この記事は2019年1月28日に掲載しております。

真善美を探求することで、音楽を磨く

　2018年は、TVアニメ「ピアノの森」で雨宮修平の吹き替えピアノを担当するなど、活躍の場を広げた。
「好きな漫画だったので、光栄でした。コンクールは、人生の中で最も完成度を高めるよう努力を重ねて若いピアニストが集まり、短期間で仲が深まることもある場所。そういった心理描写もとてもリアルです。結果発表のシーンなど、やはり泣けますね。電車の中で読んだときは大変でした（笑）。
　僕はあまり神経質なほうではないので、雨宮修平とはタイプが違いますが、音楽を通して表現したいことがあるという願いには親近感を覚えます。自分にはできない表現を持つ一ノ瀬海に憧れ、それを愚痴ることはないけれど、音楽を通してその心情が吐露されるところもあるのではないかと思いました」
　この年は加えて、グリーグ国際ピアノコンクールで優勝に輝くという快挙もあった。ファイナルの準備にあたっては、現在高木と同じくウィーン留学中の妹が協奏曲のオーケストラパートを受け持ち、２台ピアノでの練習に協力してくれたという。
「実はグリーグコンクールの前、ウィーン国立音楽大学のコンクールがあって、ここでは僕が１位をいただき、妹が２位でした。僕にとっては、逆だとちょっと話がややこしくなるからこれが最善の結果だった、妹も同感だろうと思って感想を聞いたら、“お兄ちゃんに負けて悔しい！”と本気で言われて（笑）。頼もしいですね」

　良い師と家庭環境に恵まれ、ピアニストとして着実に枝葉を伸ばしていった高木さん。これからも日本とヨーロッパを拠点に学び続ける生活が続くという。26歳の現在、何を感じているのだろうか。
「今、世界の人口って75億人なんですよね。つまり僕一人の経験なんて全人類の75億分の1で、さらに歴史を考えれば、膨大な数の経験の一端にすぎません。そう思うと、自分だけの経験からものを考えようとするより、歴史や伝統から学び、考えるほうが重要ではないかと。留学し、さまざまな流派の伝統に触れられる環境に身を置いていますから、しっかり勉強し、象牙の塔を極める努力を続けたいです」
　より良い音楽表現を目指し、人として内面を磨いていきたいともいう。
「ペトルシャンスキー先生が、音楽は人の心を映す鏡で、美しい音楽を奏でられるかは美しい心を持っているかによる、まずは人間を磨かなくてはならないとおっしゃっていたことが印象に残っています。人間そう器用ではありませんから、音楽上でだけ良い人間になろうとしても、それは無理でしょう。人間として真善美を探求することが、音楽を磨くことにつながるのだろうと思っています」

Textby　高坂はる香