ピアニスト:山本 貴志  - 山本貴志 ピアノリサイタルTour 2023 この記事は2023年5月14日に掲載しております。

2005年第15回ショパン国際ピアノコンクールでの第4位入賞後、国内外で活躍を続けるピアニスト山本貴志さんが、ショパンとラフマニノフにフォーカスしたプログラムでのツアーに臨みます。ツアーに向けての想いや意気込みを語って頂きました。

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Q1:今回ショパンとラフマニノフにフォーカスした意図を
お聞かせください。

 本来は1年前に演奏するはずのプログラムでした。当時はコロナ禍の真っ只中で演奏会が中止になることも多く、舞台で演奏できる幸せを噛み締めていました。そんな時の曲目はピアノを最大限活かしたものにしよう、と心に決めていて、それが私の中では大ピアニストでもある2人の作品だったのです。
 その後ウクライナで痛ましい戦争が始まり、予定されていたこのプログラムは一度立ち消えとなりましたが、ショパンとラフマニノフも時代に翻弄されていた事実を思い出し、ポーランド人・ロシア人としてのみでなく、純粋に一人の人間としての彼らを見てみたいと思うようになりました。

Q2:山本さんにとって、ショパン、ラフマニノフは
どのような存在でしょうか?

 まだ誰の曲かも知らない幼い頃から、耳にして素敵だなと思うのは決まってショパンでした。後でそれらが全部ショパンの作品だったと聞いて驚いていたのが懐かしいです。彼の音楽に惹かれるのは、まず響きが優雅なこと。弾いているとまるで自分まで優雅になったかのように錯覚します。(笑)そして森羅万象…ありとあらゆる感情、自然など全てのものを音に写しとってしまうこと。気持ちが浮かない時、何度彼の音楽に癒してもらったか分かりません。
 ショパンに比べるとラフマニノフを知ったのは随分後のことですが、短調と長調が入り交じっているようなメランコリックな旋律にすぐに夢中になりました。そしてなんと言ってもピアノをたっぷりと鳴らしている、という格好良さがありますよね。でも今ひしひしと感じるラフマニノフの「本当の顔」ははじめは想像すらしていませんでした。


Q3:今回選んだ曲目に関して、
こだわりや特別な思いがあればお聞かせください。

 ワルシャワで勉強していた頃、ロシアの先生のレッスンを受ける機会がありました。その時の先生のお言葉で印象に残っているのが「ラフマニノフは常に不安感・劣等感のようなものを抱えていました」というものです。「メランコリック」と表層的にしか捉えていなかったその旋律は、確かに頻繁に書かれたリタルダンド、ディミヌエンドという記号によって常に揺さぶられ、どうしようもない孤独や不安と戦っていたのです。今回演奏する「楽興の時」は全6曲中4曲までもが短調で書かれ、胸が締め付けられるような哀しいメロディーがいくつも出てきます。時々顔を見せるほのかに明るい兆しが逆に絶望感を際立たせているかのよう。曲集は最後はハ長調で雄大に終わるのでこのような深刻な音楽でも安心(?)して聴くことが出来ますが、この救いのなさは私たちが受け止めるにはあまりに厳しい存在だと言わざるを得ません。ただ、どれほどの苦しさを表現した作品であっても彼の手にかかればそれは絶美へと昇華します。これこそまさにあるべき芸術の姿では・・・と改めて思います。
 そんな重いラフマニノフを受け止めるのが、前半のショパンのプログラムです。「バラード第3番」「序奏とロンド」共に気品に溢れ、洗練された空気感としなやかな舞曲のリズムを感じていただけたら幸いです!

Q4:ツアーに向けての抱負や
皆さんへのメッセージをお願いします。

 体力、精神力両方が求められるプログラムへの挑戦となる今回のツアーは、飯山市文化交流館なちゅら、兵庫県立芸術文化センター、高崎芸術劇場、ヤマハホールとそれぞれの素晴らしいホールの響きも楽しみの一つです。ショパンがもつ真珠のような音、ラフマニノフ特有の豊潤な響きをぜひそれぞれの会場にて体感していただけたらと思っています。お待ちしております!

Textby 編集部

※上記は2023年5月14日に掲載した情報です。