ロシアのエカテリンブルグに生まれ、モスクワ音楽院で学んだイリヤ・イーティンさん。精巧なテクニックと詩情あふれる音楽で世界的に高い評価を得ている。2025年2月2日、東京文化会館小ホールで開催するリサイタルで取り上げるのは、スクリャービンとラフマニノフのプレリュード。「銀の時代」を代表する2人の作曲家について、熱く語っていただいた。
© Shigeto Imura
- イリヤ・イーティン
ピアニスト
- 突出した才能と卓越した技法を持つピアニスト イリヤ・イーティン。
モスクワ音楽院を最優秀で卒業。L.ナウモフ氏に師事。
「彼の音楽は、誠実で温かく、詩的で、ロマンティズムに溢れている。」と名教授レフ・ナウモフ教授のエピソードにある。 リーズ国際ピアノコンクール審査員全員一致の第1位受賞、並びに近現代音楽部門 第1位、BBC放送聴衆賞受賞。ラフマニノフ国際コンクール第2位。
ウィリアム・カペル国際ピアノコンクール第2位、クリーブランド国際コンクール第1位、並びにショパン賞受賞。
アールトゥール・ルービンシュタイン国際コンクール第3位。ジーナ・バッカウァーコンクール第3位、並びにモーツァルト賞、並びにプロコフィエフ賞受賞。
クリーブランド管弦楽団、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、他多数共演。S.ラトル、N.ヤルヴィ、V.シナイスキー、C.ドホナニー、Y.クライツヴェルク、M.プレトニョフ、井上道義 他著名な指揮者とも共演。
2012年~2013年、ピューリッツァー賞作曲部門受賞者 Y.ワイナー氏が、彼のために書かいたピアノソロ曲が、世界初演をすることになった。
リンカーンセンターにてモーツァルトフェスティバル(ニューヨーク)、アルデベルグ
フェスティバル(イギリス)、バス フェスティバル(イギリス)、トゥルースにてジャコビンズピアノフェスティバル(フランス)、サンクトペテル・ブルグにて、ゲルギエフ監修 マリンスキー劇場フェスティバル(ロシア)、ウルムにて、ヨーロッパ音楽プロジェクト
フェスティバル(ドイツ)、ヘルシンキ・ピアノフェスティバル(スウェーデン)、ラビにて、ミケランジェリフェスティバル(イタリア)他多数のフェスティバルに招聘され演奏会を行う。
ヴァイオリニスト イダ・ヘンデルとの共演のDVDをはじめ、室内楽 ベートーベン/ヴァイオリンソナタ第5番、ピアソラ/春・秋、ブラームス/ヴァイオリンソナタ第1番他、
ソロでは、ムソルグスキー/展覧会の絵、プロコフィエフ/ソナタ第6番、ラフマニノフ/
プレリュード全曲演奏 他。また、CDにおいては、ムソルグスキー/展覧会の絵、プロコフィエフ/ソナタ第6番、ベートーベン/協奏曲第2番 他多数リリースされている。
年間数多く世界で、演奏会をこなす。銀座王子ホール、紀尾井ホール、東京文化会館などでリサイタル開催。フィリアホール、王子ホールなどで、N響コンサートマスター篠崎“マロ”史紀とのデュオリサイタルを開催し話題を呼ぶ。篠崎氏を第一回目のゲストとして、イリヤ・イーティンと仲間達(室内楽)、イリヤ・イーティンとN響の仲間たちを開催。
プリンストン大学・ゴランスキー・インスティテゥートクラスに毎年招かれ、マスタークラスを、またジュリアード音楽院、UCLAでマスタークラスに招かれている。2017年からウラル大学に招聘され、2018年ウラル国際音楽コンクールピアノ部門の審査委員長を務める。日本音楽コンクール、及び仙台国際コンクールの審査員を務める。現在、武蔵野音楽大学客員教授。
あらゆる芸術が花開いたロシアの「銀の時代」
リサイタルのプログラムは、いつも物語を創作するような感覚で組み立てているというイリヤ・イーティンさん。今回のプログラムには、どのような物語が秘められているのだろうか。
