ピアニスト:大瀧拓哉  - ヨーロッパで学び、経験した事を全て出し切りたい ~大瀧拓哉さんインタビュー この記事は2020年7月13日に掲載しております。

7年間のヨーロッパ留学を終え、近現代音楽の国際コンクール覇者として本格的な活動を開始する大瀧拓哉氏。2020年8月24日の東京文化会館小ホールで行うリサイタルの意気込みやプログラムに込めた思いなど、多岐にわたる話を聞いた。

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Q1. 生い立ちやピアノを始めたきっかけ、またその中で思い出に残るエピソードなどあれば教えてください。

 新潟県長岡市の、音楽家ではないごく一般的な家庭に生まれました。母がピアノが好きだったことで、姉もピアノを習っていましたし、僕も自然とピアノを習い始めました。正直言うと小さい頃はあまりピアノにのめり込んでいなくて、のんびりと習っていたという感じです。

Q2. 本格的にピアニストを目指そうと思ったのはいつ頃ですか?またどのようなきっかけでしたか?

 きっかけはいくつかあるのですが……
一つは高校のときに音大目指そうと本腰入れてピアノを習い始めたときです。そのとき 一時的に師事した松川儒先生が僕の音楽好きを開花させてさせて下さいました。

 その後初めてアルゲリッチを聴いて衝撃を受けたこととか…。
あと愛知県立芸術大学で師事したヴァディム・サハロフ先生の演奏を隣で毎週聴いていて毎回衝撃を受けていたり……。

そのような様々な経験があってピアニストを志すようになりました。

Q3. ドイツやフランスへの留学をされていましたが、留学生活はいかがでしたか?
またご自身にとってどのような影響がありましたか?

 ドイツへは、それまで自分が学んできたことと異なることを吸収したいという思いで留学しました。実際シュトゥットガルト音大で師事したトーマス・ヘル先生は愛知のときのサハロフ先生とは真逆と言って良いくらいの違いがあり、自分の中の世界を広げてくれました。
シュトゥットガルトは小さすぎず大きすぎずという程よい街で住み心地が良く、それでいて一流の音楽家のコンサートやオペラやバレエなどが毎日行われていたので、音楽の学生として過ごすには最高だったと思います。学生席は日本では考えられないくらい安いですから、週に1回以上は必ず何かしらコンサートなどに行っていました。それが特別でなく日常的に感じられる環境というのは今振り返ると本当に素晴らしく、そこから自分の音楽感など、培われていったことは大きいと思います。
またトーマス・ヘル先生は近現代の音楽のエキスパートなのでそれらの音楽の魅力をたくさん教えていただき、かなり強く影響を受けました。その辺りから私のレパートリーは大きく変わってきました。

 その後現代音楽にのめり込んでしまった私は、フランクフルトのアンサンブル・モデルン・アカデミーというところに在籍しました。それはアンサンブル・モデルンというドイツを代表する現代音楽アンサンブルの研修生のようなもので、1年間みっちりリハーサルを行いながらヨーロッパ各地で40公演程のコンサートを行うというものでした。9人のアンサンブルメンバーだったのですが、とても国際色豊かで、自分の演奏技術だけでなく、アンサンブル能力、コミュニケーションなど、非常に多くのことを学びました。

 2016年にフランスのオルレアン国際コンクールで優勝したことがきっかけでフランスでコンサートを行う機会が増えていたので、アンサンブル・モデルン・アカデミーの後はパリに拠点を移しました。パリでも多くの人々と知り合いたかったことと、せっかくだからレッスンも受けたいという思いもあり、パリ国立高等音楽院に在籍しました。私が在籍していた第三課程というのはかなり自由な課程だったため、様々な先生のレッスンを受けることができ、また自由に演奏活動をすることも出来ました。
しかしなんと言っても、パリは音楽以外の面でも大きな影響を受けました。街並みは本当に美しいし、フランス料理は美味しいですし、また美術館にもたくさん通いました。美術館はいくつかの年間パスを買うくらいでしたが、それでも行き足りなかったくらいです。そのような点で興味の幅をグッと広げられたことがパリで得た大きな収穫かと思います。

Q4. 8月24日のリサイタルではヤマハCFXを使用して演奏されますが、ヤマハピアノについてはどのような印象をお持ちですか?

 CFXは何度か演奏させていただいたことがありますが、出したい音を無理なく自然と出せるといった印象です。ppからffまで、自分の思い描いた音を出しやすいので、楽器をコントロールしようというより、自分のやりたい音楽に集中できると思います。

 8月24日は体力のいるプログラムなので、そのような点でCFXはありがたいですね。

Q5. 当日のリサイタルに向けての意気込みをお聞かせください。

 私は昨年日本に完全帰国したばかりなのですが、帰国後本格的な東京でのリサイタルは初めてとなります。なので、これまで私がヨーロッパで7年間学んできたこと、経験してきたことを全て出し切れるようなプログラムにしました。後半に演奏するジェフスキの「不屈の民」変奏曲は現代音楽の技法を用いながらも、まるで音楽史を網羅するかのような作品で、また演奏時間1時間の超大作です。非常に中身が濃く壮大な作品なので、自分の持っている全てを出し切らなければなりません。

 元々、「不屈の民」変奏曲はディアベッリ変奏曲の影響で書かれた曲ですし、今年生誕250年ということからもベートーヴェンを弾きたいと思い、私にとって思い入れの深いソナタ第32番を選びました。またジェフスキは同時代の作品の素晴らしい演奏者としても知られており、シュトックハウゼンの作品の初演なども行なっているので、その繋がりも考えて始めにシュトックハウゼンのピアノ曲Ⅸを演奏します。

 それぞれ性質は異なりますが、古典から現代にまで受け継がれる深く豊かな精神世界を感じられるようなプログラムだと思います。特にジェフスキは実演で聴く機会が少ないので、その真価を示すような演奏ができるように努めたいです。

Textby 編集部

※上記は2020年7月13日に掲載した情報です。