連日超満員となった会場の熱気に包まれて接戦が繰り広げられた第10回浜松国際ピアノコンクール。厳しい予選を勝ち抜いた6名のファイナリストがコンチェルトを披露した本選をレポートしよう。
2018年11月23日、24日に行われた本選は、第3次予選までのアクトシティ浜松中ホールから客席数2336の大ホールに会場を移し、6名のファイナリストが高関健さん指揮、東京交響楽団との共演で、それぞれ異なるコンチェルトを気迫のこもった演奏で披露した。
ファイナリスト全員が男性、しかも6名中4名が日本人というのは、コンクール史上初のことで、各メディアの注目度も高く、コンクールの盛況にさらに拍車をかけた。偶然にもファイナリストが異なる6曲のコンチェルトを選んだことも、聴衆にとっては興味深く、楽しみな2日間となった。
ファイナリスト全員が男性、しかも6名中4名が日本人というのは、コンクール史上初のことで、各メディアの注目度も高く、コンクールの盛況にさらに拍車をかけた。偶然にもファイナリストが異なる6曲のコンチェルトを選んだことも、聴衆にとっては興味深く、楽しみな2日間となった。
ファイナル1日目のトップ・バッター、務川慧悟さん(25歳)は、東京藝術大学2年在学中にフランスに渡り、パリ国立高等音楽院で学んでいる気鋭のピアニスト。プロコフィエフ《ピアノ協奏曲第3番》を、繊細な感性を活かしてスリリングに聴かせた。
2番目に登場した安並貴史さん(26歳)は、東京音楽大学大学大学院後期博士課程でドホナーニを研究する傍ら、演奏活動、指導活動を展開している。ブラームス《ピアノ協奏曲第2番》という演奏時間50分近い大曲に挑み、温かく壮大な音楽を紡いだ。
1日目最後の演奏者は、すでにピアニストとして活躍している牛田智大さん(19歳)。“ロシアの鐘”を思わせる導入部の和音から美しく深い音色を響かせ、オーケストラとの絶妙なアンサンブルで、ロマンティシズムあふれる濃厚な音楽を繰り広げ、聴衆を魅了した。
2日目のステージの最初の演奏者、今田篤さん(28歳)は、東京藝術大学を経て、英国王立音楽院の修士課程を修了。東京芸術大学修士課程も優秀な成績で修了し、現在はライプツィヒ音楽演劇大学で学んでいる。チャイコフスキー《ピアノ協奏曲第1番》を、成熟した音楽性感じさせるドラマティックな演奏で聴かせた。
続いてファイナリスト最年少のイ・ヒョクさん(18歳・韓国)が登場し、ラフマニフ《ピアノ協奏曲第3番》を演奏。5年前からモスクワ音楽院で学び、2016年、弱冠16歳で第10回パデレフスキ国際コンクールを征した俊英は、今回のコンクールの予選でも超絶技巧を駆使したユニークなプログラムを味わい深く聴かせ、難曲として知られるラフマニノフのコンチェルトを、クリアな音色を色彩豊かに響かせて楽しませてくれた。
ファイナル最後の演奏者、ジャン・チャクムルさん(20歳・トルコ)は、ワイマールのリスト音楽院で学び、2017年のスコットランド国際ピアノコンクール優勝の実績を持つピアニスト。リスト《ピアノ協奏曲第1番》を、オーケストラの各楽器との対話を楽しむかのように、のびやかな表現で聴かせた。
第1位、室内楽賞、札幌市長賞を獲得したのはジャン・チャクムルさん。第2位、聴衆賞、ワルシャワ市長賞は牛田智大さん、第3位はイ・ヒョクさん、第4位は今田篤さん、第5位は務川慧悟さん、第6位は安並貴史さん、そして日本人作品最優秀賞は梅田智也さん、奨励賞はアンドレイ・イリューシキンさんという結果となった。
小川典子審査委員長は、「今回は88名という、ピアノの鍵盤と同じ数のコンペティターが集まり、それぞれ渾身の演奏をしてくれました。彼らの個性がほとばしる演奏を受け止め、審査するのは大変なことで、大激戦だったと感じています。私の審査のポイントは、楽器のチョイス、プログラミング、限られた時間の中で演奏会として聴く人を魅了できたか、ピアノの音がきれいに鳴っていたかということでした。室内楽や協奏曲では、共演する音楽家たちとのコミュニケーションも大切なポイントでした。第1位のジャン・チャクムルさんは、成熟度の高い、まさに会場の空気を変えるような演奏を繰り広げました。“エクセプショナル・タレント(類まれな才能)”を見出すことができ、意味のあるコンクールになったと思います。すべてのコンペティターが、浜松での経験や出会いを活かして、ピアニストとして大きく成長していくことを願っています」と語り、18日間にわたるコンクールを振り返った。
第1次予選88名中39名、第2次予選24名中12名、第3次予選12名中7名、本選に進出した6名中3名が選んだヤマハCFX。
第2位の牛田智大さんは、「CFXはコントロールしやすく、第1次予選で弾いたプロコフィエフ《ピアノソナタ第7番》の作品イメージにぴったりで、自分の選択は間違っていなかったと感じました。第2次予選、第3次予選、ファイナルでも、多彩な音色で僕をサポートしてくれました。あのような素晴らしいピアノで準備したすべての作品を弾くことができ、とても幸せです」、第3位のイ・ヒョクさんは、「ヤマハのピアノは大好きです。今回のCFXは、繊細で華やかな音色を持っていて、ストラヴィンスキー/アゴスティ《火の鳥》やチャイコフスキー/プレトニョフ《くるみ割り人形》などの編曲作品を弾くとき、オーケストラの音色をイメージして情景描写をすることができました。持って帰りたいくらいです(笑)」、第4位の今田篤さんは、「弾きやすさで選びました。ファイナルのコンチェルトでも、ステージで弾いている自分の耳にしっかり音が返ってきて、これならオーケストラの音に埋もれず、客席に届いているなと安心して、思い通りの表現をすることができました」、日本人作品歳優勝演奏賞の梅田智也さんは、「以前からCFXが大好きで、第2次予選でシューベルトのソナタをCFXで弾くことを、今回の目標にしていました。第3次予選に進むことができたのは、これまでこだわってきたピアニッシモの表現が評価されたのだと思い、とてもうれしかったです」と、コンクールのステージで彼らのパートナーとなったヤマハCFXへの信頼と賞賛の言葉を語った。
また、本選の前日の11月23日の午後、ヤマハミュージック浜松店1F ステージOneで、惜しくも本選に進めなかったセミファイナリストのステファン・ボネフさん(ブルガリア)、ザン・シャオルーさん(中国)、ブライアン・ルーさん(アメリカ)、キム・ヒョンソンさん(韓国)、梅田智也さんによる『プレミアム コンサート』が開催され、詰めかけた多く聴衆が、迫力ある演奏を至近距離で楽しんだ。
このコンサートで使用されたヤマハS3Xについて、「コンクールで弾いたCFX同様、とても弾きやすく、繊細な表現もダイナミックな表現も自由自在にでき、楽しく演奏しました」(ザン・シャオルーさん)、「音の粒だちがよく、響きが豊かで、気持ちよく演奏できました」(ブライアン・ルーさん)などの声が聞かれた。
若者たちのピアノにかける夢を支えるヤマハピアノの存在を強く印象づけた第10回浜松国際ピアノコンクール。コンペティターたちの今後の活躍を期待したい。
Textby 森岡葉