「今回はスクリャービンとラフマニノフのプレリュードを通じて、彼らの心の風景を描き出し、19世紀末から20世紀前半にかけて、文学、美術、演劇、バレエなど、あらゆる芸術が花開いたロシアの『銀の時代』を浮き彫りにしたいと思いました」
人々のライフスタイルが急激に変化した時代、ほぼ同年齢の2人の作曲家の音楽には、未来への期待、好奇心、そして漠然とした不安があったと語る。
「スクリャービンは、未来に悲劇的なものを感じていたのだと思います。当時の人々には、予測もつかないような忌まわしいものを……。彼の最後の作品には、この世の終わりというようなものを感じます。一方、ラフマニノフも、何か今あるものが終わりに近づいていることを感じ、祈りや嘆きを表現しました」
人生も作風も対照的な2人の作曲家のプレリュード
モスクワ音楽院の同級生だったスクリャービンとラフマニノフ。子どもの頃、同じ教師に師事したという縁もある2人だが、その人生、作風は対照的だ。
「2人とも裕福な家庭に育ちましたが、スクリャービンはあまり器用な生き方ができず、借金を抱えて自身のキャリアをうまく築くことができませんでした。ラフマニノフは苦労しながらキャリアをしっかり築き、結果的に成功したと思います。性格的には、スクリャービンはナルシスト、自分の世界に耽溺する傾向がありました。初期の作品はショパンの影響が強く、ショパンの未発表作品ではないかと揶揄されることもありましたが、リスト、ワーグナーの影響を経て、最終的には無調の神秘主義的な音楽にのめり込んでいきます。
ラフマニノフの音楽はロマンティックで、グレゴリオ聖歌やロシア音楽のルーツにまで遡り、時代に逆行しているなどと言われることもありますが、単に古くさいというのではなく、時代を超越した美しく壮大な音楽を追求したのだと思います。彼は商業的にも成功をおさめましたが、常に自身に批判的で、同じ作品の改訂版を何度も書いていました」
今回取り上げるのは、若き日のスクリャービンが書いた《24のプレリュード》と、ラフマニノフが生涯を通じて書き続けた10曲のプレリュード。
「スクリャービンも、生涯を通じてたくさんのプレリュードを書いています。おそらく50曲か60曲くらい。今回取り上げる作品11の《24のプレリュード》は、ショパンの作品28の《24のプレリュード》に通じるものがあります。どの曲も短く、飛翔するような魅力があります。こんなことを言うと、スクリャービンに怒られてしまうかもしれませんが、サロン向きの音楽です。一方、ラフマニノフのプレリュードは響きが重く、大きなホールで多くの人々に聴かせるように作られています。ラフマニノフも、最終的に24曲書いていて、リサイタルの前半と後半に分けて演奏したことがあります。今回は、作品3、作品23、作品32の中から10曲を選びました。まったく性格の異なる彼らのプレリュードを演奏することで、彼らの違いや時代背景を楽しんでいただければと思います」
ヤマハCFXは身体の延長のように感じられる
東京文化会館小ホールでのリサイタルシリーズで、いつも彼のパートナーとなっているのはヤマハコンサートグランドピアノCFX。
「大好きなピアノです。ヤマハCFXは、自分の身体の延長のように感じます。聴きたいと思う音が聴こえてくるのです。私は、あまり贅沢は言わない人間です。熱いお風呂に入りたいとか、シャンパンを飲みたいとか(笑)。唯一願うことは、本番の前に自分が弾くピアノをできるだけ長く弾いていたいということです。会場によっては、練習したいのなら、ほかの部屋にピアノを用意しますと言われるんですが、本番の前に練習したいというわけではないのです。それでは間に合わないですよね(笑)。そうではなく、本番で弾くピアノと語り合い、インスピレーションを得たいのです。東京文化会館小ホールでは、何時間もリハーサルができるので、さまざまなアイディアが湧いてきて、それを抑えることができないような状態で本番に向かうことができます。スクリャービンとラフマニノフ、素晴らしい世界観を持った彼らの音楽は奇跡だと思います。その奇跡を、聴衆の皆様と共有できることを幸せに思います」
