コンサートレポート

コンサートレポート

間下梨香&後藤正孝PIANO JOINT CONCERT

2025年3月14日(ヤマハグランドピアノサロン名古屋)

 ヤマハグランドピアノサロン名古屋にて、ピアニストの間下梨香さんと後藤正孝さんのジョイントコンサートが開催されました。演奏当時、2025年より昭和音楽大学に入学を控えていた間下さんと、同大学で専任講師を務めている後藤さん、世代やステージの違うお二人による異なる味わいを感じられる演奏会となりました。

 前半に登場したのは、間下さん。ダカンのクラヴサン曲集 第1巻 第3組曲「かっこう」で演奏を開始します。細かいパッセージをなめらかかつ流麗なフレーズにつなげ、安定感のあるスタート。
 次に続くのは、ダカンと同じくバロックの趣を感じるラモーの新クラヴサン組曲集 第1番「ガヴォットと6つの変奏」。気品と美しさに溢れるガヴォットの主題を、多彩な装飾とともに丁寧に紡いでいきます。確かな足取りによる第1〜第3変奏、トッカータ風で機敏ながらも冷静な第4変奏、ダイナミズムの増した第5・6変奏と、多彩な顔を見せながらも通底した落ち着きをみせた演奏を披露します。
 続いて、ショパンのノクターン第16番でガラリとまとう雰囲気が変化。極上の高音の響きで音楽を開始させ、夢見心地のように旋律を展開。たっぷりと歌い上げ、ロマンチックな世界を構築します。
 そしてラストはタネーエフの「前奏曲とフーガ」。前奏曲では徐々に山場を成すようにじっくりと憂いある旋律を弾き上げ、最後はラストにふさわしく堂々としたフーガで締めくくりました。

 間下さんの演奏後、後藤さんのステージが始まる前に、特別企画が始まりました。後藤さんとヤマハ コンサート技術者の八色による、「ピアノの構造と調整」をテーマにしたミニセミナーです。

 ピアノには欠かせない調律技術が、いかに演奏や音色に影響を与えているのか。調律で行われる技術の一つである「弦合わせ」を軸に説明が行われました。
 「弦合わせ」とは、ピアノ内部のハンマーが正しい位置で打鍵するための調整のこと。今回、八色が特定の音域だけあえて調整をずらすことで、ふだん弦合わせが果たしている役割をアピール。実際、その音域を後藤さんが弾いてみたところ、『この音域だけ、鍵盤のリアクションが鈍くなっている』とのこと。
 聴いているこちらも、該当音域のみ少し音がこもっているような印象。私たちがピアノに親しむことができているのは、調律技術があってこそ。それが身をもってわかる時間となりました。

 そして、改めて後藤さんが再登場。シューベルトとベッリーニ、歌曲に長けた2人の作曲家を取り上げ、ピアノ編曲版を披露しました。
 最初はシューベルト=リストの歌曲を演奏。まどろみと幻想性を兼ね備えた「水に寄せて歌う」、鍵盤の連打とドラマチックな歌い上げで激しさを一層強調し、詩の内容の悲劇性を彷彿とさせた「魔王」、穏やかで安らぎある音楽に仕立て上げた「春の想い」、そして情感が溢れるような語り口が魅力的な「アヴェ・マリア」、4曲連続で演奏しました。
 終曲は、ベッリーニ=リストの「オペラ“夢遊病の女”の愛好された動機による幻想曲」。リズミカルな冒頭でオペラならではのユーモアを感じさせ、次第に落ち着きのある旋律をゆったりと表現。徐々に、技巧力の求められるフレーズや装飾が増え、リストならではのピアニズムにしっかりと応えるように演奏を展開。次第にダイナミックさを増しながら、最後は祝祭的な華々しさで締めくくりました。

 最後に、アンコールとしてリストの「愛の夢」第3番でステージの幕を閉じます。華々しい前曲で温まった会場を鎮めるかのような優しさに包まれた演奏で、和やかな空気のなか公演は終了しました。

Text by 桒田 萌