Vol.16 ：堀内 龍星、鶴原 壮一郎

　国際的な活躍が期待される若きピアニストたちのジョイントコンサートシリーズ「サロンコンサート in Ginza」。9月6日にヤマハ銀座コンサートサロンで開催されたVol.16には、堀内龍星さん、鶴原壮一郎さんが出演し、ヤマハコンサートグランドピアノのフラグシップモデルCFXの多彩な音色で、それぞれの音楽世界を個性豊かに楽しませてくれました。

　前半のステージに登場した堀内龍星さんの最初の曲はバッハ《イタリア協奏曲》。イタリアの明るい青空を感じさせる第1楽章、息の長いフレーズを抒情豊かに歌う第2楽章、精気に満ちた第3楽章、チェンバロの独奏で協奏曲のソロとトゥッティの掛け合いの妙味を表現しようとしたバッハの名曲を、ヤマハCFXの色彩感あふれる音色で楽しませてくれました。続いてショスタコーヴィチ《前奏曲とフーガ第4番》。バッハの平均律クラヴィーア曲集を意識しながら、現代にポリフォニーの精神を甦らせるべく書かれた作品の第4番ホ短調の世界をドラマティックに繰り広げ、圧倒的なフーガで締め括りました。最後に演奏されたのはベートーヴェン《ピアノソナタ第23番「熱情」》。日々悪化する難聴に絶望したベートーヴェンが「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた後の「傑作の森」の代表作です。ユニゾンの印象的な旋律の冒頭から、暗く激しい情感が渦巻くように展開する第1楽章、穏やかなコラール風のテーマが祈りを感じさせる第2楽章、爆発的なエネルギーが昂揚する第3楽章、人間ベートーヴェンの壮絶な心の軌跡を描き出すかのような演奏を聴かせてくれました。アンコールは、ベートーヴェンの最晩年の作品《6つのバガテル》より第5曲。バッハ、ショスタコーヴィチ、ベートーヴェンを繋ぐプログラムを味わい深く完結させました。

　後半の鶴原壮一郎さんは、シューマン《トッカータ》でスタート。眼を見張るような超絶技巧を駆使して、華やかな演奏を繰り広げました。さらに、リスト《スペイン狂詩曲》。スペイン民謡のモティーフが変奏曲風にダイナミックに展開されていきます。続いて、清々しい旋律を慈しむようなパデレフスキ《ミセラネア「メロディ」》、憂いと哀しみを秘めたプーランク《メランコリー》が、洗練されたピアニズムで詩情豊かに奏でられました。最後の曲は、バラキレフ《東洋的幻想曲「イスラメイ」》。ピアノ史上最も難しい作品を目指して作曲されたというバラキレフの意欲作に鶴原さんは果敢に挑み、技巧的な凄さだけでなく、東洋的な情緒とファンタジーにあふれる演奏を堪能させてくれました。ピアノ演奏の限界を極めるようなプログラムのアンコールは、ファリャ《火祭りの踊り》。悪魔祓いの炎が激しく燃え上がるような演奏で、コンサートを締め括りました。

　終演後、堀内さんは「バッハの《イタリア協奏曲》には光、ベートーヴェンの《ピアノソナタ第23番「熱情」》には闇という対照的なイメージを持っていて、その真ん中にショスタコーヴィチの《前奏曲とフーガ》を置いてみようと、曲の並べ方にこだわったプログラムを考えました。《イタリア協奏曲》は子どもの頃から弾きたかった曲で、作品の持つ明るさを伝えることができたかなと思っています。ショスタコーヴィチについては、会場に緊張感を漲らせたいと思いましたが、どうだったでしょうか。この2曲は最近取り組んでいる作品です。ベートーヴェンの「熱情」は、コンクールなどでも弾き、長く一緒に過ごしてきた作品です。ヤマハCFXは、繊細な表現をコントロールしやすいピアノだなと思いました。高音部の歌う音が出しやすく、それに助けられたと思っています。今後は、大好きなシューマンを軸にレパートリーを広げ、ロシア作品などにも挑戦し、いろいろな意味で成長していきたいと思っています」と語ってくださいました。