ロナン・オホラ

Ronan O’HORA ロナン・オホラ

「オホラが奏でる音には艶があり、演奏は抒情的で感情にあふれ、経過音だけでなく全体のフォルムまで考えている。さらに、彼は天性の『細部へのこだわり』を持っている — 今回のプログラムのパッセージには、低俗さも、恍惚も、仰々しさも一切なかった」ワシントンポスト紙

世界各国で演奏活動を行うイギリス人ピアニストのロナン・オホラは、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、フィルハーモニア管弦楽団、BBC交響楽団、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団およびイギリス室内管弦楽団、アカデミー室内管弦楽団、ハレ管弦楽団、インディアナポリス交響楽団、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、オランダ放送室内管弦楽団、フィルハーモニア・フンガリカ、ブルノ国立フィルハーモニー管弦楽団、ウィニペグ交響楽団、フロリダ・フィルハーモニー管弦楽団、クイーンズランド・フィルハーモニー管弦楽団などと共演している。アメリカ、カナダ、オーストラリア、南アフリカ、そしてヨーロッパの主要各国で、ケース・バケルス、マティアス・バーメルト、ハンス・フォンク、ジェームズ・ジャッド、ユーディ・メニューイン、ブラムウェル・トヴェイ、Hans Vonk、エド・デ・ワールト、湯浅卓雄、ローター・ツァグロセクなどトップクラスの指揮者と共演し、ザルツブルグ、グシュタード、ラヴィニア、モンペリエ、バース、ハロゲイト、ブルノなどの有名な音楽祭でも演奏している。1964年マンチェスター生まれのオホラは、同市の王立北部音楽大学でリシャルト・バクスト教授に師事。ダヤス・ゴールド・メダル、ワーシップフル・カンパニー・オブ・ミュージシャンのシルバー・メダル、優れたショパン演奏家に5年に一度与えられるStefania Niekrasz賞など、数々の重要な賞を受賞している。BBCラジオ3で放送された80本を超えるコンサートを始め、ワルシャワ・ショパン協会でのリサイタルやオランダ放送室内管弦楽団との共演によるベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番のテレビ放送、BBCの二本のテレビ番組でのモーツアルトの室内楽演奏など、その演奏は世界中のテレビ・ラジオで放送されている。レコーディングも高い評価を得ており、モーツァルト、グリーグ、チャイコフスキーの協奏曲やシューベルト、ブラームス、ドビュッシー、シューマン、ベートーヴェン、ショパン、モーツァルト、メンデルスゾーン、サティのソロ、さらにフォーレ、ブリテン、ドビュッシー、ドヴォルザーク、モーツァルトの室内楽など30枚以上のCDをTring International、Virgin Classics、Dinemic、Foneレーベルから発表している。グラモフォン誌のエディターズ・チョイスに選ばれ「(ジェームズ・ジャッド指揮、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団との共演の)グリーグのピアノ協奏曲は、その新鮮さを録音しようとするならば、大胆華麗にして大仰にならない演奏に加えて、イマジネーションと極めて精緻な感情表現が要求される楽曲である。ロナン・オホラは…不思議にもこの非常に美しい録音演奏にすべての美徳を与えただけでなく、二度、三度と聞いても演奏は毎回完全に即興的で…見事なカデンツァである…」と講評された。

ロンドンのギルドホール音楽演劇学校の鍵盤楽器研究科長および高度演奏研究科長(Advanced Performance Studies)を務める。

イギリス

ロナン・オホラ氏プロフィール

ロナン・オホラ氏は、ロンドンのギルドホール音楽演劇学校で19年間にわたり鍵盤楽器研究科長と高度演奏研究科長を務めており、イギリス内外での演奏活動も定期的に行っています。この2つの柱に加えて、国内外でマスタークラスも開催しています。
日本では東京音楽大学の客員教授となっており、毎年来日してレッスンやマスタークラスで教えています。全日本ピアノ指導者協会(PTNA)でもマスタークラスを開催しています。


今はフルタイムでレッスンしながら、年間約20~25回のコンサートを行っています。両立のコツは、2つの世界を別々のものと考えるのではなく、音楽活動の2つの柱にすぎないことを理解した上で、よく計画を練ることだと思います。この考え方を徹底することが大切です。
教えることで演奏のヒントもたくさん得られますから、相乗効果もあります。

ーータイム・マネジメント

時間を最大限に活用することが大切です。3時間で6時間分の練習効果を得られる人もいれば,6時間練習して3時間分の成果しか上げられない人もいます。音楽にどう取り組むか,取り組みの質が問われるのです。

