ピアニスト:梅田智也  - 2台ピアノならではのベートーヴェン《第九》の世界を描き出したい ~今田篤さん、梅田智也さんインタビュー この記事は2021年11月21日に掲載しております。

国内外で活躍する若手実力派ピアニストの今田篤さんと梅田智也さんのデュオリサイタルが2021年12月15日、銀座のヤマハホールで開催される。東京藝術大学の同期として互いに刺激し合いながら学んだというおふたりに、2台ピアノによるベートーヴェン=リスト《交響曲第9番》に挑む意気込みなどを語り合っていただいた。

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学生時代の忘れがたい思い出

 東京藝術大学の同期で、2018年の第10回浜松国際ピアノコンクールでは、梅田さんが日本人作品最優秀演奏賞を受賞、今田さんは第4位に入賞するなど、切磋琢磨しながらピアニストへの道を歩んできたおふたりの出会いは高校3年のとき。

今田「藝大受験を控えた12月に参加した愛知ピアノコンクールで初めて会いました。その後、メール交換などをして、藝大受験のときは受験番号が近く、1次試験から3次試験までいつも同じグループで、3次試験の後、JR上野駅のレストランでハンバーグを食べたんですよね。覚えてる?」

梅田「覚えてる! 試験終わった~!って(笑)。そこから親しくなったけれど、学生時代は会えば話す程度だったかな」

今田「あとは、イェルク・デームスのコンサートに一緒に行ったこと。埼玉県のホールで、駅からバスで15分以上かかるのに歩いて……、ちょっと遅刻しちゃったけど、いろいろな意味で衝撃的で、忘れられないコンサートだった」

梅田「寒くて暗い道をひたすら歩いてね」

今田「デームスの演奏は晩年で傷はあったけれど、巨匠の音と表現の凄さに圧倒されたよね」

梅田「ショパン作品のプログラムで、《バラード第3番》とかマズルカなど、シンプルな音楽づくりの中に、彼のたくさんのアイデアと人間的な温かさが共存していて、心動かされました」

2台のCFXの多彩な音色が響き合い溶け合う

 国内外で多くのコンクールに参加しているおふたり、同期のライバル?と尋ねると、そういう意識はまったくないと語る。

梅田「僕は今田くんのピアノが大好きで、コンクールやコンサートで久々に聴くと、また進化しているなといつも刺激されます」

今田「僕もそうですね。梅田くんはすごく繊細で、独自の世界を突き詰めている。ちょっとしたパッセージにも想いが感じられて……。聴いていて、あぁ、このハーモニーが好きなんだなとか、いろいろ伝わってきて刺激されますね」

 そんなおふたりが、2台ピアノによるベートーヴェン=リスト《交響曲第9番》に挑む。

梅田「2年前に東京音楽コンクールの入賞者が出演するリサイタルシリーズ『上野 de クラシック』で、ブラームスの《2台のピアノのためのソナタ》を一緒に演奏したんですが、ピアニストとしてタイプはまったく違うのに、自然と同じ方向に音楽や表現を擦り合わせることができて嬉しかったんです。新たな発見もたくさんありました。今回もあのときと同じように2台のヤマハCFXで《第九》を演奏できることが、とても楽しみです。」

今田「会場も曲目も違いますが、2台のCFXの音色が溶け合ったときの気持ちよさを経験しているので、僕も楽しみです。オーケストラのサウンドをピアノで再現するのは難しいですが、CFXはオーケストラに負けないくらいの音色の多彩さを持っているし、パワーもあるし、抒情的な柔らかく美しい表現もできる楽器なので、2台ピアノならではの《第九》を聴いていただけると思います。レコーディングでも使わせていただいたヤマハホールとの相性も抜群で、333席のホールに2台のCFXがどのように響くのか、ワクワクしています」

梅田「やはりリストの編曲だけあって、ヴィルトゥオーゾ的なパッセージが多く、練習には苦労していますが、音響的に緻密に計算されているので、ピアノならではのアプローチを楽しんでいただけると思います」

今田「ピアノという楽器の可能性を最大限に活かした編曲は本当に凄いですね。さすがリストだなと……。さまざまな楽器をイメージしながら演奏すると、表情が変わるんです。ふたりのイマジネーションが相乗効果を生み出し、ヤマハホールと2台のCFXが一体となって、新鮮な《第九》の世界を描き出せたらいいですね」

梅田「でも、やっぱり緊張しますね。75分弾き続けるというのは初めての経験ですし」

今田「ソロで75分弾くことはないですからね」

ピアニストとして挑戦し続けたい

 今田さんはイギリスとドイツで学び、梅田さんはオーストリアで学んだ後、現在は母校の東京藝術大学で非常勤講師を務めるなど、指導活動にも力を入れている。今後の抱負などを伺った。

梅田「今まで勉強してきたことや、教わったことを伝えるのは素晴らしいことだと思うんですよね。生徒たちには自分の考えを押し付けず、一緒に考えるというスタンスで接しています」

今田「僕も若い人たちと関わるのは楽しいですね。教えることで学ぶこともたくさんあって……。でも、まだ安定の方向には向かいたくなくて、コンクールにも、もう少し挑戦しようと思っています」

梅田「今、国際コンクールはたくさんの国で行われていて、規模も課題曲も様々。自分に合ったレパートリーと共に、僕ももう少しトライしたいと思っています」

今田「コンクールという機会を使って、作曲家や楽曲への理解が深められるんですよね」

梅田「コンサートとは違う緊張感、アプローチがありますよね。チャレンジしている姿勢を生徒たちに見せることも大切かなと……。僕たちのデュオも継続していけるといいですね」

今田「《第九》はやはり大曲なので、ずっと探求していきたいですよね。ピアノ・デュオはラフマニノフ《交響的舞曲》の2台ピアノ版など、素敵な作品がいっぱいあるし、ソロとは違う魅力があって勉強になるので、続けていけたらいいなと思います」

 日本のピアノ界の次代を担うお二人のベートーヴェン=リスト《交響曲第9番》は、ヤマハCFXとともに、唯一無二の世界を届けてくれるのだろう。
新型コロナウィルスに翻弄された1年だったが、どんな状況下であっても高みを目指すお二人の演奏は、明るい未来への扉を開くコンサートになるに違いない。

Textby 森岡 葉

※上記は2021年11月21日に掲載した情報です。