ポール・ヒューズ

Paul HUGHES ポール・ヒューズ

ポール・ヒューズはトリニティ・カレッジ・オブ・ミュージックの学部生としてピアノと作曲を学んだ後、大学院に進み作曲と指揮を学んだ。

エンシェント室内管弦楽団のゼネラル・マネージャーとしてマネジメントのキャリアをスタートさせ、クリストファー・ホグウッドと共に一連の海外ツアーやレコーディングに関わる。5年後にインターナショナル・マネジメント・グループに加わり、イツァーク・パールマン、ジェシー・ノーマン、キリ・テ・カナワ、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラスの大規模なアリーナコンサートやリサイタルツアーを世界各地で開催。1993年にチーフ・エグゼクティブとして参加したロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団において、ヒューズは音楽教育に関心を持ち始め、同楽団のアウトリーチおよび教育プログラム発展のきっかけを作る。その後は、賞を獲得した映画音楽のレコーディングシリーズや海外ツアー、新しいコンサートシリーズ、音楽祭、さらにはエディンバラ国際フェスティバルとの新たな関係構築などの功績を上げる。また、ゼネラル・マネージャーとして短期間関わったモンテヴェルディ合唱団および管弦楽団では、新たなレコーディングや主要なツアー、そして新演出によるヴェルディのファルスタッフのレコーディングなどを手がけた。

1999年、BBC交響楽団・合唱団のマネジメントとアーティスティック・ディレクション全般の責任者であるゼネラル・マネージャーに任命される。主要な海外ツアー、レコーディング、数々の委嘱や初演、バービカン・センターのレジデント・オーケストラとしての成功、主要な賞の受賞など、同交響楽団におけるヒューズのリーダーシップを示す実績を上げ、現在も芸術プログラムを新しく多様な方向へと導き続けている。2013年には交響楽団・合唱団に加えてBBCのフルタイム室内合唱団であるBBCシンガーズのマネジメントも開始。BBC交響楽団・合唱団とBBCシンガーズは、ライブ演奏やテレビ・ラジオ放送、特に年に一度の音楽の祭典「BBCプロムス」を通じて、幅広い観客に音楽を届けている。

音楽教育や生涯教育に特別な情熱を注ぐヒューズは、この分野におけるBBC交響楽団およびBBCシンガーズの活動をイギリスのみならずヨーロッパ各地、アラブ首長国連邦、アジアにまで拡大すべく、海外の主催団体のネットワークとのパートナーシップ構築、特にブリティッシュ・カウンシルとの協力関係を強化している。

2015 年ホーネンスおよびロン・ティボー・クレスパン・ピアノコンクール、2014年ロン・ティボー・クレスパン・バイオリンコンクール、スヴェトラーノフおよびブザンソン指揮者コンクール、2017年中国国家大劇院の若い作曲家コンクールなど、数々の国際コンクールで審査員を務めている。

ギルドホール音楽演劇学校、王立音楽大学、トリニティ・ラバン・コンサーバトワール・オブ・ ミュージック・アンド・ダンスの名誉フェロー。

音楽以外では、演劇、旅行、料理を楽しむ。

イギリス

BBC交響楽団ゼネラル・マネージャーのポール・ヒューズ氏が、次回の浜松国際ピアノコンクールで審査員を務めることや優勝者に求める資質について、エリカ・ワース氏に語りました。

「BBC交響楽団の前で演奏するにふさわしく、ともに音楽を作り上げるのを楽しんでくれることがわかっているピアニスト、そしてオーケストラの団員が何度も音楽を協演したいと思うようなピアニストを、私は求めています」

ーーご経歴とピアノへの情熱についてお聞かせください。

ピアノのレッスンを受け始めたのは、だいたい7歳か8歳のときです。毎週ピアノのレッスンを受けて、英国王立音楽検定協会(ABRSM)の試験をグレード1から8まで受験しました。幼い頃はすべてピアノがベースでしたが、その後トリニティ・カレッジ・オブ・ミュージックに進み、伴奏者として研鑽を積みました。さらに、大学院課程で作曲と指揮のディプロマ を取得した後、伴奏スタッフとして勤務しました。当時の私は何でも初見で演奏できたため、室内楽や歌曲のレパートリーを大量に知ることができました。私は声楽が大好きです。そのため、BBC交響楽団では声楽をよく取り上げています。私がBBC交響楽団に着任してから、50をはるかに超えるオペラを上演しているのです。

