ピアニスト:鈴木隆太郎  - 偉大な作品を通して、自分の考えを語るピアニストになりたい。~鈴木隆太郎さんインタビュー この記事は2019年5月29日に掲載しております。

18歳でフランスに渡り、さまざまなピアニストの薫陶を受け、現在はパリを拠点に多彩な演奏活動を繰り広げている鈴木隆太郎さん。8月29日に東京文化会館小ホールで開催するリサイタルでは、ヨーロッパでの学びの集大成とも言える意欲的なプログラムを披露する。

Profile

教えを受けた先生たちから、そのときの自分に必要な栄養を吸収した

 クラシック音楽を愛する両親の影響で、幼いころからレコードやCDを聴き、自然に音楽に親しんだという鈴木隆太郎さん。毎週日曜日の夜に放映されていたテレビ番組「N響アワー」を見て、オーケストラの中で演奏するバイオリン奏者に憧れたのが、音楽家を目指す最初のきっかけだったと語る。

「よくバイオリンを弾く真似をして遊んでいました。バイオリンを習いたいと思ったのですが、音楽を学ぶのならピアノからということで、知り合いのピアノの先生のところに通うようになりました」

 習い始めてすぐにピアノに夢中になった鈴木さんは、多くの優れたピアニストを輩出している日比谷友妃子氏の門下となる。

「最初に習った先生が留学することになり、日比谷先生を紹介してくださいました。日比谷先生には4歳から18歳まで師事しました。最初のころは、ハノンやツェルニーなど、とにかく基本的なことに時間をかける指導だったと思います。でも、それがとても楽しくて……。ツェルニーをいかにベートーヴェンのように弾くかというようなイマジネーションを刺激するレッスンをしてくださって、強固な基礎を築くことができました。スケールなどのエクササイズは、今でも日課にしています」

 2000年、小学5年生のときに全日本学生音楽コンクール全国大会で第1位となり、天才少年として注目を集めた。その後、中・高一貫の進学校、栄光学園に入学し、勉学とピアノとの両立や進路について悩んだ時期もあったようだ。

「高校に進学する時点で、音楽高校に進むべきかと悩みました。結局そのまま栄光学園の高校に進みましたが、ピアノの練習時間を捻出するのは大変で、学校の休み時間に10分か15分、音楽室で練習したり……。大学受験を目指す友人たちと、センター試験までは一緒に学び、高校を卒業しました。フランスに留学したのは、自分自身の将来を見極めたかったからです。2年くらいピアノに打ちこんで、ダメだったら日本に戻って大学を受験しようと考えていました」

 高校卒業後、フランスに渡ってパリ国立高等音楽院に入学し、ブルーノ・リグット氏、オルタンス・カルティエ=ブレッソン氏、ミッシェル・ダルベルト氏、ミッシェル・ベロフ氏に師事する。

「中学2年のときに参加したピティナのコンクールで、海外招聘審査員のブルーノ・リグット先生が書いてくださった講評に魅力を感じ、ニースの講習会でレッスンを受け、ぜひこの先生のもとで学びたいと思いました。リグット先生は芸術家肌の方で、ピアニストとしてのインスピレーションをそのまま伝える情熱的なレッスンをしてくださり、タッチや音色、表現の可能性について学びました。リグット先生の後任のオルタンス・カルティエ=ブレッソン先生には、座学で学んだ音楽理論やアナリーゼ、和声学などを実際の演奏にどのように結びつけ、自分の音楽をつくり上げるべきかを学び、初めてピアニストを職業にしようと思えるようになりました。第3高等課程で師事したミッシェル・ダルベルト先生、ミッシェル・ベロフ先生には、プロのピアニストとしての生き方、恐れずに自分の考えを表現することの大切さを学んだように思います」

 現在はパリを拠点に演奏活動を展開しながら、フィレンツェでエリソ・ヴィルサラーゼ氏のレッスンを受けている。

「パリを拠点にしているのは、ヨーロッパ内での移動が便利で、さまざまな演奏の機会を得ることができるからです。当分はこのスタイルで、パリと日本を往復しながらピアニストとしての能力を磨いていきたいと思います。ヴィルサラーゼ先生には、1年に5回1週間ずつレッスンを受けています。やはりピアニズムという意味で、フランスで学んだものだけでは足りないと感じたり、ラフマニノフやチャイコフスキーなどのロシア作品を学びたいと思ったのです。ロシア・ピアニズムには、漠然と大きな音で情熱的に弾くというイメージがあったのですが、ヴィルサラーゼ先生のレッスンを受けて、繊細な弱音の表現を追求するからこそ、地響きがするような強音を思い切って出すことができるのだと気づきました。ヴィルサラーゼ先生には、音楽を見えないところから大きく引っ張っていく力、歌唱性豊かなレガートなどを学んでいます。技術的なポイントも、具体的に教えてくださいます。さまざまな先生に師事しましたが、美しい音楽をつくるという最終目標は同じで、成長段階に応じてそのときに必要な栄養を与えていただいたと感謝しています」

ヤマハCFXは思い通りの音を実現してくれる凄いピアノ

 8月29日に東京文化会館小ホールで開催される「新進演奏家育成プロジェクト リサイタル・シリーズ」では、この10年間に学んだ思い入れの深い作品の数々をヤマハCFXで聴かせてくれる。

「私のピアニストとしての魅力をさまざまな角度から聴いていただきたいと考えたプログラムです。前半はドビュッシーと、半生をフランスで過ごしたショパンの作品でまとめました。最初のドビュッシーの前奏曲は、パリに行って初めて学んだ思い出深いフランス作品です。ショパン《ピアノ・ソナタ第3番》は難しく、パリ国立高等音楽院で学んでいたころに何度も取り組んでは挫折し、ヴィルサラーゼ先生に師事して、やっと聴いていただけるところまで仕上げることができました。後半は、ドイツ系の作品。「ピアノの新約聖書」と言われるベートーヴェンのソナタは、ほぼ全曲学んだのですが、第7番は初期のソナタの中でもおもしろい作品で、大好きなソナタのひとつです。第1楽章のエネルギッシユな推進力、第2楽章の美しさ、第4楽章の何かを問いかけているようでそうでないような……、フランスで学んだ私が弾くベートーヴェンの妙味を楽しんでいただければいいなと思います。最後のリスト《ドン・ジョバンニの回想》は、修士論文で「リストによるオペラの編曲作品におけるドラマ性の変容」をテーマにしたこともあり、ただ技巧的で華やかな作品というのではなく、深く緻密にドラマ性を描き出したいと思います。

 ヤマハのピアノには、幼いころから育ててもらったと感じています。家で練習するピアノは、日本でもパリでもずっとヤマハです。本番で弾く機会はあまりなかったのですが、フランスに渡ってからコンクールでヤマハCFXを弾いて、新鮮な驚きを覚えました。自分の思い通りの音を実現してくれる凄いピアノだと……。今回のプログラムを、ヤマハCFXのオーケストラのような色彩豊かなサウンドで表現できたらいいなと思います」

Textby 森岡 葉

上記は2019年5月29日現在の情報です。