コンサートレポート

コンサートレポート

小曽根真×塩谷 哲 DUET 2022
ジャンルを超えてそれぞれが独自の世界で活躍する二人のピアニストが再びタッグを組んだ。2022年11月19日埼玉を皮切りに、三鷹、大阪公演を経て、11月29日アクロス福岡シンフォニーホールでの最終公演をレポートする。

2022年11月29日(アクロス福岡シンフォニーホール)

小曽根真×塩谷 哲 DUET 2022

■プログラム
第一部
 Heroes Sin Nombre
 Do You Still Care?
 Valse
 What can we do ? (塩谷哲ソロ)
 No Siesta
第二部
 2台ピアノのための「交響的エレジー」
 あこがれのリオデジャネイロ
 Pandora(小曽根真ソロ)
 O'berek
アンコール
 Ode to Liberty
 Bienvenidos Al Mundo

 2022年10月に1年間に及ぶ改修工事を終えてリニューアル・オープンしたアクロス福岡シンフォニーホール。舞台はシャンデリアの陰影を活かし教会の大聖堂を思わせるような照明演出が施され、観客の期待と緊張が入り混じる空気の中、左右の客席扉が開いた。
 小曽根真と塩谷哲の二人が同時に姿を現し、この意外性を突いたサプライズに客席はどよめき大きな拍手に包まれる。それぞれが客席の中を通り、手を振りながら笑顔で舞台へ。

 舞台上に配置された2台のピアノCFX、どちらがどのピアノを弾くのかジャンケンで決めるシーンにもクスリと笑いを誘う。一曲目は“Heroes Sin Nombre”、小曽根の作品でビートを刻む中、塩谷がメロディを展開していく。
 続けて塩谷の作品“Do You Still Care?”。「どんどん二人の間が自由になっていき、戻ってこれなくなるんじゃないかと時々錯覚する」と塩谷は言う。

小曽根真×塩谷 哲 DUET 2022

 そして、学生時代に書いたという”Valse”。題目のようにクラシック音楽のヴィルトゥオーゾ的な要素と印象派のような色彩豊かな世界が入り混じる中、途中から小曽根がスパイラルのように仕掛け、最後は壮大なオーケストラのように終わる。
「ソルト(塩谷のこと)はこんなすごい曲を学生時代に作っちゃうんだから、もうやってられないよね!」と小曽根のトークに会場が湧く。
そして塩谷は「僕は共演者でありながら小曽根さんの一ファン。自分が作曲したものをこんなにも膨らませてくれることに感動しているし、とても幸せ」と応える。

 ここで塩谷のソロで”What can we do?”そして再び小曽根が登場し”No Siesta”。塩谷のソロからムードは一変し、リズムに乗せてお互いがどんどん仕掛けていく様が小気味よく、ブラジルの明るい陽光が照らされて第一部が終わった。

小曽根真×塩谷 哲 DUET 2022

 第二部は塩谷作曲”2台のピアノのための「交響的エレジー」”でスタート。
 激しい和音のバッキングにアルペジオ音の一つ一つが輝きを放つ。不協和音の連続からふっとラフマニノフさながらの鐘が鳴り響き、ピアノという楽器のポテンシャルを最大限に活かされる。まさに「交響的」スペクタクル感満載な作品であった。
 小曽根は楽器からパワーをもらう、インスパイアされることが少なくないと言う。「今回のツアーに使用してきたCFXは、最高の相棒でもあり、それを調整・調律してくれる調律師の存在は欠かせなかった」と、譜面台を引き取りに舞台に出た調律師に敬意を表すことを忘れない。

小曽根真×塩谷 哲 DUET 2022

 二曲目は打って変わり”あこがれのリオデジャネイロ”。
 塩谷の定番とも言える明るくグルーヴに満ちたナンバー。二人の出会いでもある思い出の曲。小曽根がこの曲を初めて聴き、塩谷へ是非一緒にやりたいとラブ・コールを送ったのだそうだ。

 続けて小曽根のソロで”Pandora” 。深淵とした世界、ピアノの音に包まれて言葉も出てこない。曲が終わると小曽根は静かに立ち上がり、楽器へ向かって拍手を贈った。まさに奏者とピアノが一心同体となった瞬間だったのかもしれない。

 そして塩谷が手でリズムを刻みながら再び舞台へ登場。照明も情熱的なムードへ一転し”O’berek”へ。ポーランドの3拍子の舞曲のリズムで小曽根オリジナル曲が華麗に展開してフィナーレにふさわしい盛り上がりをみせた。

小曽根真×塩谷 哲 DUET 2022

 興奮冷めやまぬ観客の拍手に応えてアンコールへ。
 塩谷がオスカー・ピーターソンの自由への賛歌にインスパイアされ、オマージュとして作ったという”Ode to Liberty”。
 一音一音がピアニスト達の平和を望むメッセージとなり、切ないくらいに伝わってくる。

 これで終わりかと思わせられたが拍手は鳴りやまず、再びピアニスト達は舞台へ呼び寄せられる。軽快なリズム”Bienvenidos Al Mundo”で公演は幕を下ろした。

小曽根真×塩谷 哲 DUET 2022

小曽根真×塩谷 哲 DUET 2022

 終演後、塩谷はこう語った。
「小曽根さんは自分の中におそらく潜在的に持っていたものをどんどん引き出してくれます。お互いにリスペクトしていることが全身全霊で感じることができるんですよ。これは月並みだけど音楽的な信頼に尽きるのだと思います。まさに今日のステージそのものでした」

Text by 樋口洋子
Photo By noriyukisoga