ーーいつも新しい才能を発掘しようと意識していますか。

いつもです!どんな人が世の中にいるのか、いま誰がおもしろいのか、誰が新しく登場しているのか、私はそれを聞きたいのです。BBC新世代アーティスト・スキームは本当に有益で、ピアニストのパヴェル・コレスニコフをはじめ、数々の素晴らしい才能に出会いました。パヴェル・コレスニコフはかつてこのスキームに参加し、現在ではBBC交響楽団に定期的に客演しています。明日協演するハヴィエル・ペリアネスは、私たちがスペインで初めて同じ舞台に立ったピアニストです。私はアーティストを次々と試しに起用するよりも、アーティストたちとの関係を築いていく方が好きです。キリル・ゲルシュタインは心から協演したいと思わせてくる人ですし、最近ではベフゾド・アブドゥライモフの演奏をリサイタルで聞きましたが、実に見事でした。素晴らしいキャリアを始めようとする若者がそこにいるならば、私たちもそのキャリアの一部となりたいのです。

ーーこれまでにピアノコンクールの審査員をされたことがありますか。

はい。前回のロン・ティボー国際コンクールとホーネンス国際ピアノコンクールで審査員を務めました。

ーー浜松国際ピアノコンクールで審査をするのを楽しみにしていますか。

もちろんです! はじめ、小川典子さん(審査委員長)が私に審査員に加わりたいかと聞いてこられました。彼女は私に資料を渡して、マルタ・アルゲリッチも前審査員 だったと言うので、「これは大変だ!」と思いました。それからロナン・オホラが審査員にいることや、すばらしいヤニーナ・フィアルコフスカをはじめ、数名の友人がいることを知りました。

ーーこれらの審査員の方たちとは、これまでどういう活動をされてきたのですか。

小川さんは2016年2月、スイスの作曲家リチャード・デュビュニョンが作曲した協奏曲の世界初演にあたり、BBC交響楽団と共演しました。その何年も前から、音楽業界を通じて彼女と知り合っているのですが、チャリティの演奏会である「ジェイミーのコンサート」(uk.jamiesconcerts.com)での彼女の仕事には、心から敬服しています。ヤニーナと私は、2015年にホーネンス国際ピアノコンクールの審査員として初めて出会い、すぐに親しい友人になりました。ヤニーナは今年の11月、私たちが浜松に来る直前にBBC交響楽団との協演デビューを果たす予定で、イグナツィ・ヤン・パデレフスキのコンチェルトを演奏することになっています。ロナンは大親友で、素晴らしいピアニストです。私がギルドホール音楽演劇学校の理事会に加わった時に初めて彼と会ったのですが、ロナンは現在、鍵盤楽器研究科長および高度演奏研究科長を務めています。浜松でご一緒する審査員全員が興味深い方々であり、みなが同じものを求めているはずだと、私は確信しています。

ーーそれは何でしょうか?

私たちが求めているのは「可能性」だと考えています。完成品を探しているわけではありません。

ーーとは言え、受賞者たちは賞を獲得した瞬間からコンサート活動を行うことを期待されているのではありませんか?

いえ、場合によります。若い人が受賞したとして、受賞がもたらしうるキャリアをその後、心身いずれかの理由で続けられないとしたら(例えば、25回のコンサートが賞に含まれることもあります)、それは大変なことですし、彼らはまだ準備ができていない、ということなのでしょう。若い音楽家たちがコンクールをくぐり抜けた後も育てることができれば、と私たちは願っています。成長し、発展し続け、時が経つにつれてますます面白くなる人を、私は探しているのです。

ーーでも、優勝者の未来を予測することはできませんね。

ええ、もちろんそのとおりです。コンクールの間に候補者と会い、音楽家としてだけではなく、その人格を知ることにも大いに価値があると私は思っています。彼らがどんなことを話したがるのかを知りたいのです。魅力的か、あるいは興味深いのか。愉快な人なのか、それとも気難しい人なのか。そんなことを審査するわけではないだろうと思われるかもしれませんが、ある意味、これも審査の対象なのです。人格は彼らの音楽作りの一環でもあり、審査員が賞を与えることで彼らに授けようとしているキャリアを持続するために、彼ら自身が必要とする潜在能力の一環でもあります。ですから、彼らに会って交流し、その過程で彼らと会話をすることが重要だと私は考えています。

ーー「すべてを備えた」優勝者、つまり生まれながらの音楽性やテクニック、さらには自分を売り出す能力を備えた人を見出だすのは難しいと思いますか。

こうした要素すべてが一人のアーティストに備わり、それらを十分に活かすことができて「ラン・ランのような現象」を生み出せるのは、非常にまれなことです。しかし 、コンクールでの優勝は、ほんの一瞬の出来事です。その勝利が約束するものをその後も成就し続けられるかどうか、人々がお金を払って聞きたい、あるいは一緒に協演したいと思わせるようなピアニストになれるかどうかは、別の話です。

ーー新人音楽家を取り巻く状況は、20年ほど前とは異なっていると思いますか。

ええ、確かにそうですね。マーケットははるかに早く反応するようになりました。 みんなソーシャル・メディアを使っています。誰もが批評家であり、みんな自分の意見を持っていますから。

ーー音楽家はソーシャル・メディアに精通している必要があると思いますか?

