かさまクラシック・コンサート3 青柳 晋 ピアノ・リサイタル
2016年3月25日(茨城県教育研修センター大研修室)
国際的に活躍する若手演奏家の育成と音楽技術の向上を目的に、2005年春から「かさま国際音楽アカデミー」が開催されています。世界最高峰の講師によるヴァイオリンとピアノの公開レッスンのほか、さまざまなコンサートが開かており、そのひとつとして「青柳晋ピアノ・リサイタル」が開催されました。青柳氏は東京藝術大学准教授を務める傍ら、幅広い演奏活動を行っています。
■プログラム
ベートーヴェン:6つのバガテル Op.126
フランク:前奏曲、コラールとフーガ
休憩
リスト:コンソレーション第3番 変ニ長調
リスト:バラード第2番 ロ短調
リスト:ジュネーヴの鐘(巡礼の年第1年スイス より)
リスト:ハンガリー狂詩曲第2番 嬰ハ短調
青柳氏は、12回を数えるかさま国際音楽アカデミーの常連講師のひとりですが、ここでソロ・リサイタルを行うのは3年ぶりだそうです。茨城県教育研修センターは笠間市の市街地から離れているにもかかわらず、開演時刻の18時30分には大研修室(ホール)に大勢の聴衆が集まりました。大研修室は、一般的なコンサートホールで言うと中ホールほどの大きさの会場で、ヤマハのコンサートグランドピアノCFXが準備されていました。
プログラムの前半は2人の作曲家、それぞれの晩年に書かれた名品が組み合わされました。幕開けのベートーヴェンの「6つのバガテル」が演奏され始めて気づいたのは、ピアノの音がダイレクトに客席に届くこと。青柳氏はそれを熟知しているようで、細かなニュアンスをつけながら、ロマン派よりのアプローチでCFXから繊細な音を紡いでいきます。ベートーヴェンにしては珍しい、大きな声でものを言わない作品は、こうしたアプローチがふさわしいようにも感じられました。
2曲目のフランク「前奏曲、コラールとフーガ」は複雑に書かれた部分を含む大きな作品。フーガでは各声部をくっきりと立ち上がって聴こえるような、明解なアプローチ。こちらもロマン派の薫りのする演奏で、音色をさまざまに変えながら、楽想により大きな変化を付けていきました。これら、青柳氏が意図したことに、CFXは見事に応えていたのも印象に残りました。
休憩の後は、青柳氏の得意とするリスト作品が並べられました。「最も近しく感じ、自分らしさを最も表現できるのがリスト」だと語る氏だけに、会場の期待も高まります。「コンソレーション第3番」では甘いメロディを甘すぎない絶妙のバランスで、「バラード第2番」はCFXから深い響きを引き出し、そして「ジュネーヴの鐘」ではメロディを際立たせながら、万全の技巧とともに楽曲の魅力を最大限に引き出していました。
プログラム最後の「ハンガリー狂詩曲第2番」は、超絶技巧で知られる作品ですが、青柳氏は表面的な技巧の華やかさをアピールしながらも、リストが作品に込めたハンガリーへの愛情を感じさせる演奏を聴かせ、会場から大きな拍手を贈られていました。楽器全体が響くように演奏することで、よりドラマティックな表現を引き出していました。
アンコールはフォーレの「ノクターン第8番」でしっとりとした空気を作りながら、おどけた雰囲気のドビュッシーの「ゴリウォークのケークウォーク」で締めくくるという、ハイセンスな選曲。フォーレやドビュッシーも青柳氏の得意とするレパートリーだけに、次はこれらをプログラムして欲しいとも思わせる心憎い演出です。すべてにおいて、青柳氏の真骨頂が聴けたリサイタルでした。
Text by 堀江 昭朗