Textby 森岡葉
イリヤイーティン ピアノリサイタル ~心と夢に潜む美しいメロディー=銀の時代のロシアピアニズム~
- 【スケジュール】
日程:2025年2月2日(日)14:00開演(13:30開場)
会場:東京文化会館 小ホール
出演:イリヤ・イーティン
曲目:スクリャービン:24の前奏曲Op.11
ラフマニノフ:10の前奏曲 Op.23
料金:自由5,000円(当日5,500円) 学生1,800円(当日2,000円)
お問い合わせ:ア・コルト音楽プロデュース 070-1266-0037
Profile
© Shigeto Imura
- イリヤ・イーティン ピアニスト
-
突出した才能と卓越した技法を持つピアニスト イリヤ・イーティン。
モスクワ音楽院を最優秀で卒業。L.ナウモフ氏に師事。
「彼の音楽は、誠実で温かく、詩的で、ロマンティズムに溢れている。」と名教授レフ・ナウモフ教授のエピソードにある。 リーズ国際ピアノコンクール審査員全員一致の第1位受賞、並びに近現代音楽部門 第1位、BBC放送聴衆賞受賞。ラフマニノフ国際コンクール第2位。
ウィリアム・カペル国際ピアノコンクール第2位、クリーブランド国際コンクール第1位、並びにショパン賞受賞。
アールトゥール・ルービンシュタイン国際コンクール第3位。ジーナ・バッカウァーコンクール第3位、並びにモーツァルト賞、並びにプロコフィエフ賞受賞。
クリーブランド管弦楽団、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、他多数共演。S.ラトル、N.ヤルヴィ、V.シナイスキー、C.ドホナニー、Y.クライツヴェルク、M.プレトニョフ、井上道義 他著名な指揮者とも共演。
2012年~2013年、ピューリッツァー賞作曲部門受賞者 Y.ワイナー氏が、彼のために書かいたピアノソロ曲が、世界初演をすることになった。
リンカーンセンターにてモーツァルトフェスティバル(ニューヨーク)、アルデベルグ
フェスティバル(イギリス)、バス フェスティバル(イギリス)、トゥルースにてジャコビンズピアノフェスティバル(フランス)、サンクトペテル・ブルグにて、ゲルギエフ監修 マリンスキー劇場フェスティバル(ロシア)、ウルムにて、ヨーロッパ音楽プロジェクト
フェスティバル(ドイツ)、ヘルシンキ・ピアノフェスティバル(スウェーデン)、ラビにて、ミケランジェリフェスティバル(イタリア)他多数のフェスティバルに招聘され演奏会を行う。
ヴァイオリニスト イダ・ヘンデルとの共演のDVDをはじめ、室内楽 ベートーベン/ヴァイオリンソナタ第5番、ピアソラ/春・秋、ブラームス/ヴァイオリンソナタ第1番他、
ソロでは、ムソルグスキー/展覧会の絵、プロコフィエフ/ソナタ第6番、ラフマニノフ/
プレリュード全曲演奏 他。また、CDにおいては、ムソルグスキー/展覧会の絵、プロコフィエフ/ソナタ第6番、ベートーベン/協奏曲第2番 他多数リリースされている。
年間数多く世界で、演奏会をこなす。銀座王子ホール、紀尾井ホール、東京文化会館などでリサイタル開催。フィリアホール、王子ホールなどで、N響コンサートマスター篠崎“マロ”史紀とのデュオリサイタルを開催し話題を呼ぶ。篠崎氏を第一回目のゲストとして、イリヤ・イーティンと仲間達(室内楽)、イリヤ・イーティンとN響の仲間たちを開催。
プリンストン大学・ゴランスキー・インスティテゥートクラスに毎年招かれ、マスタークラスを、またジュリアード音楽院、UCLAでマスタークラスに招かれている。2017年からウラル大学に招聘され、2018年ウラル国際音楽コンクールピアノ部門の審査委員長を務める。日本音楽コンクール、及び仙台国際コンクールの審査員を務める。現在、武蔵野音楽大学客員教授。