ピアニスト:平山麻美  - クリスマスの夜、作曲家たちの心の声に耳を傾けるひととき ~平山麻美さんインタビュー この記事は2019年11月12日に掲載しております。

東京藝術大学大学院修士課程を修了し、ソロ、室内楽、指導と多岐にわたる活動を繰り広げている平山麻美さん。2019年12月24日、東京文化会館で開催するリサイタルでは、ベートーヴェン、ブラームス、ショパンの後期の作品を取り上げ、作曲家たちの内面に迫る意欲的なプログラムを披露する。

Profile

マルタ・アルゲリッチの宝石箱をひっくり返したような音色に導かれて。

 大分市出身の平山麻美さんの音楽との出会いは、ヤマハ音楽教室。ジュニアオリジナルコンサート海外公演に参加するなど、小さい頃からさまざまなステージで活躍した。

「生粋のヤマハっ子でしたね。とにかくピアノが大好きで、のびのびと音楽に触れ、楽しく学びました。オリジナル作品の創作も好きでした。ジュニア専門コースの作曲の先生がユニークな方で、「最近、何か楽しいことあった?じゃ、曲にしてみよう」という感じで、「こっちの和声の方がおしゃれだと思うよ」「これはモーツァルト風だね」「これはラヴェル風だね」などと、作曲家という視点から楽しく音楽にアプローチすることができました。グループ・レッスンで和声を耳から学んだことも、その後とても役立っています。暗譜にもあまり苦労したことはありません。ヤマハ音楽教室で学んだことは、私の基礎になっています」

 ピアニストを目指すきっかけとなったのは、大分県で毎年開催されている別府アルゲリッチ音楽祭。マルタ・アルゲリッチの演奏を聴いて、大きな衝撃を受けたと語る。

「第1回の音楽祭を母と一緒に聴きに行ったんです。アルゲリッチさんの演奏を聴いて、本当に驚きました。宝石箱をひっくり返したようなキラキラした音が、客席に降り注いでにきたように感じました。「ピアノからこんなにいろんな音が出るんだ!」「ピアニストってこういう人なんだ!」と子ども心に思ったのを覚えています。その後、ほとんど毎年聴きに行っていますが、私が強く惹かれるのは、アルゲリッチさんの緩徐楽章の繊細な表現、美しく儚い音です。もちろん速いパッセージのアグレッシヴな演奏も素敵ですが、ゆっくりと弱音で紡ぎ出す音楽に魅せられました」

 大分高等学校特別進学コース音楽科を経て、東京藝術大学に進学する。

「勉強も好きだったので、音楽の道に進むべきかどうか迷ったのですが、中学3年のときに参加したコンクールで第1位をいただき、この道に進む決心をしました。中学・高校時代に師事した中島利恵先生、高良芳枝先生、東京藝大で師事した多美智子先生には厳しく鍛えられましたが、子ども時代にのびのびと学んだ私の感性を大切にしてくださり、いつも適切なアドヴァイスをしてくださいました」

ソロ、室内楽、指導、3つの活動を通してピアニストとして成長していきたい。

 大学・大学院時代に、声楽や弦楽器、管楽器を専攻する友人たちに伴奏を頼まれたことから、室内楽の魅力に惹かれ、現在はソロの演奏活動と並行して室内楽の演奏にも積極的に取り組んでいる。

「他の楽器の音と一緒に音楽を作ることで、音色のアイディア、旋律の歌い回しやフレーズ感、内声の活かし方、ハーモニーの音程感やバランスの工夫など、ソロの演奏だけではわからない多くの発見があります。また、常に意見交換しながら客観的に、そして多角的に音楽を捉えることができます。これは本当にソロを弾いているだけではわからないことなので、貴重なことをたくさん学んでいると思います。尊敬する仲間たちと試行錯誤しながら音楽を共有する時間は本当に幸せで、仲間に恵まれていると実感しています」

 ライフワークとして室内楽シリーズ「Mariage de Piano~ピアノと楽器との音のマリアージュ~」を企画している。

「学生時代から切磋琢磨してきた仲間たちと何か一緒にできることを考えようと、ピアニストの私が中心になって室内楽シリーズを企画することになりました。友人たちも国内外で活躍していて忙しいのですが、音と音で会話し、一緒に音楽をつくり上げるアンサンブルが大好きで、集まって演奏するのを楽しみにしています。このシリーズは東京と大分で定期的に開催していますが、長く続けていきたいと思います。また、朝日カルチャーセンター新宿校で、バイオリニストの土岐祐奈さんとベートーヴェン《バイオリン・ソナタ》全曲の講座をスタートしました。毎回1曲ずつ解説しながら演奏するのですが、ベートーヴェンの室内楽作品が、後の作曲家に与えた影響や可能性について様々な角度から考え、ベートーヴェンの魅力、室内楽の楽しさを伝えたいなと思っています」

 後進の指導にも力を入れている。

「指導も、私の中で大きな位置を占めています。何よりも大切にしているのは、感性を育てること。芸術は感性から生まれて、感性に届けるものだと思うので……。生徒さんたちが演奏することに喜びを感じ、練習したくなるようなレッスンを心がけています。そして、作曲家が想いを込めて書いた楽譜に誠実に向き合い、それを音にして表現することの素晴らしさを伝えるために、私自身が演奏者であり続けなければならないと思っています。教えることで、学ぶこともたくさんあります。生徒さんたちのひたむきに音楽に向き合う姿から、たくさんのエネルギーをもらっています」

ヤマハCFXのエレガントな音色で、作曲家たちの晩年の心情を描き出したい。

 12月24日に東京文化会館で開催するリサイタルでは、ベートーヴェン《ピアノソナタ第30番 Op.109》、ブラームス《4つの小品 Op.119》、ショパン《ピアノソナタ第3番 Op.58》を中心にしたプログラムで、作曲家たちの晩年の内面に迫る。

「クリスマス・イヴには重いかなというプログラムですよね(笑)。修士課程の論文で、ベートーヴェンの後期の作品を取り上げたのですが、それまでは後期の作品には触れてはいけない、すごく遠いものというイメージがあったんです。でも、文献を調べているうちに、ベートーヴェンをすごく身近に感じるようになりました。一般的なベートーヴェンのイメージは、力強く男性的で頑固……、でも、後期の作品には、温かく人間的な精神があふれています。ブラームスも、スケールの大きなシンフォニーを書き、無骨なイメージがありますが、晩年に繊細なピアノ作品を残している。逆にショパンは、病が悪化して弱っていく時期に、こんなに力強い作品を残している。作曲家たちが最後に見たものは何かというところを探求しようと、このような選曲にしました。
リサイタルの冒頭には、作曲家たちが敬愛してやまなかったバッハの《イタリア協奏曲》を置き、クリスマス・イヴのステージを明るく華やかに始めたいと思います。クリスマス・イヴの夜、作曲家たちの心の声が届くよう祈りを込めて音を奏でたいと思います」

 ヤマハCFXの色彩豊かな音色で、作曲家たちの心情を描き分けるのが楽しみだと語る。

「CFXを弾いて、最初に思ったのは、エレガントな音だなということ。でも、さぁ、行くぞ!とエンジンをかけたときには、力強く付いて来てくれる。意思の疎通がしやすい、想いがそのまま音になる楽器だと思います。倍音が豊かで、音色のアイディアが次々に湧き、ペダルを工夫すると、さらにいろいろな響きが生まれる。東京文化会館のステージにどんな音の世界が広がるか、とても楽しみです」

Textby 森岡葉

※上記は2019年11月12日に掲載した情報です。