- ピアニストには、ピアノの面白さ、素晴らしさを積極的に伝えていく使命もある ~仲道郁代 ピアノ・フェスティヴァル Vol.2~ この記事は2019年3月29日に掲載しております。

2017年、演奏活動30周年を迎えた仲道郁代は、2018年から新たなプロジェクトをスタートさせている。「仲道郁代 Road to 2027プロジェクト」と題した2本のリサイタル・シリーズ(ベートーヴェンのピアノ・ソナタを核にしたシリーズ、自身のピアニズムとピアノの深い味わいを追求するシリーズ)、そしてスター・ピアニストたちによるピアノの祭典「仲道郁代 ピアノ・フェスティヴァル」だ。2019年7月の第2弾となるこの祭典について、熱く語っていただいた。

エキサイティングで、絢爛かつ豪華なサウンド

 東京・池袋の東京芸術劇場のステージに5台のフル・コンサート・グランドピアノを並べ、8人の名手たちが腕を競い合いながら、見事なアンサンブルを披露してくれた2018年の第1弾。ヤマハCFX2台を中心に、扇形に設置された5台のピアノを見ただけで圧倒された人も多かったことだろう。

「1階席からだと分かりにくいのですが、2階席から眺めると、まさに壮観。世界最高峰のピアノが5台も並んだ姿を見て私たちも感激し、写真を撮り合っていました(笑)」

 コンサートの前半は出演者が代わる代わるデュオを組み、後半には全員によるアンサンブルが用意されていた。

「5台のピアノが鳴ると、どんな音がするのか、お客様も想像できずにいらしたと思います。エキサイティングで、絢爛かつ豪華なサウンドが響いた時には、私たちピアニストも弾きながらゾクゾクしていました。ヴィルトゥオーゾ的な技術的に難易度の高い編曲で、それぞれが火花を散らすようにして取り組まなければ成立しない作品をずらりと並べ、私たちも『出演』ではなく『参戦』だね、と言いながら舞台に臨みました。仲間の前では弱音を吐くことができないこともあって、全員が頑張りました」

 ピアノとピアノ音楽を心から愛する、仲道ならではの企画だともいえる。

「ピアノの魅力を多くの方々に楽しみながらお伝えしたいと、『お祭り』に仕立てたのです。ピアニストには、ピアノの面白さ、素晴らしさを積極的に伝えていく使命もあると思い、それを実現するあり方のひとつとして。ピアニストは普段は孤独で、ガラ・コンサートなどで楽屋が一緒になることはあっても、共に演奏する機会はとても少ない。だからピアノだけによるアンサンブルの機会を作りたいという思いもありました。前回の出演者の方々も、難しい曲で大変だったが、とても楽しかったと言ってくれました」

ベテランから若手まで、多彩な実力派が終結

 2019年7月の第2弾は仲道以外に5人が登場する。その5人について仲道がコメントをしてくれた。まずはショパン・コンクール入賞の横山幸雄。

「皆さんご存じの通りのスーパーマン。なんでもできてしまう人で、今回はオペラ『カルメン』のテーマを使って、5台ピアノの作品も書いてくれました。とにかく弾くのが難しいのですが、かっこよくて色っぽくて、タイトルのそのままに『誘惑と幻想』の世界。音作りが宇宙的で、しかもピアノの魅力を引き出しているのも素晴らしいところ」

 モーツァルト・コンクールで日本人として初優勝を飾った菊地洋子。

「お話をしていてとても魅力的なお人柄を感じました。ぜひモーツァルトのデュオ・ソナタで共演したいと思って、お願いしました」

 ロン・ティボー・コンクールで第3位に入賞し、前回のフェスティヴァルにも出演した實川風。

「前回は急に出演をお願いすることになったのですが、非常に確かで要にもなってくれました。堂々としていて実直な方と感じました」

 モスクワ音楽院に日本人初のロシア政府特別奨学生として入学した、松田華音。

「芯の強さと若いエネルギーを持った方と聞いています。丁々発止のコンサートなので、その強さを発揮し、ステージを華やかにしてくれることと思います」

 そして藤田真央。18歳でクララ・ハスキル・コンクールに優勝。

「日本のコンクールの審査員を務めた折りに、藤田さんの演奏を聴き、音のセンスや音に対する感覚が素晴らしいと思いました。それ以後の活躍が目覚ましくて、これからも注目していきたい人です」

どの曲をとっても聴きどころ満載

 今回も前半にデュオ、後半が5台ピアノというプログラム構成だ。

「最初のモーツァルトの2台ピアノのためのソナタは、『のだめカンタービレ』でも使われていた曲で、親しみがあると思います。楽章ごとに人が入れ替わりながら6人によって弾きます。ピアニストが替わると演奏も変わることが、とてもよく分かると思います。次の『月の光』でしっとりと聴いていただいた後は、おしゃれで美しい編曲の『白鳥』、色彩感にあふれた『エスパーニャ』が続き、そして、愁いを帯びつつ盛り上がる『ダッタン人の踊り』で第1部を締めくくります。後半は、すべて当日聴いてのお楽しみ。横山さんの『カルメン』をはじめ、有名な『トルコ行進曲』にしても、難曲に仕上げられ聴きどころ満載です。その分、私たちは大変な思いをしながら弾くことになるのですが(笑)」

 ピアニストの個性の違い、各ピアノによる音色の違いなども聴きどころだ。

「演奏前に『ピアニスト・トーク』のコーナーを設けていて、全員が同じ質問に答えます。他の人の答えを聞きながら、『そんなことを考えているんだ』と、私たちも感心しています。質問はネットなどで募集する予定。私たちを困らせるような質問も、大歓迎です」

Textby 堀江昭朗

上記は2019年3月29日現在の情報です。