ピアニスト:若林顕  - 若林顕 11月30日「3大ピアノ協奏曲の響演」インタビュー

「いろいろな方に聴いていただきたい、という目線でこの3曲に決めました」
と語るのは、11月30日に開催される「3大ピアノ協奏曲の響演」でショパンの第1番ホ短調、チャイコフスキーの第1番変ロ短調、ラフマニノフの第2番ハ短調という、大作ピアノ協奏曲3曲を一夜にして一人で独奏する若林顕さんだ。会場は1,632席の東京オペラシティコンサートホール。

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 「ほかにも、ベートーヴェンの『皇帝』とか、シューマンとかリストとか名コンチェルトはありますが、やはり幅広い方たちに興味を持っていただくにはこの3曲がいいのでは、と、主催者と一緒に選びました。3曲とも、これまでにあちこちで弾いてきた曲です。演奏回数はラフマニノフ2番が一番多いかも知れません。次がチャイコフスキー、それからショパンの順でしょうか。でも、ショパンは室内楽版でも結構やっているのでそれを入れるとかなり弾いていますね。本格的なオーケストラとの協演で最初に弾いたのはチャイコフスキーでした。20歳のときですから、1985年のブゾーニ国際ピアノコンクールの本選でチャイコフスキーを弾きました」
 結果は見事、第2位に輝き、若林さんが国際舞台へと第一歩を踏み出すきっかけとなった。

 「そうそう、オーケストラはジュニア・フィルでしたけれど、ラフマニノフ2番のほうが早かったですね。中学3年のときに、山本直純さんの指揮で弾いたことがありました。会場は虎ノ門ホールでした。虎ノ門ホールって今はあるのかな?」
 若林さんが中学3年生にして、山本直純さんの指揮でチャイコフスキーの協奏曲を弾いたという虎ノ門ホールとは、かつて、霞が関の旧文部省の隣にあった国立教育会館内のホールのことだ。昭和後半から平成前半にかけて、クラシック音楽コンサートの著名会場の一つとして盛んに利用されたが、再開発により2005年に惜しくも解体された。しかし、当時、中学生がこのホールでチャイコフスキーのピアノ協奏曲を弾いたといえば大きな話題だったはずだ。
 「いやいや、とても、弾けたと言えたものではないですが…。第1楽章だけならその前年に中2のときにも弾いたことがありました」

 3曲、それぞれの魅力、聴きどころをうかがった。
 「ショパンの協奏曲はメロディーが非常に美しくて、和声的な変化もドラマティックで興奮感があります。そして第3楽章は民族色がゆたかなところがいいですね。チャイコフスキーは何といっても華やかさが魅力です。輝きがあって、爆裂的で、歌謡性もあります。ソロの立場から言うと、オーケストラとのやりとりに一体感を感じることができるのが醍醐味ですね。それから、和音が多いので、いかに美しくハモらせるかも大事です」
美しくハモらせるというのは、例えば、和音の中のどの音に重点を置いて鳴らすか、といったことだろうか?
 「まあ、そういう理論的なこともありますが、それよりも、念の強さと言うか、念を入れる感じです。音程感のイメージですね。ラフマニノフも同じようなところがあって、音楽的なモチベーションの高さが必要です。それとロシアの民族情緒と歌心に満ちています。ですから手先でペラペラ弾くのではなく、気を入れて表現したいと思っています。」

 指揮は渡邊一正さん、オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団だ。
 「渡邉さんとは、1992年か93年にショパンをご一緒して以来、何度か協演したことがあります」

 そしてピアノは、ヤマハコンサートグランドピアノCFX。
 「前のCFXとは、2020年に東京芸術劇場でラフマニノフを演奏した時に出会いました。パワーがあって気に入っていましたが、新しいモデルが出て、今の楽器を使わせていただくようになりました。いろいろな色彩、ニュアンスに富む素晴らしい楽器です。ホールの隅々まで音もよく飛びます。表現の幅も、こちら次第で無尽蔵と言ってもよいでしょう。そして、片岡さんという心強いコンサートチューナーがいてくださるので安心して本番に臨めます。ぜひ、多くの方にこのコンサートをお聴きいただきたいと思っています」

 ありがとうございました。11月の三大協奏曲演奏会を楽しみにしています。

Textby Yukiko Hagiya、©宮地たか子