音楽家も「意識」する必要はあります。SNSをやるかどうかは別として、ソーシャル・メディアは世の中にあるわけですから。音楽かは、FacebookやInstagramやTwitterに参加していないと言うかもしれませんが、彼らの演奏を見ている人たちは、SNSをやっているのです!

ーーソコロフやヴォロドスのような音楽家は、SNSをするタイプには見えませんが。

彼らはある種、彼らが音楽を通じて伝えたいことを自分の耳で聞きたいからこそ皆がコンサートに聴きにいくような、そんな音楽家なのです。コンサートに行けば、自分が完全に変容して、別世界へと連れ去られることが分かっているわけです。しかし、こうした偉大なアーティストも、キャリアを始めたばかりの頃は必ずしもそうではありませんでした。ラドゥ・ルプのようなピアニストは、あらゆることをやっていました。そうすれば、キャリアの後半において、すべてをやる必要はないと決断することができます。つまり、自分が何をしたいのか、したくないのかを選べるようになるのです。

ーーあなた以外の大多数の審査員は、コンサート・ピアニストか教師です。あなたはどのような貢献をされるでしょうか。

審査員が教師のみによって構成されていた時代から、レコード会社の役員であろうと、オーケストラの一員であろうと、音楽ビジネスの関係者が加わる時代に変わりつつあります。私は、音楽ビジネスの商業サイドにいます。ですから「この人をオーケストラの協演者に選ぶだろうか」と考えることになるでしょう。教師はテクニック的な側面を求めていますが、コンクール参加者が自分のプログラムをどのようにキュレーションしているか、そして聴衆が聞きたいと思うような内容を考慮しているかどうかについても、私は見ていきます。プログラムの終わりに近づくと、まるで鼓膜が破れて血が出そうになるような演奏の審査をしたこともあります。なにしろ、ひたすら強打、強打、強打の連続でしたから。キュレーション、練習、コラボレーションのそれぞれの分野について、私は参加者をテストするつもりです。

ーーもし、あなたを惹きつけるピアニストがいたとして、その人が必ずしも優勝しなかった場合、コンクール終了後にその人と連絡を取りますか?

もちろんです。「この勝者は本当におもしろい」と思ったら、もちろんその人と一緒にやっていきます。しかし、もし2位または3位の人の方がもっと私に語りかけてくると思ったら、その人をオーケストラとの共演者に選ぶでしょう。必ずしも優勝者を選ぶわけではありません。もっと聞いてみたい、と思わせるような何かを持つ人を、私は探しているのです。BBC交響楽団の前で演奏するにふさわしく、ともに音楽を作り上げるのを楽しんでくれることがわかっているピアニスト、そしてオーケストラの団員が何度も音楽を協演したいと思うようなピアニストを、私は求めています。

ーー数回来日されていますね。どのような経験をされましたか。

実は3月、BBC交響楽団、サカリ・オラモ、日本人のピアニスト小菅優さんと共に、全国を縦断する10回のコンサートツアーを実施したところなのです。日本はツアーをするには最高の国です。ホールはとても優れていて、聴衆は博識で熱心、運営も非の打ちどころがありません。さらに、演劇、ビジュアルアート、ファッション、アート、食べ物など、常に未来に目を向けながらも日本のすばらしい伝統を反映した活気あるアートシーンがあり、私のお気に入りの訪問国の一つになっています。
私たちは、フレンドリーで居心地のよい福岡でツアーを開始し、広島、仙台、東京、金沢、大阪、川崎、名古屋の後、東京に戻りました。ツアーの終わりには、日光の旅館を数日間訪れ、寺院や神社を見学し、温泉も楽しみました。
私が日本を最初に訪れたのは30年以上前のことになりますが、11月の再訪は、この国のことを少しずつ発見し続ける上で絶好の機会になるだろうと個人的には考えています。

ーー11月には二週間以上浜松市に滞在されますが、ヤマハの工場を訪問する機会はありますか?

ぜひ行きたいと思っています。フルコンサート・グランドピアノCFX が間違いなくトップクラスであることは分かっていますが、それだけではなく、ヤマハの洗練された高品質のデジタル楽器についても知りたいと思っています。とても多くのピアニストがデジタル楽器を所有しています。ヤマハはデジタル楽器市場を独占して投資もしており、この分野ではライバルも見当たりません。また、ピアノがどのように製造されているかを知りたいと思っています。私は、このピアノという、まるで生き物のような巨大な家具を見ながら人生を過ごしてきました。私たちは大きな畏敬の念をもってピアノを扱っています。ですから、木の板から完成品になるまで、どのような工程を経て作られるのかを見たいと思っています。
この二週間という長い期間にわたって、ヤマハの楽器が演奏されるのを聞けることを本当にうれしく思います。それぞれに異なるピアニストの演奏をすべて聞き、楽器から何を生み出せるかを目の当たりにするのは、おもしろいことだと思います。