ピアノの前にいない時に何をするかも重要です。練習や準備、音楽について考えることなど,楽器がなくてもさまざまなことができます。音楽は、本質的な意味でクリエイティブな活動です。だから、ベストの自分でピアノに臨まなければなりませんし、コンサートの舞台ではエネルギーを注ぎこまなければいけません。エネルギーを費やすことは本当に大切です。本番を目の前にして、それから努力をしても、もう間に合いませんから。

「とにかく今の若い学生たちは、驚くほどよく練習します。この20年間で、いろいろなことが変わりました。ヨーロッパ、アメリカ、ロシアなどで学んだすばらしい音楽家が韓国に戻って来て、子どもたちを教えています。つまり、才能のある子どもたちは、初歩の段階から優れた教育を受けているのです。よい教師、そして子どもたちの並み外れた努力、それらの組み合わせによって今日の成功がもたらされているのでしょう。
ソウル大学だけでなく、韓国芸術総合学校ほか各音楽大学、音楽高校には、優秀な学生たちが集まって、互いに刺激し合いながら学んでいます。社会全体に競争心を煽るようなシステムが出来上がっている中で、すばらしい人材が育っているのだと思います。また、現在はインターネットやYou Tubeを通じて、20世紀初頭から今日に至るまでのありとあらゆる演奏や情報を手に入れることができます。それらに触れながら、広い視野で努力を惜しまず学んでいることが、彼らの成功に繋がっているのでしょう」

心のエネルギーもおろそかにできません。自分が弾く音楽をよく理解して、心を通わせることが大切です。アナリーゼや暗譜など、ピアノの前にいなくてもできることはたくさんあるのです。

暗譜はいい例ですね。何時間も一つの曲に取り組んでいると、いつのまにか曲を覚えてしまいますが、それは「完全に」暗譜したわけではなく、条件反射的に筋肉に刷り込まれただけに過ぎません。音楽の知識も必要になります。
ピアノを弾いていると、指が思い通りに動かないことがあります。そんなときには、曲についての知識や深い理解に基づいて、プレッシャーのかかる状況下でうまく弾けない原因を探る必要があります。こうして、曲を弾くときには、体と楽器とのかかわり方に集中します。

しかし、演奏には数段階のレベル、あるいは「次元」があります。ピアノ「で」弾くのか、ピアノ「を」弾くのかの違いです。この違いを理解することが大切です。
ピアノは便利な道具に過ぎない、という見方もあるでしょう。しかし、ピアノと本当に一体になるためには、自分とピアノがともに協力して音楽を生み出すのだということを肝に銘じなければなりません。

ーー重要なエネルギーのコントロール

たとえば、8時間教えたあとに本番で弾くのは無理ですが、大舞台の翌日に8時間教えることは可能です。それぞれ自分の違う顔を見せることになりますから、楽しみでもあります。

ーーフレッシュな心で創造力を発揮する

さまざまなことを組み合わせ、バラエティを増やすことが一番大切です。立て続けにコンサートで弾いてばかりいるのは危険です。何事もそうですが、同じことだけをしていると、精神が麻痺してしまうからです。
巨匠たちのコンサートツアーは、実にハードです。移動も多く、心身ともに健康を保つには並はずれた強靭さが要求されます。しかし、一流のピアニストに要求されるクリエイティブな要素を兼ね備えれば、すばらしい成果が得られるでしょう。

私の場合、演奏を通じてレッスンに必要な新たな視点やエネルギーを得ています。毎日レッスンばかりしていたら、今ほどよい先生にはなれないでしょう。しかし、最高のピアノ教師の中には演奏をしない人もいますから、自分の例を一般化して、一流の教師になるためには演奏が不可欠である、というつもりはありません。それぞれ、自分に合ったバランスを見出さなければならない、ということでしょう。

個人的には、たとえばソロとオーケストラのように、さまざまな音楽やジャンルを取り混ぜて、他の音楽家から学ぶことが大切だと思います。フレッシュでバラエティに富むことも大切ですが、これも人によりそれぞれ違うでしょう。
有名なピアニストの中には、膨大なレパートリーを誇る人もいれば、演奏会では限られた曲しか弾かない人もいます。しかし、国際的なピアニストはたいてい、プライベートな場ではとてつもない数の曲を弾いていることを、ここで強調したいと思います。コンサートで弾いて名声を勝ち得ている曲とはまったく違うものばかりです。たとえば、クラウディオ・アラウやホロヴィッツは、プライベートな場ではあらゆる種類の曲を弾いていました。コンサートでの演奏からは想像もつかないような曲ばかりです。

