ピアニスト:パヴェル・コレスニコフ  - 世界が注目する若手期待のピアニスト パヴェル・コレスニコフ ヤマハホール公演前インタビュー この記事は2019年5月14日に掲載しております。

2012年のホーネンス国際ピアノ・コンクールでの優勝以来、世界各地で活躍し、2014年ウィグモアホールでのデビューリサイタルではザ・テレグラフ紙が5つ星の評価を付け「長い事ロンドンで聴く事がなかった最も忘れがたいコンサートのひとつ」と絶賛した注目のピアニスト、パヴェル・コレスニコフがヤマハホール・コンサート・シリーズに初登場。昨年ヤマハCFXで収録しリリースしたルイ・クープランの新譜について、またヤマハホール公演への意気込みを聞いた。

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Q1. 昨年3月にリリースしたルイ・クープランのクラヴサン曲をCDの収録曲として取り上げることにしたきっかけや理由を教えてください。

クープランの音楽には思いがけず偶然出会いました。その音楽の質の高さ、比較的まだあまり知られていない曲達の創造性、独自性に驚かされました。
厳密に言うと、チェンバロに特に興味のない聴衆(音楽ファン)には、ほとんど知られていないのではないかと思います。その曲たちは、フランスのチェンバロの伝統の起源であると思います。しかし、その作風はチェンバロ曲の典型的なものではなく、リュートの音や、人の歌声をも聞こえてくるかのような音楽です。それが、今回のレコーディングの元となる考えした。もちろん、すばらしい音楽の演奏に挑戦したかったですし、チェンバロの愛好家だけでなく多くの音楽ファンとその素晴らしさを届けたいと思ったこともきっかけです。

Q2. 貴方にとって、ルイ・クープランとはどのような存在でしょうか。

奇妙な事に、クープランの声が私の感動を呼んだわけではありません。たぶん、こう言った方がいいかもしれません、私の心を引っかくのです、優しくなでる様子ではなく。それは力強く、独特で、とても激しく。でも時々穏やかで優しく、感傷的なのです。
彼の右に出る者は無いのは皆思っている事ですが、私は、きっと彼はやっかいな天才肌の芸術家だったに違いないと感じるのです。アレクサンダーマックイーンや、エイミーワインハウスのように。彼は物事を、直接的に、シンプルに、直球にすごい力で表現する才能があったと思います。

Q3. 今回はヤマハCFXを使用して、準備された二つのアクションを曲によって使い分けて使用したそうですね。まずCFXを今回のレコーディングで使用することにした理由と、実際にレコーディングで使用した印象をお聞かせ下さい。

今回のレコーディングの最初に、私はクープランと近づくある音色をイメージしました。繊細で、透き通るようでいて、力のある音色が必要でした。ずっとその音を捜し求めていましたが、なかなかそういう楽器には出会えず、もうそのような音は夢で、無理なんじゃないかとほとんど諦めかけていました。そんな時、ロンドンでCFXのある1台に出会い、まさにその音だと思いました。少し調整は必要でしたが、求めていた全てがそのピアノにはあったのです。

Q4. 二つのアクションを使い分けてみた効果は如何でしたでしょうか。

使用した2つのアクションは、とても違いがありました。1つは暗く、少しメローな音を生み出し、もう一方はとても軽く、明るい色彩を持ち、透明感がありはっきりした音。ただ、表現の幅を広げ、色彩豊かにしたくてその両方を使いました。また、いずれかのアクションを、曲の全てに使った曲もありますし、時には、一部の楽章、小節のために変えて使ったこともありました。もちろん、とても自然に(スムーズに)編集しましたので、1曲の中でアクションが変わった瞬間を、自分自身でも、はっきり言い当てられないかもしれないくらいです。

Q5. 今後レコーディングやリサイタルで取り組みたい作曲家や作品はありますか?

今、とてもエキサイティングで大きなプロジェクトに取り掛かっています。心配なのは練る時間があるかどうかです。この春には、ヴィオラ奏者のローレンス・パワーと、ブラームスのヴィオラとヴァイオリンソナタ全曲を1つのコンサートで演奏する予定です。それから夏の終わりには、レイナルド・アーンのレコーディングがあり、ショパンの即興曲のCDもリリースされます。それと同時に、ラモーの作品の編曲された2台ピアノ版にもサムソン・ツォイと一緒に取り組む予定です。もちろん、次のシーズンに向けて2つのリサイタルプログラムも準備していますし、最近結成したトリオアドベンチャーの活動も計画しています。もう紙に書くだけでもちょっとコワイくらい忙しいスケジュールですね。

Q6. 6月のヤマハホール公演の曲目について、意図や想いなどをお聞かせください。

ブラームス晩年の傑作《3つの間奏曲》Op.117は、かなり前から私の中でずっと気になっている作品でした。ブラームスへの完全な傾倒とまでは言いませんが、《3つの間奏曲》をプログラムに入れるアイディアは長年温めていたもので、その時が来るのを待っていたような気がします。では実際どのようにプログラムに入れるべきか?この作品を構成する3つの小品は、ひとつひとつが豊かで凝縮されており、かつ謙虚で親密であるがゆえ、それらがプログラムの中で存分に賛美されるよう大切に演奏すべきだと思いました。
どこからこのアイディアが浮かんだと思いますか?ある日の午後、散歩をしているときにふと、それぞれの小品を個々の作品として際立たせてみようと思い立ったのです。3つをセットで弾くのはもしかしたら贅沢すぎるかもしれない、それならば1曲ずつ離してひとつひとつの曲の展開をじっくりと味わえるよう十分なスペースと時間を与えてはどうかと。
ブラームスほど有機的に文化の構造にのめり込んだアーティストは他にいません。彼の作品をぶどうに例えるなら、ブラームスという古いつるから実をつけたぶどうは、それを育てた土壌の産物です。つまり《3つの間奏曲》は、私たち自身、夢、そして本質を究極に圧縮した形で完璧に表現した作品なのです。
詩人が詩を読みながら思いを巡らすように、私もそれぞれの曲に身を委ね、作品自体が向かう方向に導いてもらおうと思います。その方向はわかりやすいものもあれば、思いもよらないものもあり、こんな速くこんな遠くに連れて行かれたのかと驚かされることすらあります。今回考え出したプログラムは、面白く少し風変わりでもありますが、こんなことが思いつくなんて幸運なひらめきだと思いませんか?

Q7. 昨年リサイタルとしては初の日本公演を行われ、大好評でしたね。日本でもどんどん増えつつある貴方のファンに対して、メッセージをお願いします。

日本は私にとって、とても魅力的で、異国情緒あふれる(エキゾチックな)場所です。まだ数回しか訪れた事はないですが、多くの人がそうであるように、日本の方々の、クラシック音楽に対しての熱望と嗜好、味わい方に深く感銘を受けました。東京で、私のこの特別なプログラムをみなさんに聴いていただくのがとても楽しみです。

Textby 編集部

※上記は2019年5月14日に掲載した情報です。