第9回 仙台国際音楽コンクール
ピアノ部門 ファイナル
2025年6月14日〜29日(日立システムズホール仙台)

2025年6月14日〜29日に日立システムズホール仙台で行われた、仙台国際音楽コンクールピアノ部門。2001年に創設され、9回目の開催を数えるこのコンクールは、コンチェルトを中心とした課題が特徴です。充実したより良い審査を目指し、各回、課題曲に工夫が凝らされてきましたが、今回はセミファイナルとファイナルの両ラウンドでモーツァルトのピアノ協奏曲を演奏するという課題が設けられていました。
予選は、445名の応募者の中から選ばれた32名のコンテスタントでスタート。続くセミファイナルでは、12名が指定のモーツァルトのピアノ協奏曲から1曲を演奏します。そして審査を通過したファイナリスト6名は、再び指定のモーツァルトのピアノ協奏曲と、ロマン派や近現代を中心としたピアノ協奏曲という、2曲のピアノ協奏曲を演奏。共演は、高関健さん指揮、仙台フィルハーモニー管弦楽団です。
第1位となったのは、サンクトペテルブルク音楽院で学び、現在は母校で教鞭もとるロシアの28歳、エリザヴェータ・ウクラインスカヤさん。チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番で、確信に満ち、意志の強さを感じさせる音楽を聴かせて、見事優勝に輝きました。

第2位となったアレクサンドル・クリチコさんは、モスクワ音楽院で学んだ24歳。彼の演奏で印象に残ったのは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番です。ヤマハCFXから時にキラキラとした音を引き出しつつ、その堂々とした弾き姿に似合う力強く重厚な音を打ち鳴らして、ロシアの広大な大地を思わせる音楽を届けました。野平一郎審査委員長も「多様性、神秘性、宗教的な感性、そしてラフマニノフらしい名人芸と、ロシア人の音楽の魂のようなものを感じる演奏だった。最初から最後まで優雅で、このコンチェルトが持つ真の性格を描き出していた」と、高く評価していました。
両者とも、モーツァルトのピアノ協奏曲はハ長調の第21番K467を選択。これは、モーツァルト自身によるカデンツァが残されていない作品だったことから、それぞれ、自作のカデンツァで個性を発揮していました。

最年少11歳のファイナリストとして注目を集めていた天野薫さんは、自由選択曲でヤマハCFXを演奏。選択肢の中にあった唯一の日本人作品、矢代秋雄のピアノ協奏曲を選んでいましたが、このレパートリーが彼女によく合っています。クリアで伸びやかな音を駆使した鮮やかな演奏が、客席を魅了していました。
変拍子も多く決して簡単な作品でないにもかかわらず、この曲を演奏した経験のある審査員勢も納得させて、第3位に入賞という快挙。野平審査委員長は、「国際コンクールという場で日本人作曲家のピアノ協奏曲が演奏され、それを審査員が聴き、またインターネットで世界に配信されたことは大いに価値があった」と話していました。
3人はそれぞれ、ファイナル1日目、2日目、3日目の投票により選ばれた聴衆賞も受賞。審査結果と一般聴衆の評価がリンクする結果となったといえます。

第4位には、ドイツのユリアン・ガストさんが入賞。ザルツブルク・モーツァルテウムで学ぶ25歳の彼は、ヤマハCFXをパートナーに、多様なタッチを駆使しながら、モーツァルトのニ短調のピアノ協奏曲第20番K466と、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を演奏しました。
結果発表直後の記者会見で、「ここまでピアノを続けさせてくれた両親や先生たちに感謝したい。また、ヤマハのチームの方々に多大なサポートをいただいたおかげで、演奏に集中することができた。この場を借りて感謝を伝えたい」と話しました。
また第5位には、作品への愛情があふれるリストのピアノ協奏曲を演奏した日本の島多璃音さん、第6位には、多彩な音色を用いてチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を演奏したクロアチアのヤン・ニコヴィッチさんが入賞。
野平審査委員長は、6人の評価には大きな差がなく、とくに1位と2位はかなりの僅差だったと話していました。
ともに競い合うライバルでありながら、終始、和気藹々とした雰囲気を醸していた6人は、それぞれに全く異なる個性を発揮し、私たちに新しい音楽との出会いを与えてくれました。11歳から28歳までの入賞者たちのこれからの活躍が楽しみです。
Text by 高坂はる香、 写真提供:仙台国際音楽コンクール事務局