ーー室内楽

世界の一流ピアニストで、室内楽に本格的に取り組んでいない人はいないでしょう。ピアノの演奏は、実は一人で室内楽を弾いているようなものです。ご存じの通り、ハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンは、オーケストラや弦楽四重奏、あるいは歌曲から多くのインスピレーションを得ていました。ピアノの歌い方も、弦楽器のボウイングに影響を受けています。

ーーソロ演奏の課題

ソロのピアニストにはさまざまな課題があります。一人での活動が多くなるため、孤立せずに他の音楽家からインスピレーションを得ることが大切です。
ピアノだけから影響を受けた最初のピアニストは、ショパンです。ショパンの音楽は、まさにピアノから生まれたものです。1830年代から40年代にかけて、音の持続や共鳴の点でピアノは劇的に進化し、オーケストラを組み込んでいるかのように強力な楽器となりましたが、ショパンの曲は、こうした楽器の発展の影響を受けた音楽といえます。

ーー模倣の重要性

模倣は重要ですが、正しく行わなければなりません。単にコピーするだけでは、表面的なものにとどまってしまいます。楽器の本質、楽器の持つ音を模倣するためには、知識を蓄える必要があります。例えば、フルートとオーボエではまったく音が違うのです。

ーー聴く力を養う

まず優先しなければならないのは、正しく、そして注意深く聴くことです。指で聴くことはできません。指は耳の召使いに過ぎないからです。正しく聴くためには、ただ繰り返し音楽を聴くだけではなく、音楽を知らなければなりません。

ーーピアノ

ピアノは、他の楽器よりも演奏者に多くのことを要求します。他の楽器よりも物理的に複雑ということではありませんが、ピアノから最良の結果を引き出すためには、多くの知識が必要になります。

ーー想像力

想像力の持つエネルギーは、演奏を大きく左右します。ピアノはさまざまな表現を可能にしてくれますが、真のポテンシャルを引き出すには、演奏者の強い思いが不可欠です。「生きた」音を保つことが音楽において最大の課題であり、これには多大なエネルギーと想像力を必要とします。
音楽は、模倣の芸術です。自分自身にも生徒たちにも、いつもこのことを言い聞かせています。私たちはつねに、クリエイティブで新鮮な心でいなければなりません。音楽を通じてだけではなく、すべての人がそれぞれのやり方でこの課題に取り組むべきです。

ーーコンクール

成功する人たちには共通点があります。それは、自分を強く意識している、ということです。コンクールは登竜門です。自分が演奏できる最高の音楽に集中できるように、若いピアニストを後押ししてくれる機会でもあります。
コンクールの価値は、その精神や、運営方法にあります。コンクールは、公開の場で演奏を披露して才能を認めてもらえる、有意義な機会です。ピアニストになりたい人は大勢いますから、若い人たちは、まず注目してもらう必要があります。インターネットの発達により、今日では面白い現象が見られるようになりました。音楽業界のマネージャーやプロモーターたちは、コンクールの優勝者だけに関心を示すのではなく、オンラインで興味深い逸材を探すようになったのです。
コンクールにより、若いピアニストたちが一堂に会し、徹底して音楽に打ち込むようになるのは良いことだと思います。お互いによい点を吸収し、支え合うことができるからです。 コンクールは、チャンスや金銭、さらには今後活躍する上で重要な人脈を得ることができますが、その価値は、金銭面にはとどまりません。

コンクールの審査は大変でストレスもありますが、名誉なことでもあります。私たちは、責任感をもって審査に臨まなければなりません。審査員になったら、完全にコミットする必要があります。たしかに、同じ曲を何度も何度も聞くとうんざりします。しかし、参加者がどんな音楽を持っている人か、コンサート・ピアニストに求められるものを備えているかどうかを見極めることが、非常に重要です。

大勢の参加者が同じ曲を弾くのを聴くだけでは、その見極めはできません。私は、プログラムに工夫が見られる人を好ましく思います。今日のプロモーターやマネージャーも、そのような人を探しているのです。だから、レパートリーが自由に選べるほうが好ましいでしょう。音楽院の試験ではありませんから、参加者には自由に自己表現してもらいたいし、コンクールが自分の才能を輝かせる機会となってほしいと思っています。

