた基本を再確認できてよかった。私もありがとう!!」
ピアどん
ピアどん
「そうだ!リコどん、せっかく覚えたんだし、僕たちみんなで演奏できる曲を作ってみようよ!」
ぴあっち
ぴあっち
「それいいね~!!歌あり、リコーダーあり、ピアニカあり!楽しい曲がいいな!」
りこっち
「そうね、せっかくアンサンブルも歌も書けたんだし。挑戦してみたらどう?」
リコどん
「よーし!やってみるよ!みんなで演奏して遊ぼう!!」

この講座をご覧いただいた方々に
リコどんやりこっちたちによる作曲講座はこれで一応終了となります。
第1回目の「リコどんとりこっちの問いと応え」から第6回目の「アンサンブルを作る」まで、作曲の基本を楽しく解りやすく学べるようにと苦心してまいりました。回を重ねるごとにある程度の飛躍がやむを得ず、楽譜を理解する努力を皆様に期待するところが出てまいりました。しかし、基本は応答です。メロディーが応え合い、響き合う、ハーモニーが応え合う、リズムが応え合う、これが音楽の基本です。どんなに大きな編成になってもそれは変わりません。様々な音楽を聴き、耳を育て、楽譜を理解する面白さを少しずつ味わっていってください。
この講座が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。