ピアニスト:木米真理恵  - 自分にないものを追い求め、変わり続けることのできるピアニストになりたい。~木米真理恵さんインタビュー この記事は2018年8月9日に掲載しております。

ワルシャワのショパン音楽大学で学び、さらにイモラ国際ピアノアカデミーで研鑽を積んだ木米真理恵さん。8年半のヨーロッパでの留学生活を振り返りながら、10月2日に東京文化会館小ホールで開催するリサイタルへの想いを語ってくださいました。

Profile

充実した8年半のヨーロッパでの学びの日々

 ワルシャワを拠点にヨーロッパで学びながら、様々なコンクールで入賞を果たし、昨年3月に帰国した木米真理恵さん。後進の指導に情熱を燃やしながら、確かな実力を持つ新進気鋭のピアニストとして活躍の場を広げている。

「現役のピアニストとして常に学び、演奏しながら、それを生徒さんに還元するというスタンスを崩さず活動していきたいと思っています。レッスンで心がけていることは、わかりやすい言葉で説明すること。私の一言のアドバイスで、身体の使い方が変わって楽に弾けるようになったり、自発的にこう弾きたい、こういう音を出したいと考えてくれるようになるといいなと思います。教えていて、自分が弾いているときには気づかなかったことが見えてくることもあり、毎日新鮮な気持ちで指導と演奏に向き合っています」

 ヤマハ音楽教室で学び、東京音楽大学付属高校を経て、ショパン音楽大学に留学した。

「小学6年から師事した播本枝未子先生に、なるべく早く海外に出て勉強しなさいと言われていたので、高校を卒業したら留学しようと決めていました。高校2年のときに、いしかわミュージックアカデミーを受講してピオトル・パレチニ先生に出会い、2008年にショパン音大を受験し、2010年のショパン国際ピアノコンクールを目指しましょうと言われ、当時ショパンはあまり弾いていなかったので迷いましたが、最終的にワルシャワで学ぶことにしました」

 2010年のショパン国際ピアノコンクールには鮮烈な思い出がある。

「2008年の秋にショパン音大に入学し、最初の1年間はじっくりレパートリーをつくることに専念しました。2年目に入り、2010年のショパン国際ピアノコンクールの申し込み締め切りが近づき、まだ準備ができていない状態でしたが、とにかくチャレンジしてみることにしました。DVD審査も予備予選も、ギリギリで間に合ったという感じでしたが、幸いにも10月の本審査への出場が決まり、本格的な準備が始まりました。この時期、ポーランドでは出場者をサポートするために多くのコンサートが用意されるのですが、この年はポーランド人の出場者が少なかったため、留学生の私にもたくさんの演奏の機会が与えられ、ステージでの経験を積みながらレパートリーを揃えることができました。パレチニ先生も私と一喜一憂しながら熱心にご指導くださり、コンクールまでの日々は、その瞬間、その瞬間が、かけがえのないものだったと感じています。
 そして、いよいよ10月のコンクール。フィルハーモニー・ホールは、客席とステージの距離がとても近く感じられる素晴らしい響きのホールで、子どもの頃からあこがれているマルタ・アルゲリッチさんが審査員席に座ってこちらを見ているというだけで胸が高鳴りました。1曲目のノクターンは落ち着いて気持ちよく演奏することができたのですが、2曲目のエチュードを弾き始めて、突然ものすごい緊張感に襲われ、その後はまったく納得のいく演奏ができず、舞台袖に戻って号泣。せっかくの舞台で何もできなかった自分が情けなく、涙がとまりませんでした。でも少し時間が経つと、コンクールに参加しなければ得られなかったことがたくさんあったことに気づき、前に向かって努力を積み重ねていこうと思えるようになりました」

 留学生活の後半は、ワルシャワからイタリアのイモラ国際ピアノアカデミーに通い、ピエロ・ラッタリーノ氏に師事した。

「ラッタリーノ先生がいつもおっしゃったのは、「アカデミックな勉強はもう充分したのだから、もっとアーティスティックに」ということでした。音に対する要求も厳しく、ピアノを豊かに響かせ、歌わせることを教えてくださいました。
 イモラに通うようになった頃から、イタリアをはじめヨーロッパ各地のコンクールに参加し、褒賞のコンサートも増え、それに合わせて食や観光も楽しみ、訪れた国は35カ国、充実した留学生活を満喫して帰国することができました」

 留学生活を締めくくる完全帰国記念リサイタルをワルシャワフィルハーモニー室内楽ホールで開催した。

「オール・ショパン・プログラムで、後半は弦楽四重奏団とピアノ協奏曲第1番を演奏しました。何よりも嬉しかったのは、見ず知らずの大勢のポーランドの方たちが当日チケットを買って聴いてくださったこと。客席はほぼ満席で、一生忘れることのできない感動的なコンサートとなりました」

ヤマハCFXの多彩な音色で、留学生活の集大成を聴いていただきたい

 10月2日に東京文化会館小ホールで開催される「新進演奏家育成プロジェクト リサイタル・シリーズ」では、留学中に学び、コンクールやコンサートで演奏を重ねてきた作品の数々を披露する。

「ポーランドのショパン、シマノフスキ、イタリアのクレメンティなど、留学生活の集大成として、思い入れの深い作品を選びました。私がどんなピアニストなのかを知っていただければいいなと思います。
 プログラムはいつも調性の色彩感を考えて組んでいます。プロコフィエフのエチュードとサン=サーンス/リスト《死の舞踏》の組み合わせは、調性的にしっくりして演奏効果が高いので気に入っています。後半のショパン《舟歌》は嬰ヘ長調、シューマン《ピアノソナタ第1番》は嬰へ短調で、私の大好きな調性です。シューマンのソナタは、ショパン音大の修士演奏で弾いた作品。ヨーロッパでの思い出の詰まった作品の数々をお楽しみいただきたいと思います」

 リサイタルで演奏するのは、ショパン国際ピアノコンクールでも選んだヤマハCFX。

「ヤマハCFXは音色が豊かで、音質的に幅があり、ポテンシャルの高さを感じます。一昨年3月にヤマハ銀座コンサートサロンで演奏させていただいたときに一番感じたのは、車の乗り心地のよさに通じるようなドライヴ感。とにかく弾き心地がよく、任せて乗って、スピードも出るような(笑)。子どもの頃から弾き続け、留学時代も支えてくれたヤマハのピアノには愛着があります」

 常に向上心を忘れず、爽やかに自身の音楽を探究し続ける木米さんの今後の飛躍が楽しみだ。

「天才的な若いピアニストがたくさんいる中で、なぜ私がピアノを弾いているのかと考えたとき、やはり自己実現しかないのだと思います。今の自分にないものを追い求め、努力し、変わり続けることのできるピアニストでありたいと思います」

Textby 森岡葉

上記は2018年8月9日現在の情報です。