「弾かされている」という意識で曲を演奏する人もいますが、それでは成功もおぼつきません。重要なのは、真の音楽を奏でることです。自分自身を表現しなければなりません。良いピアニストか、悪いピアニストかで点数がつくのではありません。自分が良いピアニストだと「主張」し、審査員の注目を集めることがカギです。私の採点基準は、審査員でないとしてもその人の音楽をもう一度聴きたいか、その街に自分がいたらチケットを買ってまでコンサートに行きたいと思うかです。

興味深い演奏をするピアニストと、感銘を受けるピアニストとの間には、大きな隔たりがあります。私は魅せられる演奏、音楽の本質を見通した演奏を聴きたいと思いますし、何より感動を味わいたいのです。

一次予選や二次予選の採点のほうが、審査員としては大変です。多くの人の演奏を聴かなければなりませんし、本当に優れた人も落ちることがありますから、予選終了時には心が痛みます。しかし、結果に結びつかなくても自分の演奏ができたなら、コンクールから多くのことを学び、手ごたえを感じられるでしょう。

結果はどうであれ、すべての参加者が何かを得ることが大切です。私は求められればいつでもコメントをしますが、敗退した直後には、何を言っても効果がありません。数日経って、コンクールの経験が心に沁み込んだときに受け取るフィードバックこそが、価値あるものです。

コンクールの参加者は、常にフィードバックを求めるべきでしょう。

ーー準備

オーケストラと定期的に共演した経験のある人はほとんどいないでしょうが、二台ピアノで協奏曲を弾いてきた人は多いはずで、有意気ではありますが、これは危険な面もあります。

セカンドピアノは、オーケストラ譜を集約した音を出すことができますが、フル・オーケストラとの協演は、まったくの別物です。

はじめてオーケストラと合わせると、象を連れ回すような感覚を覚えたりもしますが、二台ピアノで得られる経験はまったく異なります。演奏自体も全然違ってきます。たとえばオーケストラと共演するときには、多種多様な楽器とうまくアンサンブルできるように、意識を向けなければなりません。

協奏曲を準備するには、スコアを知るだけではなく、協奏曲を実際どのように演奏するのかを知らなければなりません。

協奏曲の演奏自体が特殊な芸術であるといえます。単にオーケストラと合わせるというだけではなく、まったく異なる経験なのです。
ピアニストとして活動し始めると、聴衆はソロ・リサイタルよりも協奏曲の演奏を重視することがよくありますから、キャリアを積む上でもとても重要です。
協奏曲では、ソロの演奏とは違った責任を担うことになります。オーケストラと連帯して、真のソリストとなるべくエネルギーを注ぎ込まなければなりません。ただ大きく弾けば良い、ということではなく、聴衆や指揮者、オーケストラを納得させる必要があります。
個人的には、十分な確信を持って演奏すれば、自分の思い通りにオーケストラを操れると考えています。

オーケストラや指揮者の反応が悪ければ、ピアニストが望んでいるものや方向性の感覚がはっきり伝わっていない可能性があります。

世界には数え切れないほどのコンクールがありますから、自分に合ったコンクールを選ぶことが重要です。大きな国際コンクールに備えて小さなコンクールに出場することも、経験を積むうえで、時には意義があるでしょう。
良質のレパートリーを選ぶことも重要なプロセスです。いつもレパートリーの難度を点検して、自分の技量に合っているかどうかを確認しなければなりません。普段勉強しないような曲を6曲やろうとしても意味がありません。自分に一番ふさわしい曲を選ぶようにしましょう。
また、コンクールが自分に何をもたらしてくれるかを考えることも大切です。賞金も魅力ですが、自分のキャリア形成に向けての踏み板にするべきです。コンクールの後にどのような支援やケアを提供してくれるのか、いつも考えましょう。コンクールに出場しすぎて、自分の人生をコンクールに支配されるようではいけません。コンクールに出る主な目的は、将来に向けて正しい準備をすることだからです。

ーープレゼンテーション

専門家に依頼して、動画などを準備することも大切です。こうしたコンテンツは短時間しか見られないことも多いので、実力を目立たせる必要があります。動画審査をコンクールの参加条件にしていることもありますので、動画によるプレゼンテーションは重要です。こうしたコンテンツは、コンクールのためだけのものではありません。ソーシャルメディアの時代ですから、他の目的にも使えることを忘れないでいてください。
質の低い動画で不利にならないようにしましょう。自分をよりよく見せるためには、良い音質での録音が不可欠です。